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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第三章 ペルムシエルの花劇団
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第67話 跡地

■マリネ視点


びっくりしている四人を連れて、崩れ落ちてできた坂道を下っていく。


足場は悪いけど、それなりに踏み固められているから崩れる心配はない。


ただ。


「……なんか、変な感じがしませんか?」


那砂が肌寒そうに身を震わせる。


「あぁ、急に空気が変わったというか、境界に出たような違和感が……」


優斗の感覚は合ってる。


ここから先は街中ではあるけど、旧王都の支配領域とは言えない、曖昧な領域になる。


「途切れるぐらいの高低差もあるんだろうけど、国喰いの痕跡が染みついてて、支配しきれてないんだって」


だから、この先の跡地には街の人はまず近づかない。


まぁ、わたしは冒険だー!!って小さい頃に同い年の子を連れて駆けまわってたんだけどさ。


そのうちにシンザキとヴァイスにバレて、行かなくなったけど。


……怒られはしなかったけど、二人のあの感情を押し殺したような顔を見たら、行こうとは思えなくなった。


だから、わたしも来るのは久しぶりだったりする。


「でも、別に魔物が出るわけじゃないから大丈夫だよ。時々ちょっとやんちゃな人が居るぐらい」


「マリネちゃん、それ大丈夫じゃないよね!?」


確かに那砂の気持ちもわかるけど。


……うーん、わざとここで隠れるぐらいのやんちゃな人がさ。


わたしに気付かれずに近づいて、那砂の結界を抜けて、優斗に勝てるとはまったく思わないんだよね。


「大丈夫だよ。二人とも、そんな程度の相手じゃ手も足も出ないぐらい強いから」


「……わかった、任せとけ」


「マリネちゃんが言うなら、うん」


わたしが笑いかけると、二人とも笑い返してくれる。


二人は頼れる後輩で友達だからね。


そうやってお互いに笑いあっていたら。


ものすっごく優しい顔をしたユナリアとロココに見られてた。


「……行くよ!!」


少し恥ずかしくなったわたしは、少し足早に歩きだした。




跡地は上から見る分にはいいけど、歩くとなると道らしい道は殆ど残ってないし、残っていても途切れてる。


だから、国喰いが抉った跡や、崩れた建物の間を縫っていく必要がある。


「国喰いの話はペルムシエルにも伝わっておりましたが……ここまで巨大だとは思いませんでした」


ユナリアが、抉り取られた痕跡を見て感嘆のため息をつく。


五人で並んで歩いてもまだ余るほど広く、わたしがジャンプしても届かない程の深さまでえぐられた溝が、波打つように続いている。


石肌は歯型の様に欠けた後、鱗で整地されたような異質さを感じさせる。


「抉り取っていったような跡、という事は、国喰いは蛇やワームのような形をしていたのかな?」


溝を眺めていた那砂が、波打つような跡から推測している。


「大人は国喰いの事はあんまり話してくれないけど、やんちゃな子は『悪い子は家ごと大きな蛇に丸呑みされる』って脅されるから、多分それだけ大きな蛇みたいな形だったとは思うよ」


やんちゃな子が、大人にそうやって怒られているのはよく見る光景だ。


わたしも、何度かそうやって怒られたことが……あれ?


そういえば、シンザキやヴァイスだけじゃなくて、チュートリアルの酒場古参のみんなは、わたしを怒るときにその例えをしたことはなかったな。


今思えば、国喰いに関する話題を、酒場のみんなから聞いた記憶がない。


凄く気になってきたけど……二人のあの表情を思い出すと、聞く気にはなれないんだよね。


わたしに言わないってことは、言わなくていい事なんだと思うし。


そんな風に深く考え込んでいたら。


「国を喰うほどに巨大な割者か……何があれば、そんなものになっちまうんだろうな」


優斗の声で、現実に引き戻される。


「え、うん。そうだね、でもその辺りの真相は滅んだ国と一緒に闇の中って言われてるね」


割者が現れたってことは、割れた誰かが居たってこと。


王を喰い殺す程の割者になるなんて、いったいどれほどの事が起きたのか、想像もつかない。


「ところで、その国喰いは大暴れした後どうなったんだ?」


「うーん、そのあとのどうなったかは知らないなぁ」


ここ一帯以外に痕跡がないから、峡谷に消えていったとは言われてるけど……。


「国喰いが発生していた時期からしばらくは、目撃情報がペルムシエルにも伝わっていたのですよ」


「そうなの!?」


まさか、ロココが知っているとは思わなかった。


「実は一度、ペルムシエルにも近づいてきたことがあったらしいです。その時は、門番のダイダラが追い返してくれたのですよ」


「ダイダラ、ですか?」


知らない名前に那砂が反応した。


「知ってる名前なの?」


「ううん。ダイダラさんは知らないけど、日本にはだいだら法師っていう妖怪がいるから関係あるのかなって」


来訪者の文化はいっぱい影響与えてるから、その関係なのかな。


わたしが首をかしげていると、ユナリアが語ってくれた。


「ダイダラは、ペルムシエルの大樹にかかる虹の桟橋を護る根族の門番です。何百年も昔に、一人の来訪者の老人に教えを請い、特級戦力へと至った英雄ですよ。たしか、ダイダラの名はその来訪者の老人に頂いたとか」


「とっても大きくて、とっても頼もしいのです!」


両手を広げて跳ねながら、大きさを表現してるロココが面白い。


那砂、口元を抑えてるけど「可愛い……」って声が抑えきれてないからね?


