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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第三章 ペルムシエルの花劇団
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第65話 市場

■マリネ視点


「せっかくだし、何か買ってく?」


二人も、周りの草食系の獣人達も落ち着いたので、そう提案してみる。


市場まで来たんだから、何も買わないというのはもったいないよね。


「そうですね。市場ですし、何も買わないのは失礼ですね」


「ロココもペルムシエルのみんなにお土産を買いたいのです!」


ユナリアもロココも乗り気だね。


でも、お土産かぁ。


食べ物はペルムシエルまで持たないだろうし、そうなると装飾品とかかな。


……装飾品はあんまり気にしたことないから、どこがいいかな?


市場は固定のお店もあるけど、その多くは日替わり。


大体の場所で取り扱ってるものはまとまってるけど、時々全然違う露天が出てることもあるんだよね。


「それじゃあ、買い食いしながら見て回ろうか。その方が掘り出し物があるかもしれないだろ?」


「そうだね。お勧めの屋台とかも教えたいし、それでいこっか」


優斗の提案は悪くないと思う。


わたしは装飾品は詳しくないけど、美味しい屋台はいっぱい知ってるからね!


屋台だからこそのよさを二人に教えないと。




旧王都は、ずっと昔から来訪者がよく訪れる街として繁栄してきた。


特に、日本という国の来訪者が多いことから、日本の料理が多く伝わっている。


わたしには当たり前のようにある料理なんだけど、ユナリアとロココには珍しく、優斗と那砂には懐かしいみたい。


「へぇ、たこ焼きもあるのか」


「しかもソースも美味しいよ優斗くん!……でも、たこ焼きだけど、流石に蛸はないから腸詰みたいだね」


「……たこ焼きとは?」


優斗と那砂は葉っぱの皿に入った、丸い形のたこ焼きを見て懐かしそうにしている。


そういえば、樹鹿の森の恩恵なのか果実系が豊富だから、ソースも美味しいのがあるって前にシンザキが感心してたね。


「見てくださいロココ、まるで宝石のようですよ?」


「果実の宝石……これが、食べ物なのです?」


飴でコーティングした果実に、目を丸くしているユナリアとロココも。


甘いものを更に甘くする、っていうのはわたしもよく分からなかったけど、とりあえず綺麗だから好きかな。


小さいベリーを飴でコーティングして、それを粉砂糖でくっつかないようにしてるのがわたしのお気に入り。


かりっとした後に、ぷちっとした感じが好きなんだよね。


木の棒に刺せないし、小さくて手間がかかるからちょっと高いけど。


「これ、お土産になりそうです?」


ロココが、果実飴を真剣に見つめているけど、それは生ものだから。


そう、注意しようとして。



「あかんで、それ生ものやから味が落ちてまう」



……ぞわりと、わたしの領域に触れた、声の主の気配に、全身の毛が逆立つ。


始めて感じる、相容れない何かの気配に、思わず跳び退った。


「……そないに引かれたら、おいちゃん傷つくで?」


背の高い、でも細い印象を受ける、わたし達より年上で、ヴァイスよりは若そうな男。


目が細く、わたしを見下ろすその視線には、特に変な感情は感じられない。


なのに。


わたしの何かが反応してる。


本能的に、駄目だって。


わたしの異変に気付いたのか、自然に優斗が間に割り込んでくる。


「びっくりしたんですよ、急に近くから知らない声が聞こえれば」


「あぁ、そりゃ悪いことしてもうたな」


優斗も、年齢からすればそれなりの背がある。


そんな優斗よりも、頭一つ高い背丈。


帽子を被り、足元はスカートのような珍しいズボン。


「袴、ですか?」


「お、お嬢ちゃんよう知っとるなぁ。ここらでは珍しいやろ?」


那砂の言う袴、という衣装らしい。


似たような衣装を見たことはあるけど、名前までは知らなかった。


那砂が知ってる、ってことはもしかして。


「袴の関西弁……ということは」


「せや、わいは転生者や。来訪者のお二人さん?」


転生者か……この街にも結構いるけど、関西弁っていうのは初めて聞いた。


優斗と那砂は、最初に来た時から着ている制服姿だから、すぐわかるのだろう。


それにしても、何だろうこの感じ。


「旅のもんなんやけど、あまりにも懐かしゅうてついつい。悪いことしたわ」


「いえ、仕方ないことだとは思います。私も、旅先にりんご飴とかあったら絶対気になりますし!」


「せやろ!?」


那砂はこの人の気持ちがわかるらしい。


……そういえば、酒場でシンザキの料理を食べて泣いてる転生者や来訪者もよく見るっけ。


そう言う事なら、わからなくはないかも。


当たり前に食べれてるシンザキの料理が食べられなくなって、旅先で出会えたらわたしも懐かしさは抑えられないと思う。


「そないな訳で、お先に買わせてもらうわ。おっちゃん全種一本ずつな」


「お、景気がいいね。少し待ちな!」


屋台のおじさんが、果実飴同士がくっつかない様に、一つずつ紙袋に入れていく。


「花劇団の劇を見に来られたんですか?」


「せや。まさか、主役がこんな所におるなんて思わんで、ついつい野次馬根性がでてもうてな」


待っている間に、転生者という事で警戒心が下がったのか、那砂が世間話を続けていた。


ユナリアもロココも、優斗と那砂を挟んでいるし、見知らぬ人と話すつもりはなさそう。


「流石にそない有名人に近づいたら悪う思うて、反対側から屋台に近づいたらヤマネのお嬢ちゃんの領域に触れてもうたんや、悪かったわ」


優斗の背中に隠れているわたしに向かって、悪いことをしたような表情を浮かべて頭を下げてくる。


「……わざとじゃないなら、いいよ」


本能的な拒否感は消えないけど、でも人として真摯に謝ってくれているのだから、失礼なのはわたしの方だ。


それでも優斗の背中からは出られないけど。


「おおきに。そうゆうて貰えると気ぃ楽になるわ」


代金と交換しながら屋台のおじさんからそれなりの大きさの紙袋を受け取ると、彼は自然にわたし達から距離をとる。


それだけで、少し不快感が和らいだ。


ずっと逆立っていたままだった尻尾から、すこし力が抜けたのがわかる。


「ほな、わいは用があるんで、お先に行かせてもらうわ」


「せっかくですから、旧王都を楽しんでいってください」


気さくに手を振る男に、優斗が手を振り返す。


「そりゃもう、満喫させてもらいますわ」


そう笑う男の目が。


一瞬、強くわたしを射抜いた気がして。


その得も言われぬ嫌悪感に。


――気付けば、わたしの尻尾は逆立っていた。

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