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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第三章 ペルムシエルの花劇団
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第54話 依頼

『親愛なる友ヴァイスへ


 この手紙が届くころ、貴方も相変わらず元気で酒場の喧噪を楽しんでいることだろうと願います。

 こちらは長い旅路を経て、無事ペルムシエルに到着しました。街の空気は清浄で、樹上から降り注ぐ光はどこか神聖ですらあります。


 旧王都で仕入れました樹鹿の森の果実酒が、こちらでは殊のほか好評でしてね。あっという間に旅団の荷は空になりそうです。あの酒はどうやら樹人達の口にも合うようです。


 さて、本題です。

 ペルムシエルでは、我らアルビオン旅団に旅団としての意見を求められました。両国は同盟関係にありますので、彼らが遠出を試みるにあたり助言を仰がれたのです。


 彼らは大樹の枝を切り出して造られた特別な馬車――劇場車――を用意したそうです。それのおかげで、領域から離れられないはずの樹人がこうして遠方に赴くことができるようになったのです。

 興行の目的は、異形と見られがちな彼らが人間種の一員であるのだと、理解を広めるためだそうです。


 とはいえ、ペルムシエルを離れる以上、危険は常に付きまといます。境界では根族の力で守れますが、彼らの戦いはあまりに豪快でしてね。街中であの力を振るえば、守るべき街そのものを壊しかねません。

 そこで、信頼できる護衛を求められたのです。


 旧王都において、私が最も信頼を置く者として――ヴァイス。

 迷わず貴方の名を挙げさせていただきました。


 この先触れの手紙が届いた頃ならば、あと数日もすれば彼らは旧王都に到着するでしょう。迎えと護衛を、是非貴方に頼みたい。


 再び酒を酌み交わす席で、あの素晴らしい劇を見た感想を語り合う日を楽しみにしています。


 ――アルビオン旅団長 カディス』


……何とも、カディスらしい手紙だった。


これは受けるしかないな。


この信頼に応えないという選択肢は俺にはない。


「どんな内容だったの?」


「ペルムシエルの花劇団の、旧王都内での護衛依頼だな。カディスの推薦だそうだ」


マリネの問いに手紙を振って答える。


内容からして、彼らを狙う勢力が動いているとカディスが確信している事になる。


アルビオンの密偵であるカディスの情報は重い。


クシナド王国の一員として、アルビオンとペルムシエル両国に恩を売れるという意味でも重要だ。


「え、すごいじゃんヴァイス!依頼はヴァイスだけ?」


「いや、向こうと相談になるがそれなりに連れて行くつもりだよ」


俺とルメールは確定として、ペドロ達もだな。


バッカス組は人数が多くて統制が取れてるし、何より地元民とそれ以外を見分ける勘が鋭い。


それ以外でも、古参には声を掛けるか。


「じゃあわたし達も!?」


好奇心旺盛なマリネが飛び跳ねながら主張する。


優斗と那砂も興味がありそうだが……。


「いや、マリネも優斗も那砂も今回は外す」


「なんでさ!!」


尻尾を逆立てて抗議してくるマリネ。


そりゃ、なんでってお前。


「護衛してたら、劇団の折角の劇を落ち着いて見れないぞ?」


「……うっ。それは確かに、嫌かも」


仕事で役に立ちたい!って気持ちとしっかりと劇が見たい!って気持ちに揺れてるのか、マリネの尻尾が垂れ下がる。


「確かに、劇はじっくり見たいですし……」


「俺達じゃ、劇に見入って警戒とかできそうにないよな……」


マリネよりは落ち着いている優斗と那砂は冷静に自己分析ができているようでよろしい。


まぁこの辺りは、娯楽の乏しい現地民と娯楽にあふれた日本からの来訪者の違いかもしれない。


なので、規律に厳しいバッカス組か、見てても意識を割ける古参にしか声を掛けないつもりだ。


……それに、もっと大事なことがある。


「第一、街中で手を出してくる以上相手は人だ。対人戦の経験も、人を殺める覚悟も、お前らにはまだ早い」


「……そう、だな」


特に直接戦う優斗の荷が重い。


魔獣や魔物相手には場数を踏んできた優斗だが、人を相手にするのは勝手が違う。


ゴブリン相手に立ち回った実績があるから出来ないとは言わないが、俺としては余計な荷物を背負ってほしくはない。


それに、対人戦の訓練をしてこなかったからな。


定期的に稽古は付けているが、どちらかというと魔獣相手の立ち回りや精神的な面を重視してきた。


「よって、今回はお前達三人は護衛の依頼には含めない。ただ、花劇団との交流の場もあるだろうから、その時は協力してもらう……それでいいか?」


「まぁ、そういう事なら……」


「樹人の方々とお話しできるなら、喜んで!」


「俺も、それでいい」


若干マリネが不満気だが、尻尾がぴんと立っているから内心喜んでいるのがよくわかる。




「明日から、念のため対人戦想定の訓練は少しでもしておくとしようか」


「こっちこそ頼むよ、おっさん」


優斗が乗り気で頼もしい限りだ。


「那砂とマリネもだぞ?」


「はい!」


「はーい」


優斗と一緒に行動する以上、連携や心構えも大事だからな。


カディスの手紙によれば、数日は猶予がありそうだし、最低限出来る限りの事はしておくとしよう。


とはいえ、“対人”と言っても何処の誰が相手になるのか、そこが問題だ。


器人や地人ならいい。一般的な対人の心得で十分通用する。


誇り高い長耳族である湖人が、この手の事に手を出すことはまずないだろう。


あいつら、湖を中心とした領域から出てくることのない引き籠りだし。


樹人以上に環境に左右されやすく、何より目立つ魔人も大丈夫。


そして獣人。


……可能性がある中で、一番面倒な相手だ。


人の知恵と獣の道理を混然一体と成す彼らの相手は、人相手とも魔獣相手とも違う。


特に産まれながらの狩人である肉食系の獣人は、極めて手ごわい相手と言える。


とはいえクシナド国内に暮らしている獣人は草食系獣人が大半だ。


だから、まず想定する必要はないのだが……。


ペルムシエルが、アルビオンのカディスに頼った事実が、俺に警告を鳴らしている。


――アルビオンは、ラインドルフの獣人の侵攻を抑える防波堤。


大陸最北端のラインドルフの獣人が、大陸最南端のクシナドまでやってくるとは思えないのだが……。


何故か脳裏にカディスのもったいぶった笑顔が浮かぶ。


……こういう時は最悪の想定が現実になる。


散々それを思い知ってきた俺は、獣人対策をどうするか頭を悩ませるのだった。

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