「あの大きな根族の人達よりも大きいのか?」


「全然違うのです!二人が重なったぐらいあるのです!」


優斗の質問に、ロココが笑顔で応えてくれる。


それにしても、それって収穫者より大きいって事か……大きすぎない?


大きさの表現が終わったロココが、少し落ち込んだような表情に変わる。


「ですが、ダイダラですら追い返すのが精一杯だったと聞いているのです」


特級戦力でも追い返すのが精一杯の割者……。


それを想像すると、背筋が寒くなってくる。


「ダイダラが追い返した後は、ペルムシエルの方では国喰いの目撃情報はなかったはずなのです」


「そっか……ありがとね、ロココ」


少なくとも、わたしの記憶では、旧王都の周辺で国喰いの目撃情報はない。


倒されたって話も聞かない。


……どこかで、誰にも迷惑かけず大人しくしてくれることを願うしかない。




旧王都の西端。


底が見えない程に深い峡谷近く、かろうじて王城の一部が残っている場所までたどり着いた。


「これが、かつての王城なのですね!」


峡谷近くは崩れかねないし、危ないので、離れた城壁の近くにやってきた。


「領主様の館も立派でしたが、このように朽ちていく姿も、また趣深さを感じてしまいます」


正直、わたしからしたらただの廃墟だよね?としか思っていなかったけど。


こんだけユナリアが楽しそうだと、ちょっと見る目が変わりそう。


でも、正直何がいいのか、何が違うのかがわたしにはわからない。


「城壁の石の組み方は、地球のとはだいぶ違うんですね……魔素が影響しているのかな?」


ユナリアと一緒になってみている那砂も楽しそうで、女の子二人には分かるのに、わたしにはわからないのがちょっと悔しい気がする。


「大丈夫だマリネちゃん。俺にはさっぱりわからないから」


「ロココもちょっとユナリアの趣味は理解ができないのです」


「ここで、そうだよね!って言いづらいなぁ」


優斗とロココのフォローを素直に受け止めづらい。


お宝探しとかだったら、もっと食いつけるんだけどなぁ。


ちなみに、跡地は大規模な捜索が行われて、貴族や王城のお宝は全部回収された、って発表されてる。


少なくとも、地上には。


……実は、地下があって、そこには残ってたりするけど、それは一部の人だけしか知らない秘密。


そこは完全に別領域になって、魔物もいるから本当に危なかったりする。


わたしはうっかり迷い込んだことがあるから知ってるけど、酒場の開拓者仲間にも言わない様にヴァイスに口止めされてる。


とは言え、公式発表を信じずに、隠れて探しているやんちゃな人は結構いたりするんだよね。


そんなことを考えていたら。


──背筋に、あの時と同じ得も言われぬ嫌悪感が走った。


咄嗟に、わたしは叫んでいた。


「優斗!!」


明確な悪意のこもった気配に、尻尾が逆立つ。


「おう!」


わたしの声に応えた優斗が、ガラティーンを抜き放ち、ロココを狙った剣を切り払う。


振り向けば、背中を狙ったはずなのに反応され、あっさり切り払われたことに驚愕する器人の男がいた。


そして、ぞろぞろと出てくる器人や草食系の獣人の、みるからに人が悪そうな人達。


……あの転生者はいない、か。


あの時と同じ感覚だから、もしかしてと思ったんだけど。


ざっと十人か……結構多いね。


けど、悪いけど――この人数じゃ足りないよ。


「何の用?」


わたしが声を低くして問いかけると。


「……大金が落ちてたら、拾うのは当然だろ?」


悪そうな一人が、律儀に応えてくれた。


その視線は、露骨にユナリアとロココに向いているのがわかる。


分かりやすくてよかったよ!


優斗が一番前に出てくれて、わたしもすぐ後ろで援護をするためにポーチに手を伸ばして姿勢を低くする。


わたし達の後ろでは、那砂がユナリアとロココを庇うように、那砂の神授の魔器のブローチに手を当てている。


那砂がいる限り、二人はまず安全だ。


だから。


「頼むよ優斗、格好いい所見せてよね!」


「あぁ、期待には応えなきゃな」


そう応えてくれた優斗の声は頼もしく。


魔力が込められたガラティーンが、青白い輝きを纏った。

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