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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第三章 ペルムシエルの花劇団
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第84話 報告

再開したリハーサルを無事に終えた俺達は、途中でルメールをカギミヤに預けると酒場に戻ってきていた。


ペドロ達バッカス組は、逝った仲間の弔いをしてから戻るとのことで、帰り道は俺と古参組が護衛に就いた。


何時もより明かりが少ない酒場に、嫌な予感がして足早に踏み込む。


「……また、こっぴどくやられたな」


酒場の真ん中には黒焦げた大穴が開き、テーブルの大半が撤去されていた。


バーカウンターの棚に並んでいた酒瓶の大半もなく、ガラスのグラスも数えるほどだ。


大分片付け終わっていたが、それでもボロボロの酒場にそう言わずにはいられなかった。


後ろでユナリアとロココも目を丸くしている。


正直、俺も酒場だけを見たらそれどころじゃなかったんだろうが。


出迎えてくれた人物の姿を見て、肩の力が抜けてため息が漏れた。


「なんだか、面白いことになってるなシンザキ」


出迎えてくれたシンザキに抱っこされ、ぴったりとくっついているマリネを見れば、無事だったのはわかる。


「お前に言われたくはない」


普段からルメールを背負っている俺には言われたくないと?


それはごもっとも。


疲れ果てたのか、シンザキに頬ずりしながら眠っているマリネを起こさない様に酒場に入る。


酒場の端にあったおかげで無事だった長椅子に、優斗と那砂がお互いに肩を寄せ合って眠っていた。


優斗が包帯だらけなのを見るに、重傷だけ癒して那砂が力尽きたのだろう。


俺は、倉庫から引っ張り出してきたのだろう、一個だけ置かれた真新しいテーブルに座る。


ユナリアとロココも後に続くと、シンザキがマリネを起こさない様に席に着いた。




「何があった」


俺がシンザキに促すと、シンザキが腕の中のマリネに視線を向ける。


「ラインドルフの密猟団を名乗る連中が、マリネを狙って襲ってきた」


「……マリネを?」


嫌な記憶が呼び起こされる。


俺に、俺達にとって忘れられない十年前の事件。


色々な思惑が重なった結果、国家規模の大乱に発展した。


そこにはラインドルフで起きた民族紛争から逃げてきた、少数民族であるヤマネ族のマリネとその両親もそれに巻き込まれたのだ。


確か肉食系獣人が、小動物系獣人の少数民族相手に狩りを行ったという話だ。


俺達もその渦中で、多くの犠牲を支払った事件だ。


「詳しくは“まだ”聞けていないが、明確にマリネがヤマネ族と知っていて、その希少性に価値を見出していた」


民族紛争でヤマネ族は絶滅寸前だとは聞いていたが、そもそも民族紛争もラインドルフの所為だろうと声を大にして言いたいところだ。


「ヤマネ族は、ただの希少種ってだけなんだがな……」


「ラインドルフでは五年ほど前に王位の簒奪があり、狼族の先王を喰らった鼠族が現在の王になっているそうです。その関係なのではないでしょうか?」


俺達よりずっとラインドルフに近いからか、ユナリアが貴重な情報を語ってくれる。


っていうか、小動物系獣人の鼠族が王になったのか、すごいな。


そりゃ、今まで散々小動物系獣人を虐げてきた肉食系獣人は肩身が狭くもなる。


そして、小動物系でも希少種のヤマネ族のマリネなら、交渉のカードにできると判断したと。


……ふざけるのも大概にしてくれ。




「こっちには、ラインドルフの密猟団の首領を名乗る、ガルドという人狼と部下の獣人が襲ってきた。ガルドは逃がしたが、その部下二人は倒した」


舞台裏が見えてくるほどに、逃がしたのが悔やまれる。


先王が狼族であったのなら、同族のガルドは関係者の可能性もあるし、簡単には諦めてはくれそうにない。


「お前とルメール相手に逃げおおせたのか」


眉を顰めるシンザキに、悔しいが頷くしかない。


「追い詰めたが、命がけの部下二人に時間稼ぎをされた。護衛として追うわけにも行かなくてな」


それに、逃げに徹した獣人相手に追いつくのは至難の業というのもある。


「こっちは副首領のファルムという虎族と、その部下のテン族と熊族だったな。ファルムは倒し、部下二人は拘束して騎士団に預けた」


「……よく無事だったな」


ファルムってのが副首領って事は、少なくともガルドに次ぐ実力だろう。


それに部下二人、シンザキが居たとしても容易じゃないだろう。


「優斗と那砂のおかげだ。命がけでマリネを守ろうと部下二人を倒して、副首領相手に時間を稼いでくれたんだ」


シンザキが、普段中々見せない感情を込めて揺らいだ視線を、優斗と那砂に向ける。


二人が居なければ、腕の中で眠るマリネは二度と見られなかったに違いない。


境界と支配領域に区切られたこの世界は、一度街から逃げられると追いつくのは至難の業だ。


しかも、野外を得意とする獣人の密猟団なんて最悪だ。


「……後輩が立派過ぎて、返しきれない恩が積み重なってくなぁ」


俺は大きく息を吐いてテーブルに突っ伏す。


あの二人、まだ一年も経ってないのに、戦闘種族と名高いラインドルフの獣人相手にマリネを守り切ってくれたのか。


俺達が守ると誓った子の窮地に毎度居合わせず、後輩に救われ続けるとかちょっと自信無くすわ。


「優斗様と那砂様はご無事なのでしょうか?」


ボロボロの二人の姿を見たユナリアが心配そうに眉を顰める。


「……二人とも精神を使い果たしているから、しばらくは安静だ。明日の劇を見るぐらいは大丈夫だろう」


シンザキの言葉の端々から、優斗が相当ボロボロだったのが伺える。


那砂の治癒の力は特殊過ぎるので、大っぴらにしていいことはないから濁したのだろう。


「明日の本番、大丈夫でしょうか……」


少し不安そうにユナリアが目を閉じる。


あの二人がここまでやってくれたんだ。


明日ぐらいは、ゆっくり劇を見せてやりたいところだが……。


「それなら大丈夫だろう。領主から伝言で“煩い子犬が吠えられない程度には躾けておいた。明日は心静かに観れる事だろう”だとさ」


シンザキが頬を引きつらせて語る言葉に、俺も天を仰ぐ。


あいつは、領主の館で大人しくしているという事ができないのだろうか。


正直助かったが、少しはあの好奇心を押さえてほしいと思わずにはいられなかった。

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