第95話 閑話:女子会②
■那砂視点
花劇の翌日。
旧王都はまだ、あの素敵な劇の余韻でふわふわしているように見えた。
聞こえてくるのは劇を見た人たちの、ユナリアさん達への賞賛の言葉。
樹人の人達への好意的な意見も多くて、嬉しくなる。
――そんな、噂の渦中にいるユナリアさんと、私は今隣の席に座っている。
ユナリアさんがあと数日で帰国してしまうという事で、折角だからともっとお話をしようという話になった。
ただ、酒場は修理中で立ち入れないし、劇場車は劇の後片づけと物資の搬入で忙しそう。
ユナリアさんとどうしようかと頭を捻っていたら、カギミヤさんがクラリッサさんを連れてやってきて。
ユナリアさんとロココの服ができたからお店に来てと言われたので、相談してみました。
……気が付いたら、いつの間にやらカギミヤさんのお店で二回目の女子会を開くことになっていました。
「すっごく可愛いですよ、ユナリアさん、ロココ!」
カギミヤさんの衣装に身を包んだユナリアさんとロココに、私はうっとりとしてしまう。
「うんうん、我ながらいい腕だわ。……でも、これは流石にモデルのお陰かしら」
謙遜するカギミヤさんだけど、言いたいことは分かる。
カギミヤさんの衣装は素敵だけど、二人だからこその可愛らしさだ。
普段の精霊のようなユナリアさんと、妖精のようなロココも凄くいいけれど。
白百合のユナリアさんが黒を基調にした王子ロリィタ。
いつもドレス姿だからこその、王子ロリィタのインパクトがすごい。
髪も束ねて、かっこかわいい感じが素晴らしい。
葉族のロココは、中世的な何時もの外見から、緑を中心にしたゴスロリ姿が可愛らしい。
葉族に性別はないらしいけど、これだけ可愛いと女の子にしか見えない。
素晴らしいものが見れた事に感動して震えていると、カギミヤさんも満足そうに頷いている。
「あの、そこまで熱を持って見られますと、流石に少し恥ずかしいです」
「自分も、こんな可愛い格好は恥ずかしいのです……!」
恥ずかしそうに震えている二人が可愛すぎる。
少なくとも、この格好で外に出したら大事になるのは間違いなさそう。
……うん、私もこんな可愛いロココが居たら連れて帰ってしまいたくなると思う。
「わたしはよくわかんないから上手く言えないけど、すごくよく似合ってると思うよ」
「ぼくほどじゃないけど、いいと思うよ」
マリネちゃんとルメールさんも、うんうんと頷いてくれた。
改めて、白いフリルのテーブルクロスがかけられた丸テーブルを囲うように置かれた椅子に座る。
中庭に面した明るい部屋には、可愛らしい人形やぬいぐるみが飾られていて凄くかわいい。
磨かれた窓からは、中庭の手入れされた可愛らしい花壇がよく見える。
前回の女子会では三人だったから広かったけど、六人だと丁度いい大きさの丸テーブル。
隣に座ったユナリアさんに、どうしても熱が冷めない想いを吐き出す。
「本当に、よかったです! 綺麗で、幻想的で……何より若木の精霊さんの想いが伝わって!」
想いが溢れて、思わず手が動く程の熱を込めてしまう。
自分を守ってくれた大事な人に、長年の想いを伝えられたあの瞬間、他人事とは思えなくて泣いてしまった。
「那砂は、昨日からそればっかりなんだよ」
少し呆れたようなマリネちゃん。
「だって、本当に素敵で!」
「ふふ、そこまで想って頂けたのなら、私としても嬉しいです」
心から嬉しそうに、ユナリアさんが顔を綻ばせてくれる。
そのきれいすぎる笑顔に、思わず固まってしまう。
熱がこもって宙をさまよったままの私の手を、そっと握りしめてくれる。
「那砂様は、どこか母なる大樹と似た雰囲気をされていますから、きっと強く心に届いたのだと思います」
「「あー」」
マリネちゃんとカギミヤさんが、そろって声を上げる。
……その「あー」はどういう意味?
