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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第三章 ペルムシエルの花劇団
85/110

第85話 開幕

本番当日。


旧王都の中央広場に俺達は集まっていた。


広場の舞台の上には、閉じられた状態の劇場車。


昨日は緊急事態とリハーサルで開かれたが、開幕の時に開くのだそうだ。


恐らく、暗幕の代わりなのだろう。


護衛の配置はリハーサルの襲撃を踏まえて多少変更し、各自が配置に着いている。


ルメールも応急修理を終えて復帰している。


見た目は完全に治っているが、形だけだ。


左腕は普通に動くが、外見相応のか弱さしかない飾りのようなものだ。


まぁ、片手が飾りでも問題ないのがルメールだ。


それに、なんだかんだルメールも劇を楽しみにしていたので、留守番という選択肢はない。


今回は俺とルメールは、中央広場の劇場車が停めてある舞台の左右に分かれて待機している。


反対側のルメールが俺に向かって大きく手を振っているので軽く手を振り返しておく。


流石にルメールをもう一度着ぐるみに押し込んで、劇本番の劇場車内に隠すわけにはいかないからな。


今回は裏口も出入りがないのでしっかりと施錠するし、裏側に見張りも立てたので大丈夫だろう。




一段高くなっている舞台の上からは観客席がよく見える。


ユナリアの好意で、最前列の特等席にはマリネと優斗と那砂、それにシンザキの姿がある。


昨日の騒動で壊れているのもあって、今日はチュートリアルの酒場は休業なので、シンザキも久々に休暇となる。


何より、シンザキが居るのはマリネが狙われているから、ってのもあるのだが……。


どうにも、昨日からマリネがシンザキに甘えたくて仕方がないらしく、離れようとしないのだ。


あの堅物、ずっと父親として接するのに遠慮してやがったが、ようやく誓いの言葉込みでぶちまけたらしい。


そりゃ、実はお父さんなシンザキが大好きなのがバレバレのマリネが、守られながら聞かされればそうもなる。


温かい目で見守ってやったら二人に蹴られたのは解せないが、シンザキが一緒なら安心だ。


優斗と那砂は、昨日の戦いで精神を消耗し過ぎて大分辛そうではあるが……。


意地でも観に行くと譲らなかったので、二人の事もシンザキに任せる条件で許可した。


俺が二人の立場でも意地でも観に行くと思うし、マリネの為にあれだけ頑張ってくれたのだ。


シンザキからも、即答で任せろとの返事が返ってきた。


他にもカギミヤとクラリッサを始め、馴染みの顔が大集合している。


中央広場は満員御礼だ。


唯一閑散としているのは、斜め奥に設置された貴賓席周辺だ。


貴賓席には領主が、堂々とした姿でふんぞり返っている。


不気味な程に圧を感じさせない領域操作は感嘆するが、逆にそれが恐ろしいのだろう。


貴賓席の周囲は閑散としていた。


あれに付き合わされる補佐達には同情するが、せめて劇は楽しんでいってもらいたい。


なお、領主の身辺警護と言う建前で、崖上の坂道には騎士団が配置されている。


上に回す戦力を減らせるので助かるのだが、騎士団出せるなら俺達いる?


と正直思わんでもない。


そう言うことは先に言えってんだよ、先に。


……おい領主、こっちみんな、心を読むな。


邪悪に口で弧を描くんじゃない。


何人かが漏れ出た圧に落ち着かなくなって不安そうになってるだろうが。


安心しろ。


客席に騎士が居ると観客が困る。


ちゃんと俺達は真剣にお仕事させていただきますよ。




席は完全に埋まり、立ち見客が溢れるほど集まった中央広場。


喧騒がさざ波の様に広がっている中で、急にその喧騒が強くなる。


……そろそろか。


俺が劇場車の方に目を向けると、そこには根族によって劇場車の上に持ち上げられる葉族達の姿があった。


何人もの葉族達が緑色の何かを抱え、劇場車の上で配置に着く。


配置に着いた葉族達が、その手に抱えた“楽器”を吹き鳴らす。


見た目は、言ってしまえば巨大な草笛だ。


だが、草笛とは思えない澄んだ音色が響き渡る。


その美しくも温かな音色に、会場の喧騒が静まっていく。


そしてその音色が響くと、劇場車の前後に控えた根族が舞台装置の車輪を回し始める。


回る車輪に連動し、閉じられていた劇場車の側面が、ゆっくりと開いていく。


滑らかに、僅かな低音を響かせる巨大な舞台に、会場がどよめき。


劇場車の中に満ちていたペルムシエルの匂いが、中央広場に広がり。


普段感じることのない異国の匂いに、会場の空気が塗り替えられていく。


露になった劇場車の美しくも温かな造形美に、いくつものため息が漏れるのが重なって響いた。


――開幕だ。


そう思った瞬間、体の奥から震えが走る。


どうやら、俺もこの劇を楽しみにしていたのだと。


今更になって気が付いた。

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