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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第一章 チュートリアルと樹鹿の森
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第5話 心の強さ

「さて、領域の押し合いの圧は理解してもらったと思う」


「嫌って程に」


軽口叩くのはいいぞ。


叩けるうちは余裕があるってことだからな。


「だが、本気でお互いに戦うことになる場合は、領域の押し合いじゃ終わらない」


ガラティーン君を構える優斗に相対するように、俺は右手で鉄剣を構える。


「領域は飛び道具は防いでくれるが、意志を直接纏う魔器を防ぐことは基本的にできない」


力の差がありすぎたりすると別だけどな。


「で、魔器っていうのは、この世界の人類の大体過半数が所有してる道具のことだ」


俺の鉄剣がそうだな。


一応、優斗のガラティーン君、那砂のブローチも分類は魔器になるか。


「過半数、なんですか?魔器がないと生きていけないんですよね?」


お、いい質問だ。


ちょっと話はそれるが、大事なことだから説明しておこうか。




「俺たちみたいな、あっちでの人間そっくりの種族を“器人”と呼ぶ。魔器を使う種族だな」


というかまんま人間だ。地域によって肌の色も髪の色も全然違うぞ。


「器人の親戚がドワーフそっくりの“地人”に、エルフそっくりの“湖人”がいる。こいつらも魔器を持ってる」


俺にナッツをくれた酒場のちっこいおっさんも地人だな。


魔器に関してはちょっと例外もいるが、それを言うと面倒だからいいとしよう。


「エルフいんの!?」


「いるぞー。といっても、エルフって言うと嫌な顔されるから湖人って言えよ?」


そもそも、あいつら地元からまず出てこないからまず会うことないし。


出てくる奴は大体個性的で変な奴だから、余分な知識は混乱の元だし言わなくていいか。


「んで、今度は逆に魔器を不要とする種族が、“獣人”と“魔人”だ。マリネが獣人だな」


「マリネちゃん、魔器持ってないんですか?」


「あー、持ってはいる。が、なくても平気だ」


「どういうことだよ?」


ないと死ぬのに、なくても平気って言われれば混乱するわな。


あとマリネの場合、道具として便利だから持ってるだけだから例外もいいとこだ。


「空気の代わりにある何かを魔器で空気に変換してる、って言ったが、実はあれ、正確じゃない」


魔器はあくまでも、変換するために必要なものってだけだからな。


「何かは、意志の力で変質する。それこそ、空気にも、水にも、石にでもだ」


だからこの世界、空を泳ぐ魚が普通に存在するんだよな。


逆に鳥がいない。


移動速度に領域が追い付かないから、飛んだら潰れて死ぬから。


「その、意志の力で変質する何か、を。この世界では“魔素”と呼ぶ」


「あ、すっげぇよく聞くやつ」


おう、俺も既視感の塊だったからよくわかるぞ。


まぁわかりやすいからいいだろ。


「そしてその魔素に意志の力を、精神を注ぎ支配する事で“魔力”になる」


俺はあいた左手をかざすと、空間が揺らめき、次の瞬間には火の玉に変わる。


二人の目がきらきらしてんなぁ。


やっぱり魔法はいいもんだよな。


俺も必死で練習した甲斐があったってもんよ。


「でだ、じゃあ魔素に精神を注ぐにはどうすればいいかって訳なんだが……」


俺は左手で火の玉を維持したまま、鉄剣を収める。


すると、自然と火の玉は小さくなっていく。


「俺たち器人は構造上それが不可能なんだ」




器の人、っていうのは魔器を扱う人って意味じゃない。


「器の人、っていうのは器で出来た人、って意味でな。精神の入れ物として強固すぎるんだ」


言ってしまえば、陶器の壺。


注がれた液体、精神はこぼれることも染み出すこともない。


だから、周囲をその液体の色に染めることはできない。


「で、魔器っていうのはその強固な器から、精神をくみ取る柄杓だ。これによって、魔素に干渉することが出来るようになる訳だ」


「ということは、獣人や魔人の方たちは違うんですか?」


うーん話がスムーズで素晴らしい。


経験積ませたらまじでスカウトするか……?


