第69話 護衛
■ユナリア視点
「優斗!!」
マリネ様の大声に、驚いて振り返ると。
そこに見えたのは、いつの間にか近づいていた男性が、ロココに向かって剣を振り下ろし。
それを、優斗様が切り払っている姿でした。
びっくりして目を丸くしているロココを、那砂様が素早く抱き抱えてこちらに来てくださいます。
「ロココ!」
「び、びっくりしたのです」
城壁を背に、那砂様が私達を庇うように前に立たれます。
その普段の女の子らしい立ち振る舞いとは違う、開拓者としての矜持を感じる立ち姿に少し見惚れてしまいます。
そんな那砂様ごと私達を護る様に立ちふさがる優斗様の隣で、マリネ様が声を上げます。
「何の用?」
そう問うマリネ様の言葉に。
「……大金が落ちていたら、拾うのは当然だろ?」
と、私達を見て語るその方の目は、確かな欲望に塗れていました。
私達にとっては、見慣れた目。
ですが、普段は母なる大樹や、その枝から切り出された劇場車の領域に守られ。
側には、信頼できる根族の戦士達がいる状況ですが。
今は、そのどちらも私達の側にありません。
それがどうしても、私に得も言われぬ不安を抱かせます。
そこに。
「頼むよ優斗、格好いい所見せてよね!」
「あぁ、期待には応えなきゃな」
恐れも何もない、自然体の二人の声が聞こえます。
そして、優斗様の魔剣が青白い輝きを放ち、視線を奪われてしまいます。
あれが、優斗様の神授の魔器。
異界の神と呼ばれる者の手で鍛えられた、美しき異形の器。
その輝きに目を奪われていると、優斗様が強く踏み込みます。
魔剣が青白い炎を纏い、空間に線を描きながら横薙ぎに振るわれます。
その動き自体は、洗練されているとはいいがたい、技も駆け引きもない横薙ぎでした。
ですが、逆にそれは力強く、真っすぐな優斗様の心を反映するような美しい残光を引き。
お相手の魔剣と打ち合うと、青白い炎が上がり……。
「まさか、焼き溶かしているのですか……!?」
意志の乗った魔器は、本来の素材を遥かに超える程強く硬くなります。
それこそ、心が折れない限り決して折れないと言われる程に。
木で作られた魔器を使う器人の方がペルムシエルにはいまして、その方の魔器は木でありながら鉄より強く火に負けることもないとされています。
力量差があれば、一方的に折られる事もあるとは聞きますが、焼き溶かすなどというのは初めてです。
「優斗くんの心には、収穫者の炎が焼き付いてるんです。あの日以来、あれを目標に鍛え続けてきたんですよ」
収穫者。
ペルムシエルにも、割者『収穫者』の名は届いています。
青白い炎を纏った巨大なゴブリン。王すら狩り得る等級外の怪物。
「まさか、収穫者と出会ったことがあるのです!?」
ロココが目を丸くしていると、那砂様が少し自慢げに笑われます。
「優斗くんは、私達を護るために、一人で収穫者相手に時間を稼いで生き残ったんですよ」
「「っ!?」」
その言葉に、私とロココは思わず息を飲みます。
割者の恐怖は、私達の根本に染みつく程です。
それを前に自ら残り、立ち向かい、折れずに生き残る。
それが、どれほどの困難か。
「だから、あれぐらいの相手は何も心配いりませんよ」
視線の先では、優斗様より頭一つは大きな方相手に、真っ向から押し返している優斗様の姿がありました。
大剣を半ばから断ち切り、そのまま山羊獣人の方の意識を刈り取り。
恐れることなく、青白い炎を纏った魔剣を構え、駆けだしていく背中が見えました。
――火は恐ろしいものです。
一度燃え広がれば、私達にはどうすることもできない恐怖の象徴です。
樹人である以上、それは覆らない本能です。
……ですが。
「美しく見える炎も、あるのですね」
気が付けば。
私が抱いていた得も言われぬ不安は、すっかりと消えていたのです。
優斗様の戦い方は、とても真っすぐなものです。
技巧を誇るのでもなく。
策を弄するのでもなく。
力強く踏み込み、剣に意志を込め、愚直に振り抜く。
ただそれは。
恐れずに、深く踏み出せるからこそ。
迷わずに、剣を信じられるからこそ。
その剣先は一手先に届いているようでした。
ですが、それだけでは数で囲まれれば苦戦は免れないと思います。
そこを、マリネ様が補っておられます。
武器を持たずとも、縄や道具を駆使して動きを止め、意表を突き。
時には全身を使った蹴りを用いてでも、優斗様の死角を補っておられます。
「そこです、そこでぶっとばすのです!」
ロココはすっかりと観戦状態です。
私も声にこそ出しませんが、同じようにお二人の姿を見ているのは変わりませんが。
ですが、そのロココの声に気付いた優斗様達から離れていた一人が、こちらを向きます。
優斗様とマリネ様は、他を相手にしています。
それに気付いた女性が、全力でこちらに駆けだしてきました。
身軽そうな女性は、短剣を引き抜き。
僅かな間に、その顔がよく分かる距離まで詰められ。
「駄目です」
手をかざした那砂様の前に、半透明の半球状の幕が展開され。
その方を閉じ込めてしまいました。
勢いのまま、結界に激突した女性がその幕にべったりと張り付くようになってしまっています。
……これが、那砂様の神授の魔器なのでしょうか?
少なくとも、ぶつかる程の強度を持った領域を作れるのは王級でも至難の業。
となれば、そういう機能を持った魔器なのでしょう。
我に返った女性が、必死に魔器であろう短剣で叩いていますが、びくともしません。
そして。
「待たせた、那砂」
「お疲れ様、優斗くん」
何時の間にか、終わらせていた優斗様が、こちらに戻って来られました。
そして、優斗様は女性がぶつかった幕を、まるで存在しないかのように素通りすると。
混乱する女性の鳩尾に魔剣の柄頭を叩き込み、意識を刈り取りました。
倒れる女性を優斗様が受け止めると、幕が消えていきます。
「これで、最後か?」
「うん、一人逃げたけど、そっちは任せて大丈夫だと思うよ」
優斗様の言葉に、マリネ様が女性を縛りながらそう応えます。
「誰かおられるのですか?」
「陰ながら護衛するって言ってたし……ほら」
マリネ様がそう言って指し示すと。
崩れた建物の陰から。
逃げ出したという先ほどの一人を抱えたヴァイス様が姿を現しました。




