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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第二章 小鬼の森の収穫者
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第39話 会議

これでルメール以外の全員が揃ったから、作戦会議……と思ったが。


起きたばかりで空腹だったであろう優斗がじっと料理を見つめていたので、腹が減っては何とやら。


優斗にはまず空腹を満たすように指示して、その間に優斗に状況の説明をしておく。


割者“収穫者”によって抑制されているはずのゴブリンの住む小鬼の森から、ゴブリンが出てきている事。


その原因は、外からやってきた王級のゴブリン、仮称“鬼王”との縄張り争い。


今まで収穫者を抑えていた小鬼の森の領域支配者“賢鬼”が、それを利用している可能性。


それにより、収穫者から逃げる鬼王に釣られる形で、収穫者が森から出てきたこと。


そして、その収穫者に優斗達が襲われたという事。


一通り話し終わるころには、優斗の腹具合も落ち着いてきたようで、神妙な顔で聞いていた。




「通常のゴブリンでは収穫者から逃げ切れん。じゃが、鬼王ならば逃げ切れる。それを賢鬼に利用されておる気がするのう」


眷属級のゴブリンでも、収穫者相手では逃げることもできないだろう。

 

ゴブリンを刈ることに特化した割者である以上、ゴブリンにとって天敵もいいところだ。


むしろ、ゴブリンでありながら逃げ切れる鬼王がどれだけやばいか、って話でもある。


「鬼王、って奴じゃ収穫者には勝てないのか?」


優斗の素朴な疑問に、ペドロが首を振って否定する。


「勝てないじゃろうな。鬼王が領域支配者じゃったら、話は別じゃったが」


「……鬼王も王級、って奴なんだろ?」


あー、確かにそこの説明は必要だな。


「今回の件でいえば、賢鬼も鬼王のどっちも王級だけど、決定的に違う所がある」


俺は、テーブルに空の大皿を二つ並べて置く。


隣には小皿も一つ。


「まず、生き物の体は精神を蓄えれる器って話はしたと思う」


「器の人は、精神の入れ物の器って意味って奴だっけか」


お、よく覚えているな。


「で、例えばだが……この小皿が、ルメールの器の大きさとしよう」


隣に置いておいた小皿を指さす。


「通常の方法ではこの小皿が器の上限だと思ってくれればいい。あのルメールでこのサイズだ」


「ちなみに、今の俺は?」


そこ聞いちゃう?


俺は、自分の小皿に乗っているナッツを摘まんで見せる。


「このナッツ一個分じゃねぇかな?」


「……マジかよ」


結構マジだよ。それぐらいに差があるもんだ。


「で、王級ってのは、それがそこの大皿ぐらいの器を持っている」


「……本気で言ってる?」


おう、大マジだよ。


ルメールの倍じゃすまない、最低でも十倍はあるだろうな。


それぐらい、王級っていうのは器がでかい。


「実際は個体差があるから、賢鬼と鬼王が同じサイズじゃないだろうが、今回は同じとして説明を続けるぞ」


俺は空いた大皿の片方に、残っている腸詰や揚げ芋やサラダを載せていく。


「領域支配者は、自分の支配する領域内や自分の配下から、税の様に魔力を徴収できる。そして、それを自分のものとして扱うことができる」


そこには、料理で埋まった大皿が出来上がった。


「これが領域支配者側の王級。今回だと賢鬼だな。自分の領域から大量の魔力で器を満たしている」


もう片方の大皿にも少しだけ料理を取り分ける。


「こっちが鬼王だな。領域から魔力を徴収できてないし、配下から徴収するにしても限度がある。だから、魔力量が絶対的に足りてない」


まぁ、足りてないって言っても、俺達全員の魔力量より多いとは思うが。


「これが、領域支配者の王級と、それ以外の王級の決定的な違いだな」


「……確かに、全然違うな」


魔力量と、背負うものの重さが違うからな。


領域支配者って言うのは、量だけじゃなくて質も桁違いの化け物が多い。


全く表に出てこないから遭遇記録も存在しない賢鬼は統率特化の王と言われてるが、物理で弱い訳がないんだよなぁ。


「賢鬼と鬼王の違いはよく分かったけど……収穫者はこれで例えると?」


「このテーブルに乗ってた料理全部、かな」


「……食い終わったのも含めて、全部?」


「おう」


賢鬼に魔力を提供している納税者のゴブリンを、丸ごと刈り取ってるわけだからな。


何より、料理の塊で皿を必要としない割者だからな。


その魔力総量は並みの王級の比じゃない。


「……よく、生きてたな俺」


手元のナッツを見ながら、そう優斗が呟いた。




「流石はチュートリアルの酒場の教官、中々わかりやすい講義でしたね」


「茶化すなよ、カディス」


俺は説明に使った腸詰を齧りながら言葉を返す。


「いえいえ、こうして戦力差を視覚化するのもわかりやすくていいですね、と」


「うむ。じゃが、正攻法では王級は殺れんというのがわかっただけじゃぞ?」


そうなんだよな。


実際に鬼王と戦って分かったのは、ルメールを入れた三人でも勝てる気がまったくしなかった事だ。


「ルメールの攻撃なら、通りはするだろう。ただ、殺しきるのは多分無理だ」


ルメールの攻撃は確実に相殺してきた事から、鬼王としても受けたくはないんだろう。


ただ、ルメール以外の攻撃が軽すぎる。


そして、ルメールでは削りきるまで魔力が持たない。


「おっさんがルメールさんの鉄槌を持つ奴じゃだめなのか?」


「あれは隙の大きい大型魔獣向けの手段で、鬼王相手じゃ俺が隙だらけになるから無理だな」


威力と回数は担保できるが、俺じゃ根本的な膂力と技量が足りない。


鉄槌に振り回されているところを、一撃されて終わりだろう。


「おっさんの必殺技の、【エーベル】だっけ。あれでも無理なのか?」


「通用するかもしれないが、猪突猛進の掛け声の通り、突進技だからなぁ」


絶対に防御されるか相殺されて終わりな気がする。


最悪、俺が樹猪を吹き飛ばしたように、今度は俺が吹き飛ばされるのがオチだな。


それに、必殺技はここぞって時に使わないとな。


活躍しない必殺技は、もはやただの技に格が下がっちまう。




「……今回の目的は、鬼王の排除。これでいいんですね?」


うつむいて考え込んでいたカディスが、顔をあげた。


「そうじゃのう。鬼王がおらねば、収穫者を誘導するのはリスクが大きすぎるはずじゃ」


「だな。今回の騒動が起こるまで、ゴブリンがほぼ全く森から出てないあたり、根こそぎ収穫者に刈られてるってことだろうし」


少なくとも鬼王を排除できれば、小鬼の森は元の状態に戻る可能性が高い。


「でしたら、仔細はこれから詰めなければいけませんが……こう言うのはどうでしょうか?」


――カディスの出した作戦は、作戦というにはあまりにも無謀なもので。


俺もカディスでなければ、無理だと断じていたようなものだった。


ただ、カディスの人となりを知っている俺は、カディスの作戦を採用した。


あとは本番をお楽しみに、ってとこだな。

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