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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第三章 ペルムシエルの花劇団
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第87話 依頼

領主の館の一室。


公的な宴に用いられる、天井の高い豪奢な会場に、俺達は集められていた。


護衛についていたチュートリアルの酒場の面々と、優斗と那砂とマリネにシンザキ。


そしてペルムシエルの花劇団の根族まで含めた全員が揃っていた。


立食形式で豪華な料理の数々が並べられ、何人もの職員が給仕として動き回っている。


奥には、領主補佐を左右に立たせた領主が、テーブルに置かれたジョッキに手を伸ばしていた。


「今日のペルムシエルの花劇団の素晴らしき花劇を称えて」


上機嫌な領主が音頭を取り、豪奢な衣装には似合わない使い古された木のジョッキを掴む。


俺達もそれぞれのジョッキを掴み、


「この一献を、バッカスとペルムシエルの大樹に捧げよう!」


「「バッカスに!」」


「「母なる大樹に!」」


人数分のジョッキが高々と掲げられた。




ペルムシエルの花劇団の劇に大満足で上機嫌だった領主が、酒場部分が半壊状態なのを聞き付け。


「打ち上げならば上でやればよかろう」


と、広場の上にある領主の館を指さしたのが発端だ。


器人と樹人の友好を謳った花劇もあり、領主の提案にあの枝族が快諾したのが決め手になった。


今も、領主が何やら枝族と楽しそうに話している。


正直気が気ではないのだが、流石に公的な場ではただの開拓者の一人にすぎない俺が出張るのは流石に場違いだ。


なので大人しく、俺は領主が用意してくれた料理を堪能している。


普段は手を出すのに躊躇するような高級な酒も飲み放題なので、遠慮なく頂こうと思う。


流石に領主の館付きの料理人だけあって料理も見事な腕前だ。


味付けの好みはシンザキの料理なのだが、贔屓目込みで比べても負けないぐらい美味い。


護衛組も、ここで飲み食いしないと、二度とありつけないレベルの酒と料理を堪能するのに必死だ。


流石にああはなるまいと、少し自分を省みながら、ジョッキを片手に周囲を観察してみる。




昨日の今日で体調も戻っていないはずの優斗と那砂は、劇でテンションが上がっているのか妙に元気だ。


マリネも含めた三人で、ユナリアとロココを褒めまくっている。


あまりにも純粋な好意を向けられるのに慣れてないのか、ユナリアとロココが照れまくっていて微笑ましい。


マリネが離してくれないシンザキは、マリネの隣で微笑ましい光景に目を細めながらも、真剣に料理に向き合っている。


我が開拓団の料理長兼団長様は向上心があって素晴らしい。


是非更に美味い料理を提供してくれ。




普段こういう所に招かれることがないからか、根族の二人が戸惑っている。


花劇に感動した騎士の何人かが、守護者たる根族に話を振っているようだ。


似たような役割の者同士だ。


戸惑っていた根族も、騎士に対して身振り手振りで話し始めている。


少し手助けをしようかと思っていたが、どうやらおっさんのお節介だったようだ。




「ヴァイス、なんかおじさんみたいだよ?」


根族と騎士のやり取りに一人で頷いていた俺の所に、俺の為に料理をとってきてくれたルメールが中々辛辣な一言を投げかけてくる。


とはいえ。


「……実際におっさんだから、反論できないんだよなぁ」


見た目は少女のルメールに言われるとなおさらだ。


軽くため息をつきながら、ありがたくルメールが持ってきてくれた大皿を受け取る。


お、腸詰あるじゃん。


的確に俺の好きそうなものと、俺が興味を持ちそうなものを選んでくれたルメールに感謝しながら腸詰に手を付ける。


うーん、シンザキの地球由来の味付けとは違う、こっち特有の荒々しさのある腸詰も中々。


崩すのが躊躇われる芸術品みたいな細工の施された料理も、酒が進みそうな俺好みの味付けで何よりだ。


俺が一通り料理に手を付け終え、ジョッキで度数の高い酒に口をつけていると。


「ヴァイス。あの狼、まだ諦めてないよ」


「だろうな」


ルメールの言葉に、俺は目を細める。


領主の話もまとめると、ラインドルフの密猟団は、もう首領の人狼ガルドしか残っていない。


他の生き残りはエリオとベルンとかいうテンと熊だが、この二人は大人しく捕まっているらしい。


領主の館の地下牢は俺でも辿り着けない厳重さなので、助け出すのは無理だろう。


となれば、ガルドが単独で動くしかない。


しかし、既に本番も終わり、花劇団は後は帰国するだけだ。


その道中を襲うにせよ、手負い一人で根族二人を相手にするのは不可能だ。


だが、手負いの獣は恐ろしい。


俺が逃してしまった以上、始末はつけておきたい。


……マリネがヤマネ族の生き残りという情報を、ラインドルフに持ち帰られるのを阻止するためにも、な。


しかし全力で逃げる狼族を捕まえるのは至難の業だ。


どうやって誘き出すか。


俺が眉をひそめてその方法を考えていると。


誰かがこちらに向かってくる気配に気づく。


俺がそちらに視線を向けると。


「ヴァイス様、少しよろしいでしょうか?」


褒められすぎて頬が少し赤いユナリアが、少し困惑した表情で俺を呼んでいた。




「キミが、ヴァイス・ブルストか?」


頭上から、若者にも老人にも聞こえる男の声が降り注ぐ。


その身に纏う領域からは、どこか嗅ぎなれた濃い森の匂いが漂う、樹皮の肌をもつ男。


花劇にて、ペルムシエルの父である器人の戦士を演じた花劇団の団長。


そして、ペルムシエルの貴族階級である枝族。


確か、名はなく“高枝の方”と呼ばれている者。


既に領主と話を終えていたのか、その場には高枝の方と葉族しかいない。


俺はそこにユナリアに案内されてやってきた。


ルメールは留守番だ。


「あぁ、俺がヴァイスだ」


中々フルネームで呼ばれることはないのだが、ガルドと言い珍しいことが続く。


「まずは、感謝を。キミの尽力なくば、幾枚もの葉が落ちる所だった」


「仕事だ、気にしないでくれ」


カディスの推薦があったとはいえ、仕事として請け負った以上はな。


そう返す俺の顔を、そのどこか無機質な瞳でじっと見つめてくる高枝の方。


見透かすようなその深い瞳に、背筋に震えが走る。


「……えっと?」


「あぁ、よい。よいな」


困惑する俺を横目に、何か一人で納得されている模様。


目を閉じ、静かにうなずくと。


独特な間を置き、改めて俺に視線を向ける。


「ヴァイス・ブルストよ」


「何でしょう」


心を震わせるような、重い声の響きに、俺は自然と背筋を正していた。


「キミに、個人的に依頼がしたい」


「団長様!?」


枝族の、個人的な依頼。


思わずユナリアが声を上げてしまうほどの事態のようだ。


とびっきりの厄ネタ感に、俺の頬が引きつるのを感じていた。


「護衛の依頼だ。この身を“樹鹿の森”に送り届けてほしい」


樹鹿の森。


その言葉に、俺はなぜ彼から嗅ぎなれた匂いがするのかに思い当たった。


「その深奥にいる“大樹の姫”に用があるのだ」


劇場車や彼からは、樹鹿の森と同じ匂いがするのだ。

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