「でも、那砂ちゃんほどじゃなくても、広場で劇を見ていたのは大なり小なり似た感じだったわよ」
私が首を捻っていると、カギミヤさんが私の想いを肯定してくれる。
「まぁ、そうだね。わたしも那砂が興奮してるから冷静なだけで、すっごくよかったって思うし」
マリネちゃんが私を見て苦笑いしている。
……劇とか初めてだったマリネちゃんより大喜びしているのが少し恥ずかしくなってきた。
「あの場で呑まれてなかったのは、わたしを除けば領主とヴァイスぐらいじゃない?」
鉄槌置きがついた専用の椅子に座っているルメールさんの言葉に、領主様の館での打ち上げを思い出す。
確かに、打ち上げで盛り上がっていた中で、変わらなかったのは領主様とヴァイスさんとルメールさんの三人だった気がする。
「領主は、あれでも喜んでたと思うよ。すっごく上機嫌だったし」
実は領主様と幼少期からの知り合いらしいマリネちゃんの言葉に、領主様の顔を思い出してみるけど正直よく分からない。
……あの三日月みたいな笑みを浮かべる領主様の表情、正直違いがわかるとは思えない。
「ヴァイス様は、本当に動じられない方ですよね。花族でも外交を任される身としては、あれだけ動じられないと少し自信を無くしてしまいそうです」
ふわりと笑うユナリアさんの笑顔に、同性の私ですら動揺してしまう。
そんなユナリアさんを見ても欠片も顔に出ないヴァイスさんはすごいと思う。
「だって、ヴァイスはぼく以外には興味ないからね!」
自信満々に可愛らしいドヤ顔をするルメールさんに頬が緩む。
でも、ルメールさんの言う通り、人形のルメールさんにだけ心動かされるのだとしたら、それはなんでだろう?
誰が相手でも動じないならわかるけど……。
「そ、そういえば」
私がそれについて少し考えこむと、なぜか慌てたような声色でカギミヤさんが声を上げる。
「優斗くん。最近、すっごく男を上げてるみたいだけど、どうなの?」
優斗くんの話題に、頭の中がそれどころじゃなくなります。
「訓練はだいぶいい手応えだったけど、そんなに?」
ルメールさんが首をかしげています。
確かに、ルメールさんは優斗くんのすごい所にはほとんど立ち会ってないですからね。
「守ってもらった時、とても格好よかったのです!」
ロココは優斗くんの真似をしてなのか、無邪気に手を掲げてどれだけ優斗くんが格好良かったかを伝えようとしてくれる。
「うん、優斗はすごい」
「優斗様は、あの若さであれだけの想いを込められるのは本当に素晴らしいです」
ただ、マリネちゃんもユナリアさんも、優斗くんを肯定する言葉に少なからず熱がこもっているのがわかります。
カギミヤさんに思わず視線を向けると、目をそらしました。
小さく手で「ごめんね!」としてますけど!
「優斗くんは、本当に格好いいんです!」
私も、負けじと熱を込めて声を出します。
優斗くんの凄さは、私が誰よりも知ってますから!
私の声に、ルメールさんが目を瞬かせます。
「……そんなにいいなら、恋人としてはどうなの?」
「るるる、るめーるさん!?」
ルメールさんの爆弾発言に、私は動揺して声が裏返ってしまいます。
何を急におっしゃるんですか!?
動揺して立ち上がった私に向けて、マリネちゃんとユナリアさんの温かい視線が刺さります。
「わたしは優斗なら全然ありだけど、恋愛とかはよくわかんないからいいかな」
マリネちゃん!?
「優斗様が求めてくださるのでしたら、真剣に考えたいと思います」
ユナリアさん!?
「だ、だめです!」
思わず声が零れる。
頭が真っ白で、冷静じゃないのを感じながら。
「優斗くんは、渡せません!!」
私が口走ってしまった想いに。
「……顔、赤いのですよ?」
ロココの指摘で、思わず頬に手を添える私に。
何故か、みんな優しい笑顔を向けてくるのでした。




