第68話 悪漢
■優斗視点
ユナリアとロココは、那砂が守ってくれる。
那砂が守りに専念してくれるなら安心できる。
だから、俺はこいつらを倒すだけでいい。
みんなを背に、悪漢達に向かってガラティーンを構える。
ロココを狙った剣を切り払った時に感じた感触。
その時に払った剣の重さは、俺を訓練してくれた酒場の誰にも及ばない程軽かった。
ならば、恐れることはない。
そう自然に思い至った自分に、内心で思わず笑ってしまう。
……強面のおっさんが、容易に人を殺せる武器を持って襲い掛かってきてるってのにな。
日本にいた時には考えられない心境だ。
だけど今はもう、この程度は怖いうちには入らない。
おっさんや収穫者に比べれば、全然だ。
「あんたら、魔器を抜いて襲ってきた以上、覚悟はできてるんだよな」
これは、この世界にやってきた初日に、最初におっさんに教えられた事。
魔器を抜いたのなら、それは“お前を殺す”って宣言だと。
その時点で、殺されても文句はないのだと。
「来訪者のガキが、立派なおもちゃを貰って偉そうに!」
俺の言葉に苛立った男が剣を振り回して怒鳴り散らす。
確かに、ガラティーンは立派なおもちゃだな。
自分でもそう思う。
幼稚な英雄願望で願った伝説の武器。
俺の身の丈には合わない、立派過ぎる神授の魔剣。
だけど。
「なら、そのおもちゃを振り回したガキに負けたら笑いものだな!」
それでも、これは俺が選んだ力で。
那砂を護れるだけの力を望み、それに応えてくれた相棒だ!
一歩、強く踏み込む。
俺の領域が男の領域と重なり合うが、軽い。
抵抗すら感じない軽さに逆に驚きながらも、魔剣に魔力を流し込む。
剣先にまで行きわたらせた魔力が、ガラティーンを起動させた。
青白い炎が、ガラティーンの刀身を燃え上がらせる。
収穫者との戦いを経て、青白い炎を纏えるまでになった魔剣を、俺は愚直に薙いだ。
男は鉄剣でガラティーンを受け止め。
「なんだ、これはっ!?」
青く熱されたガラティーンが、じわじわと男の鉄の魔剣を焼き溶かしていく。
……って、魔剣って溶けるのか?
訓練の時に手伝ってくれた開拓者全員にあっさり受けられたので、大したものじゃないと思っていたんだが……。
ちょっと想像以上の差に驚きが隠せないが……。
とりあえず、魔器を破壊すれば戦えないだろうから、このまま押し切ることにする!
魔器が破壊されつつある影響か、苦痛で顔をゆがめた男相手に、容赦なく更に力を籠める。
だが、流石に異常に気付いた男の仲間が、大きく武器を振り上げている気配を領域から読み取る。
すでに腰が引けている男に蹴りを入れて転がすと、その反動で振り上げたガラティーンで受け止める。
大男が振るう大剣からは、確かな質量と膂力による強い衝撃が伝わってきた。
単純な力比べなら、俺では大人と子供ぐらいの差があるとは思う。
だけども。
軽い。
相手の剣から想いが響いてこない。
俺が今まで剣を合わせてきた相手は、積み重ねてきた重みが響く相手ばかりだった。
重くて、微動だにしないような人達ばかりだった。
……そうか。
こんなに軽く感じるぐらいには、俺も強くなれていたのか。
「なんで、受け止められる!?」
受け止められるさ。
精神は魔素に干渉する。
だったら、精神で作り出す領域を纏った刀身は、魔素を支えにする事だってできる。
力だけでは叶わなくても、想いの強さで負ける気はない!
気合を込めて、纏う領域を膨れ上がらせた勢いを乗せてガラティーンで押し返す。
これは那砂を、友達を守るための戦いだ。
それに、誰かを守る覚悟の強さを、俺はずっと見てきたんだ。
だからこそ、あの背中に追いつく為にも。
「あんた達程度に、後れを取る訳にはいかないんだよ!」
少なくとも、ユナリアとロココを金のように見ている相手にはな!
押し返した勢いで、今度はこっちが押し込んでいく。
力と体格で負ける相手でも、想いの強さでその差は覆る。
より強く意志を込めると、ガラティーンの青白い炎がよりその熱を上げていく。
分厚い大剣が、ガラティーンの熱でゆっくりと溶け出していく。
「冗談じゃねぇ!ただのうぬぼれたガキって話じゃなかったのかよ!?」
ガラティーンに熱されながら、大剣を必死に抑える大男が悲鳴を上げる。
大剣にガラティーンが食い込み、半ばまで食い込もうとしている。
このまま押し切る。
そう更に力を籠めると。
「させるか!」
叫びと共に立派な角をした山羊獣人が姿勢を低くし、その角を構えてこちらに突撃してくるのが見えた。
流石に、あれを受けるのはきつそうだ。
どうしようかと一瞬俺が迷った時。
視界の端で、地を這うように駆けだしたマリネちゃんの姿が見えた。
国喰いの痕跡によって波打ち隆起している地面が、小さなマリネちゃんの姿を隠している。
少なくとも、俺に向かっている山羊獣人には見えていないだろう。
それに、この動きは、一緒に狩りに行ったときに何度も見ている。
ならば、山羊獣人はマリネちゃんに任せて、俺は大男を片付ける!
山羊獣人から目を離し、目の前の大男に意識を集中させる。
「舐めやがって!」
俺が目を離したことで、激高した山羊獣人の叫びが聞こえる。
だが。
「ぐあぁっ!?」
バランスを崩したのか、悲鳴と共に人が転がる音が聞こえてくる。
「させないよ」
マリネちゃんが投げた縄に両足を捕られ転んだのだろう。
最近だと境界の狼さえ捕らえるマリネちゃんの投げ縄だ、頭に血が上って避けれるものじゃない。
助けに来た仲間が転んだのを見た大男が、ひきつった顔をこちらに向けた。
悪いが、俺から意識をそらした時点でもう遅い。
仲間に助けてもらえると、一瞬だが魔剣から意識が逸れた。
その一瞬があれば、押し切れる!
大剣を半ばまで溶かし切ったガラティーンに、駄目押しの魔力を叩き込む。
一瞬輝きを増したガラティーンが、そのまま大男の大剣を叩き切った。
「ぐあぁああっ!?」
器人が、己の半身である魔器を破壊されれば、器人も無事とはいかない。
その反動と、眼前まで迫ったガラティーンの刃に、大男がそのまま泡を吹いて意識を失った。
……別に、本人を切るつもりはなかったんだが、意識を失ってくれたならばよし。
大男は無力化した。
なら次は、最初の男か……。
振り向くと、足に絡んだ縄を必死に解こうとしている山羊獣人と目が合う。
「……」
「……」
一瞬時が止まり。
俺はガラティーンを無言で振り上げると。
「おらぁ!」
「ぐわぁ!?」
剣の腹で思いっきり山羊獣人の頭をぶっ叩いた。
ちょっとこんがりとした匂いがするが、命に別状は無さそうだし無力化できたからよし!
これで二人目!
「次!」
青白い炎を纏ったガラティーンを構えなおすと、俺は勢いのままに駆けだした。




