第47話 帰還
集落を灰燼に帰すと、収穫者はそのまま森の奥へと消えていった。
その背中が見えなくなって、ようやく俺達は動き出せた。
カディスに手伝ってもらって外れた右肩をはめ込む。
大分痛いが、このぐらいで悲鳴を上げるほどやわじゃない。
削れて歪んだ鉄剣を、何とか鞘に押し込むと、俺はルメールを背負って立ち上がる。
「カディス、よく間に合ってくれた」
「いえ、むしろ遅れて申し訳ありません」
「何言ってんだ。あれ以上を望むのは欲張り過ぎだ」
ルメール以外五体満足で乗り越えられたんだ、上出来もいいとこだよ。
「……ぼくの足」
「お前の足は治せるんだから我慢しなさい」
「はーい」
ルメールの体はカギミヤが作成したものだから、足ぐらいならすぐ治る。
「おっさん……!」
意識を失ったペドロを引きずって、優斗がこちらに歩いてきた。
最後の鬼王の誓いを前にしても意識を保っていたのか。
想像以上の速度で成長している後輩の姿が眩しいね。
「優斗、よくやってくれた。あれがなかったら、正直負けてた」
「……おっさんの助言のお陰だよ」
だからって、あのタイミングで迷わず動いたお前の覚悟があってこそだ。
火酒込みとはいえ、あの威力は想像以上だった。
収穫者の青い炎を間近で経験したからか、前よりも炎の威力も上がってたみたいだしな。
「これからも頼りにしてる」
「……あぁ!」
素直に嬉しそうな優斗の声に、頬が緩む。
収穫者に鬼王の両方に立ち向かえた優斗は、間違いなく強くなる。
あとは地力を上げていけば、俺ぐらいすぐ超えてくれそうだ。
正直、どこまで行くのか楽しみでもある。
「あと、ペドロさんなんだけど」
優斗が、引きずって連れてきてくれた気を失ったままのペドロに視線を向ける。
「……あれだけ広範囲で無理して維持していた領域を、一瞬で塗りつぶされたら気も失うさ」
那砂の結界が割られた程じゃないが、それでも精神的なダメージはでかい。
とは言え、小さいとはいえ重装備の地人を引きずって帰るわけにはいかないから、無理やりでも起きてもらうが。
俺は気付け用に持ってる少量の火酒をペドロの口に突っ込む。
……酒飲みの地人相手だと、気付けになるか若干不安だが。
「ごほっ……どう、なっておる?」
ちゃんと効いてくれたようだ。
目を覚ましたペドロが、周囲を見渡して目を瞬かせている。
「収穫者によって鬼王は倒された。収穫者も、集落を焼いたら森の奥に消えていったよ」
「……ふむ、そうじゃったか。無事に何とかなったのならよかったわい」
さて、長居はできない。
鬼王とその配下はもういないし、収穫者も去った。
だが、依然としてここは小鬼の森。
賢鬼の勢力は万全の状態だ。
それに対して、こっちはルメールが完全に戦力外。
俺も全身ぼろぼろだし、鉄剣が武器として使える状態じゃない。
ペドロも、精神を消耗し過ぎて顔色が悪い。
だから、俺は優斗に向き合う。
「優斗。帰り道、ルメールとペドロは戦力にならない。俺も、当てにしない方がいいレベルだ」
「私は戦えますが、一人でも多い方が助かります」
そういうカディスも、傷だらけだし、火傷もしていて万全とは程遠い。
顔には出さないが、その傷だらけで焦げ跡のあるコートを見ればわかる。
「頼りにしてるぞ、優斗」
「……あぁ、全力を尽くす」
頼もしい後輩だよ、本当に。
「ねぇ、ヴァイス」
「どうしたルメール」
俺の肩にあごを乗せたルメールが、肩越しに指をさす。
「あれはどうするの?」
ルメールが指さしたのは、鬼王の大剣だ。
地面に突き刺さって残された、白い骨の大剣。
「……相当な素材由来っぽいからな、あれ」
正当な持ち主以外が扱えるようには見えない代物だが、かといって放置すれば使われる危険性が高い。
何より、このまま放置ってのもな。
「とりあえず、持ってみて行けそうなら持ってくか」
俺は、地面に突き刺さった鬼王の大剣を掴む。
掴んだ大剣から、ぞくりとする程の念が伝わってくる。
鬼王が使い続けたことで魔力が染みつき、元の魔獣の魔力と混ざり合ってるのを感じる。
生前がなんの魔獣かはわからないが、この痺れるような感覚と、鬼王の紫電の魔力を思うに雷獣の類か?
正直、吞まれそうな程にやばい代物だが、ぎりぎり持てそうではある。
骨素材だからか、ルメールの鉄槌に比べれば重さ自体は多少軽いぐらいだ。
「悪いな鬼王。ここで朽ちさせるぐらいなら、有効活用させてもらうよ」
あんたを貶めた男に拾われるのは口惜しいだろうがな。
……ただ、うん。
流石に重量オーバーだぞこれ!
ルメールの体と鉄槌に、鬼王の大剣は重すぎるっての!
物凄い嫌そうな顔をしたルメールをどうにか説き伏せて、ルメールと鉄槌はペドロに背負ってもらう。
ペドロも運ぶ分には問題なさそうだ。
一応武器を持ったので、帰り道は俺とカディスと優斗で対処する。
それなりに深い場所だから、大分無理をするが早めに抜けておきたい。
「よーし、帰るまでが作戦だ。酒場で美味い飯が待ってる!」
できるだけ来た道を辿って、収穫者の移動跡を利用しながら戻る。
賢鬼が素直に帰してくれるとは限らないが、足を止めてはそれ以前の問題だからな。
……実際、帰り道に襲撃はあった。
こちらを伺うような襲撃が数回、だがそれは危なげなく退けた。
人型相手に強いカディスは当然として、剣に青白い炎を纏えるようになった優斗がいい動きをしてくれた。
収穫者によって青い炎にトラウマの刻まれてるゴブリン達には無視できないようで、精彩を欠いていた。
俺も鬼王の大剣を使って何とかしたが……。
鬼王の魔力に染まり切っていて俺の魔力が全く通らないので、ただ力任せに振り回しただけだ。
それでも何とかなるのだから恐ろしい。
そして、その数回の後、襲撃はぱったりとなくなった。
恐らくだが、俺達の消耗具合を把握するためだったのだろう。
そして、割に合わないと判断してくれた。
正直助かった。
収穫者の移動跡にたどり着くと、それを辿って、俺達は小鬼の森を抜け。
何事もなく境界の街道を進み。
無事に、俺達の街へと戻ってこれた。
門番に報告をして、まっすぐに酒場に向かい。
扉を開けると、そこにはチュートリアルの酒場の面々が揃っていた。
俺は、鬼王の大剣をみんなに見えるように掲げると。
「鬼王、討伐成功だ!!」
そう叫ぶと。
酒場が震えるほどの歓声が沸き上がった。