「獣人は、その種族の固有の部位。爪や牙、尻尾とかが魔器の役割をしてる。器人が壺なら、急須とか、やかんをイメージしてくれるとわかりやすいか?」


「あ、すっごくわかりやすいです!」


「それなら、俺もわかるかも」


やっぱり身近なもので例えるのは大事だよな。


「んで、魔人なんだが……あいつらは、ちょっと特殊でな。ざっくり言うと器がない」


「ないんですか?」


「っていうか、魔人は個体差が大きすぎて説明が面倒なんだが……地球で言うところの幽霊が近い」


「お、お化け!?」


なんだ坊主、お化け苦手か?


……俺も最初はそうだったよ、絶対言わねぇけど。


お化けより怖いのにいっぱい会えば怖くなくなるぞ。ソースは俺。


「で、その幽霊っていう体がない存在が、魔素で体を作ったのが魔人だ。あっちの漫画の妖怪とか、魔族とか想像するといいぞ」


中には人形や遺物に宿って自我を得るタイプもいるけどな。


「見た目は、幽霊さんじゃないんですね?」


「おう、普通にファンタジー感満載の連中だ」


そういう俺も、身近なあいつ以外は滅多に会うことないけど。


「まぁ、こっちに来ることはまずないから意識しなくていいぞ」


普通は空気が合わないから、遠出することはないんだよあいつら。




「さて、だいぶ話がそれたが、魔器に戻るぞ」


俺は改めて鉄剣を抜き放つ。


使い古された、どこにでもあるような武骨な鉄剣だ。


「魔器の強さは、意志の強さだ。極論、意志の通りさえよければ棒切れでも十分強い」


その意志の通りをよくする、ってのが滅茶苦茶大変なんだけどな。


「魔器は、両親から魔器の分け身を貰うのが一般的だが、作ることもできる」


大体自分の身体の一部を入れるのが一般的だな。血だったり、髪の毛だったりが多いか。


「ただ、貰ったばかりや作ったばかりの魔器は弱いから、育てる必要があるんだが……」


俺の鉄剣も、しっかり育成したから強いわけだ。


ノーマルレアでもレベルを上げれば十分強い世界だからな。


「これが、神授の魔器だと話が一気に変わってくる」


「最初から育ってる、とかですか?」


「そう、最初から育ってるし、それ以上育たない」


ゲーム風にいうなら、武器レベル上限100のゲームで、最初からレベル70の武器が使える感じだな。


初期でも中期でも十分強いが、後半だとお荷物になる系だ。


ま、ゲームの世界じゃないから、レベル100まであげれる奴がどれだけいるのか、って話なんだけどな。


俺の魔器だって、せいぜいレベル50ってとこだろうな。


「だから、ぶっちゃけガラティーン君は十分強いし、普通に開拓者としてやってく分には頼りにしていいだろう」


「そうなのか」


うんうん、折角神様に貰った特典が外れじゃないのはほっとするよな。


そう、魔器は十分強い。


魔器は、な。


「神授の魔器は使い手の意志の通りも十分だからな、わかってるだろ、優斗」


俺は魔力を練り、纏う領域をゆっくりと重くしていく。


殺し合いどころか、殴り合いも縁遠い日本の学生くん。


ガラティーン君が……震えてるぞ?


「お前、日本刀手に入れたからって、ヒグマと殺し合いできるか?」


「そんなの……無理、だろ」


だろうな。俺だってお前の立場なら無理だって答えるよ。


だけどな。


お前の前に立ってるのは、そのヒグマよりはるかに凶悪な魔獣と殺し合いしてる男だよ。


レベル70の武器持ってもな、レベル1の日本人が生きていけるほど優しい世界じゃねぇんだ。

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