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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第二章 小鬼の森の収穫者
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第34話 異変

■マリネ視点


ヴァイスのお願いで、優斗と那砂の採取に同行して二日目。


二人とも、すごく真剣に取り組んでいるからか覚えが早い。


那砂は一度聞いたことを忘れないし、採取もすっごく丁寧。


代わりに体を動かすのは苦手みたいだけど、そこを優斗が補ってる。


優斗は頭で覚えるのは苦手だけど、感覚で理解するのはすごく早い。


この前まで、領域広げっぱなしだったとは思えない成長具合だよね。


昨日に引き続き、兎だけじゃなくて狼も危なげなく倒せてる。


この調子なら、すぐにわたしなしでも境界の採取はできるんじゃないかな?


今は二人で狼の解体に向き合ってる。


「優斗くん、そこはもっと丁寧にしなきゃ。先に筋を切って……」


「……こう、だな。うーん、手順がややこしいな」


不器用だけどよく理解してる那砂が指示して、力もあって器用な優斗が解体する。


解体も丁寧だし、手順もあってるから、二人そろえば問題なさそうだね。


「どうかな、マリネちゃん」


「うん、これなら割引きなしで買い取ってくれると思うよ」


仕事が雑だったり、手順を間違えてると割引かれるからね。


物凄い上手くできると、割引きどころか割増しで買い取ってくれるようになる。


わたしも割増して貰ったことはないんだけどね。


……ヴァイスが解体上手なんだよなぁ。


だから、いつもヴァイスの分だけちょっと高いんだよね。


一番解体が上手なのはシンザキだってヴァイスは言うけど、解体してるのを見せてもらったことないんだよね。


シンザキはあれだけ料理が上手だし、納得してはいるんだけど一回見せてほしいなぁ。


二人が解体した狼を袋に包んでいるのを眺めていたら、ぴくりと尻尾が反応した。


頭より先に体が感じる違和感が、わたしの場合尻尾に出てくる。


「二人とも、何かおかしい」


警戒は早いに越したことはない。


違和感が確信になる前に言葉にする。


わたしは自分の耳にも尻尾にも自信があるけど、それでもわたしが気付かない何かに二人が気付くかもしれない。


丁度リュックに成果をしまったところだった二人が、わたしの言葉を疑うことなく周囲を見回す。


境界の草原は意外と草の背が高い。


だから、悔しいけどすっごく背の低いわたしだと見通せないところが多い。


その点、優斗は結構背が高い。


そういう意味でも、経験は浅い優斗でも警戒してくれるのは大きな意味がある。




「あっちの森から、何かがぞろぞろ出てきてる」


優斗が指をさす。


指が向いた方向を見た瞬間。


「優斗、肩借りるね!」


わたしは優斗の体によじ登り、肩の上に立つと目を凝らす。


草原をかき分けるように、森から人型の何かが逃げ出している。


――小鬼の森のゴブリン。


ヴァイス達の向かった森だ。


そこから見たことがない程の数のゴブリンがあふれ出している。


しかも、思ったよりずっと近くまで来てる!


