第60話 興味
■那砂視点
ヴァイスさん達が出ていくと、私と優斗くんは入り口に気を向ける。
マリネちゃんの尻尾が逆立つのは、一緒に採取に行くときにする意図的にする合図で、“警戒”を意味している。
私と優斗くんは気付かなかったけど、何か異変が起きたのはわかった。
でも、それでユナリアさん達を不安がらせないために言葉にしていないんだと思う。
ヴァイスさん達が向かったからよっぽど大丈夫だと思うから、私達の役目はユナリアさん達を不安にさせないことかな?
「あの、ユナリアさんはどこか見たいところがあるんですか?」
同性だし、見た感じ年も近そうなので、私から話しかけてみる。
と言っても、比べられないぐらいものすっごい美人さんだし、樹人さんの年齢が私達と同じとは限らないから、正直気後れはしちゃってるけど。
……優斗くんも、デレデレしてるし!
そんな嫉妬心が出ないように気を付けていると、幸いにもそれは気付かれてないみたい。
「はい。まずは建物を見てみたいです。ペルムシエルは母なる大樹の上に築かれているので、すべてが樹皮と葉で出来ているので、石造りの建物というのが珍しいのです」
「え、植物だけでできてるんですか!?」
私としては、そんな聞くからにファンタジーな街の方が見てみたい。
思わず食いついてしまった私の顔に、にこりと微笑んでユナリアさんが応えてくれる。
「えぇ、母なる大樹の恵みに満ち溢れた、とても美しい街ですよ。ただ、樹人以外の方はまず入ることはできないのですが……」
「そうなんですね。残念です……」
私が、心の底から残念だと漏らすと、可愛らしく笑ってくれた。
「麓の街も、樹上の街程ではありませんが木々に溢れた美しい街ですよ。そちらはどんな方でも歓迎していますので、是非遊びに来てくださいね」
「はい、いつかきっと」
綺麗で透き通った優しい声に、私は気付いたらユナリアさんへ心を許しているのを感じていた。
嫉妬心を覚えた相手にすんなりと絆されていることに気付いて、背筋が少し寒くなった。
こっちの世界に来て改善してきたけど、私は本来人見知りで、優斗くんの背に隠れていないとダメな弱い人間だ。
だからこそ、この話しやすさは怖いとさえ思った。
「でも、石造りの建物で、見応えがあるのは……領主の館と、あれだ。旧王城跡地とかかな?」
マリネちゃんが、片耳を入り口に向けながらも、観光先を考えていてくれた。
「あ、それ俺も気になる」
優斗くんの言葉に、私も頷く。
そういえば、旧王都という名前なんだから、かつての王城があってもおかしくない。
でも、街中にそれっぽい建物は見当たらないんですよね。
「それは大変興味がそそられるのですが、跡地……なのですね?」
「うん。私が生まれるだいぶ前に崩壊してるから一部しか残ってないし、街の中央門の反対側の崖側だから、普通は通らないんだよね」
普段はチュートリアルの酒場がある北側や、中央にしか行かないから気付かなかった。
そういえば、中央門のある東以外には、酒場の近くの北門と、南門はあると聞いてたけど、西門は聞いたことがない。
「崖になってたんだな、西側」
「うん、中央街が高くにあって見えにくいから、普通に過ごしてると気付かないと思うよ」
優斗くんと同じように、私も気付いていなかった。
マリネちゃんの言うように、言われてみれば中央は坂道になっていて見通せなくて、中央からは建物が密集してて景色が見えない。
「他国の歴史に触れられる機会ですから、是非案内していただけますか?」
ユナリアさんも目を輝かせて、興味津々だ。
「うん、わかった。ただ、一番街はずれだから、その途中のお勧めもいっぱい解説するね」
「是非お願いいたします、マリネ様」
シンザキさんに呼ばれていたのを聞き逃していなかったからか、マリネちゃんの名前が自然と出てくる。
「あ、わたしは様なんてつけないでほしいかな。そういうの苦手だし、マリネでいいよ」
「そうなのですね。よろしくお願いいたします、マリネさん」
「うん、よろしくねユナリア!」
元気で可愛らしいマリネちゃんと、透き通った綺麗さのユナリアさんがお互いに笑いあう。
何か、すっごく絵になると思う。
可愛いすぎる女の子と綺麗すぎる女の子に、凡庸な私は少し気後れしてしまう。
だけど。
「そういえば、名乗ってなかったな」
優斗くんが、気後れすることなく声を上げ。
「俺は、優斗って言います。それで、こっちが」
そう言って、私の頭の上にポンと手を乗せて。
「相棒の那砂です。二人とも来訪者なんで、こっちのことはまだまだ分からないことが多いんで、案内役としては不足すると思いますけど……」
自然なしぐさで置かれた優斗くんの手から感じる温かさと、相棒という言葉に胸が熱くなる。
「そんな!来訪者の方にお会いできる機会は少ないので、是非色々な話を聞かせてくださいね」
ユナリアさんの笑顔に、優斗くんの顔が緩む。
私には向けてくれたことのない顔に、チクリと胸が痛む。
それを見れば、私が優斗君にとって妹同然に想われているのは強く感じてしまう。
……でも、それでも相棒だと言ってくれたのだから、それにまずは応えたい。
私が、優斗くんの一番であるためにも。
そう私が内心で誓っていると、廊下から足音が聞こえてくる。
この足音は聞き覚えがある。
ヴァイスさんとルメールさんが、わざと音を立てるときの足音だ。
特にヴァイスさんは足音を消す歩き方が普通になっているらしくて、意識をしないと音が出ないらしい。
独特な足音なので、私達はすぐわかるようになっている。
一瞬ピクリとしたマリネちゃんの尻尾が、すぐに垂れ下がった事からも間違いない。
「悪い、ユナリアさん。うちのせっかちな領主様がご来店でね。このままここで会ってほしいとのことだ」
「……わかりました。お伺いいたします」
苦虫を噛み潰したような表情のヴァイスさんの言葉に、一瞬驚きの顔を見せたユナリアさんが、すぐに笑顔で立ち上がった。
「仕方ないなぁ、あの人も」
嫌そうな顔をしたマリネちゃんも立ち上がったので、一応ついていくらしい。
私達もそれに続くと。
ふと、ユナリアさんが私のすぐそばに歩み寄ってきた。
百合の花が香り、それだけで夢見心地になりそう。
少しぽーっとしてしまった私の耳元に口を近づけると、小さな声で。
「那砂さんの大事な人をとったりしないから、安心してください」
びくりと私が驚きユナリアさんの方を振り返ると。
悪戯っぽい笑みを浮かべた、同性の私ですら堕ちそうになる魔性の美貌がそこにあった。
これが、世界で最も美しい種族の一つ!!
ぜんっぜん、安心できません!!
私は、心の中でそう叫ぶので精一杯だった。




