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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第三章 ペルムシエルの花劇団
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第94話 目覚め

身体が重い。


具体的にはルメール一人分重い。


目を開けると、俺の上に猫のように丸まっているルメールの姿があった。


丸まりながらも、じっとこちらを見つめていたルメールと目が合う。


「ヴァイス!」


「ぐぇ」


俺が何か言う前に、ルメールが気付いて跳ね起き、その衝撃で声よりも先に空気が漏れる。


「零れてない? 大丈夫?」


「……今何か零れ落ちそうだったっての」


俺の事をよく分かってくれているルメールの心配に、軽口を返せるぐらいには悪くない。


とはいえ、首回りは突っ張るような違和感が残っている。


ガルドの決死の一撃に耐えたのは本当にギリギリだった。


そんな傷口が埋まってるという事は……。


「まったく、長く眠るのはお姫様の特権なのに、おっさんがその役を奪うんじゃないわよ」


声の方を向けば、そこには人形の部品を手にしたカギミヤの姿。


よく見れば、ここはカギミヤの店の二階にある、人形師としての工房だった。


確かに、旧王都でここ以上に俺を置いておくのに適した場所はない。


「カギミヤ。俺、どんだけ寝てた」


「一週間ってとこかしら。ルメールちゃんが片時も離れずにいてくれたお陰ね」


「そうか……」


カギミヤが傷を埋め、ルメールが魔力の流れを整えてくれたから一週間程度で目が覚めたのか。


「ありがとな、ルメール」


「……うん」


心配そうな顔をするルメールの頭を撫でると、目を閉じて甘えるようにすり寄ってくる。


油断はしないと言っておきながら、このざまだ。


心配かけた償いはしないとな。





「あんたが寝てる間、結構大変だったのよ」


カギミヤが人形の部品を机に置いて、こちらに向き直る。


「悪かったよ」


こちらとしても、夢かと疑いたくなるぐらいには樹鹿の森の深奥は情報過多だった。


それについても話しておきたいが、これらは領主案件だろう。


少なくとも、協力してくれているが一般人になったカギミヤに伝える事ではないだろう。


「でも、正直ルメールちゃんが受け取った伝言の前には大したことないから、その辺りはいいわ」


感情を押さえつけるような、珍しいカギミヤの声色に、とんでもない内容だと理解させられる。


「……何を伝えられた、ルメール」


頭を撫でられていたルメールが、まっすぐに俺の瞳を見つめ直す。


「枝族の人からの伝言。『国喰い』が目覚めたって」


ルメールが、淡々と告げる。


「……っ!」


その名に、俺は全身が震えるような衝撃を感じてしまう。


あれを間近で見て生き残っているのは、俺のクラスメイトの生き残りぐらいだ。


その脅威も、恐怖も、由来も。


あれが、“誰だった”かまで知っているのは、俺達だけだ。


「どうして、今になって目覚めたのかしらね」


数少ない一人であるカギミヤは、今にも泣きそうな表情でうつむく。


「わからない。わからないが、あれがもう一度戻ってきたとしたら」


――旧王都は終わる。


『国喰い』の名は比喩でも何でもない。


文字通り、国すら喰らう規模の化け物だ。


少なくとも、樹鹿に並ぶ王級相当の割者。


「このことは?」


「シンザキくんと、領主様には伝わってるはずよ。他には秘密にしてるって」


その対応は正しい。


これは無駄に広げていい話ではない。


少なくとも、この話が噂でも広まれば街はパニックになるだろう。


それほどまでに、旧王都の住民に拭えない恐怖として刻み込まれている。


「カギミヤ。領主とシンザキと打ち合わせ次第、俺はルメールと『国喰い』を探りに出る」


「無茶しない、って言いたいところだけど……ルメールちゃんを連れていくならいいわ」


無茶は承知の上だが、一週間も寝ていたなら時間が惜しい。


「ぼくには聞かないの?」


わざとらしく、すねたような表情を見せるルメールに、思わず笑みが浮かぶ。


「来てくれるだろ?」


俺が頭を撫でると、ルメールはすぐに顔がほころび、笑顔を見せる。


「当然だよ。君がために、ぼくはあるのだから」


頼りにしてるぜ、相棒。


上機嫌になってすり寄ってくるルメールを手で軽く押しのけながら、カギミヤに視線を向ける。


「俺が留守にする間、もしも来訪者が来るようだったら優斗と那砂に任せるが、カギミヤも助けてやってくれ」


「いいけど、優斗くんと那砂ちゃんはそこまでなの?」


少し驚いたようなカギミヤに、俺は苦笑いを浮かべる。


「そこまでだよ。なにせ、俺達と違って優秀だからな」


「それもそうね」


カギミヤも、苦笑いを浮かべながら頷く。


この手の自虐は、俺達の共通認識だからな。




ルメールに手伝ってもらいながら、俺が寝ている間に直してくれた樹猪の革鎧を身に付けていると、


「ねぇ、ヴァイス」


「なんだ、カギミヤ」


泣きそうな声だ。


その問いの意味を察しながらも、俺はその言葉の先を待つ。


「あの子を、終わらせてあげられるかな」


祈るようなカギミヤの言葉に。


「あぁ、今度こそな」


俺は、そうとだけ応える。


――俺が託された意味。


それを果たすのは、そう遠くない話だ。








――第三章 ペルムシエルの花劇団 完


いつもお世話になっております。

しなとべあと申します。

ここまで読んでくださった皆様方に、心から感謝を!


第三章「ペルムシエルの花劇団」、ひとまず一区切りまで書き上げることができました。

この後は数話、閑話(幕間)を挟んでから第四章へ続きます。

第四章からは、ヴァイスの正体や過去にも踏み込んでいく章になりますので、よろしければ引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。


また、もしよければ短編としてエスプレアを舞台にした作品も投稿しております。

過去編の『水底から見上げる夜空』

別の来訪者を描いた『銃が通用しない異世界とか聞いてない!』

どちらも同じ異世界が舞台ですので、興味がありましたらぜひお願いいたします。

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