草原の高い草に隠れながら駆けている。


このままだと、ゴブリンがここに来るのも時間の問題。


街へ向かおうにも、街道から離れた場所まで来てるから、戻ればゴブリンと鉢合わせは免れない。


だからと言って草原を駆け抜けるのも危険。


支配領域に比べれば安全だけど、あくまで比べたらの話。


ヴァイスぐらい強ければ別だけど、わたし達が狼の群れを相手にしたら無事じゃすまない。


「……あれ、ゴブリンだよな」


ゴブリンを見たことがある優斗も気付いた。


わたしは優斗の肩の上から飛び降りると、真剣な顔をしている優斗と向き直る。


「マリネちゃん。今の俺なら、勝てるか?」


ゴブリンは、決して弱くない。


人間の大人より力が強いし、武器だって使う。


相手を殺すための努力は怠らないから、罠も使う。


ヴァイス達があっさり倒してるのは、ヴァイス達が飛びぬけて強いから。


正直、わたしは勝てない。


不意を突いて急所を突ければ倒せるかもしれないけど、力が違いすぎて正面からじゃ無理。


それに獣人のわたしは、魔器を使いこなせなくて。


ヤマネ族のわたしには、相手を倒せる牙も爪もなくて。


悔しいけど、わたしは四級戦力にも満たない戦力外なんだ。


でも。


「うん、勝てると思う」


来訪者の優斗の魔剣なら、狼を危なげなく倒せるようになった優斗なら、一対一なら負けないと思う。


それに、ゴブリンには那砂の結界はどうやっても抜くことはできない。


二人なら、ゴブリン相手なら複数相手でも大丈夫。


「なら、街道を行こう。マリネちゃんが迷ったのはそこなんだよな?」


わたしの迷いが見透かされていて少し恥ずかしかったけど、優斗の言う通りだ。


二人がゴブリンを倒せるのなら街道を行くのが一番早い。


わたしは二人を連れて、街道へ戻るべく駆け出した。




ゴブリンの首を狙って優斗の魔剣が突き出される。


ゴブリンの棍棒がそれを受け流すも、それでも棍棒は半ばまで切断され、その勢いのままゴブリンの肩に突き刺さる。


痛みに叫ぶゴブリンが、それでも無事な腕を伸ばし優斗に掴みかかる。


だけど、それは那砂の結界に阻まれて優斗には届かない。


何が起こったかわからない表情を浮かべたゴブリンは、そのまま横に振るわれた優斗の魔剣によって首を断たれて絶命した。


「くそっ、数が多い!」


街道までが遠い。


思った以上に近くまで来ていたゴブリンと遭遇してしまい、そのままずるずると戦闘に巻き込まれてしまった。


優斗が攻めに集中して、那砂が優斗を守る。


そのコンビネーションはすごく良くて、思った以上に危なげなくゴブリンを倒せてはいる。


普段なら手放しで褒めてもいいぐらいにすごい。


でも、足を止めて戦う以上、どうしても時間がかかってしまう。


そうするうちに、別のゴブリンがやってくる。


だから、もう何匹ものゴブリンを倒しているのに、街道にたどり着けていない。


焦っちゃだめだ。


焦れば迷う。案内するわたしが迷うわけにはいかない。


なのに。


――小鬼の森から、炎が立ち上る。


遠いはずのここでもわかる。


背筋が凍りつくような憎悪。


小さなわたしでも見間違いようのない巨体。


あれが、ヴァイスの言っていた割者――収穫者。


逃げ惑うゴブリンを炎で草原ごと焼いていく。


だめだ。


あれはだめだ。


まだ遠い?


そんなの関係ない。


あれに距離なんて関係ない。


すぐに追いつかれる。


そう確信するほどの恐怖が、わたしの奥から湧き上がってくる。


「逃げなきゃ!」


怖い。


炎が怖い。


覚えのない記憶が、わたしの瞼の裏に浮かんでくる。


覚えのない誰かが、わたしを守ろうとする誰かが焼かれていく姿が、誰かわからないほど朧げに浮かんでは消えていく。


それがただただ怖くて、わたしの足が勝手に走り出す。


二人がついて来てくれる音を聞きながら、少しでもゴブリンに出会わないように耳を澄ませて駆ける。


視界の端に街道が見えてきた。


後少しで街道に辿り着ける。


耳にはゴブリンが動く音は聞こえてこない。


このまま行ければ。


そう思った瞬間、わたしの左足に激痛が走る。


「っ!?」


あまりの痛みに声も出ずに受け身も取れずに転んでしまう。


涙目で振り返ると、そこには棍棒を握ったゴブリンが狂ったような赤い目でわたしを嗤っているのが見えた。


隠れていたゴブリンにその棍棒で打たれたのだ。


耳だけに頼って確認を怠った油断が、間違いなく折れているであろうこの左足だ。


でも、痛みに震えている場合でも、後悔して嘆いている場合でもない。


収穫者の恐怖に狂ったゴブリンが、わたしに馬乗りになってきた。


牙も爪もないわたしだけど、使いこなせなくてもシンザキから貰った魔器がある。


脇の鞘に収めた短剣型の魔器を抜いて、ゴブリンの喉元に突き立てる!


……全力で突き立てようとした腕は、あっさりとゴブリンの手に受け止められた。


腕が折れかねない強さで握りしめられ、わたしの手から短剣がこぼれ落ちる。


「ぁっ」


シンザキがくれた短剣を手放してしまったことに、その情けなさに声が溢れる。


わたしの情けない声に、ゴブリンの顔が喜色に歪む。


嗜虐心を刺激したのか、棍棒で打ち据えるのをやめて手放し、空いた手がわたしの首を締め上げる。


首をへし折ろうとするほどの力に、わたしの手は抗うこともできずに宙を彷徨った。

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