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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第二章 小鬼の森の収穫者
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第31話 包囲

原始的な木を削って作った槍が突き出される。


だが、十分な殺傷力を持ったそれを鉄剣で切り飛ばす。


切り飛ばされることを前提に体勢を低くして距離を詰めてきたゴブリンを、鉄板を仕込んだつま先で蹴り上げる。


だが、全身が筋肉で出来た猿のようなゴブリンは、あご先を砕かれても止まらない。


木槍を離した手が俺をつかもうと伸ばされるが、弧を描いた鉄剣が腕ごと首を切り落とす。


一匹仕留めても、息つく間もなく即座に別のゴブリンのこん棒が襲い掛かる。


蹴り上げたままの足で上からこん棒を踏みつけ、踏みつけたこん棒を軸に回し蹴りを喉に叩き込む。


仰け反ったゴブリンの首を即座に切り落とし、次のゴブリンに備える。




あの後俺達は、何度かゴブリンの小集団を仕留めながら奥に進んでいた。


罠を避け、避けれないものを解除しながら着実に。


完全な暗闇になった夜は流石に息をひそめてやり過ごし。


朝になってさらに進んだ俺達は、ゴブリンの大きな群れを見つけた。


傷だらけのゴブリンが多く、罠にかかっている仲間を笑っている光景だった。


ペドロ曰く小鬼の森のゴブリンは民度がいいらしいので、外から来たゴブリンだったのだろう。


避けようとしたのだが、そのゴブリンを追ってきた小鬼の森のゴブリンの一団に挟まれ、ご覧のありさまだ。


しかも、俺達と外のゴブリンを潰し合わせようと取り囲んでるあたり、罠と言い頭の良さと言い小鬼の森のゴブリンの厄介さが際立つな!


それに、包囲網が薄いところから逃れようと逃げ出したゴブリンが、落とし穴に落ちて断末魔を響かせる。


こいつら、罠のある場所に誘ってやがる。


流石に俺も乱戦しながら罠を見抜いて解除とかは無理だ。


進んできた道に戻れば罠は避けれるが、そっちには回り込んできた小鬼の森のゴブリンが退路を塞いでいる。


今相手してる外のゴブリンと違い、しっかりと作られた武器や盾を構えているので簡単にはいかないだろう。




「吹き飛ばす?」


ペドロの隣で暇そうにしているルメールが鉄槌に持たれかかりながら、近づくゴブリンを蹴り飛ばす。


人形の体故に恐ろしく軽いルメールだが、鉄槌を軽々と振り回せることからわかるように力は尋常じゃない。


軽く蹴られたように見えたゴブリンの首がおもちゃの様に回ってそのまま動かなくなる。


その力に魔力を込めて鉄槌を振り下ろせば、罠ごと吹き飛ばすのは容易だろう。


「流石にそれはやめた方がよいの」


大槍を振るい、ゴブリンをたたき伏せているペドロがルメールの案に反対する。


ルメール程ではないが、地人であるペドロの膂力は相当なものだ。


扱う大槍もそれ自体が鈍器だ。


遠心力と魔力を込めて振り下ろせば、強靭なゴブリンといえどひとたまりもない。


もしも耐えれたとしても動きが止まり、即座に突き出された穂先によってとどめを刺されていく。


「小鬼の森の土質だと土埃で大変なことになってしまうからのう」


「乱戦で視界が奪われるのはよくないですね」


カディスが白い魔剣アルビオンを振るいながらペドロに賛同する。


白い軌跡を描きながら縦横無尽に振るわれるアルビオンが、領域に踏み込んだゴブリンを瞬く間に切り捨てていく。


息を殺して背後から襲ってくるゴブリンも、まるで見えているように振り向きざまに切り捨てる。


その動きの基本は、武器を握る指や踏み込むつま先を切り飛ばし、一瞬でも怯めば次の瞬間には命を絶つ。


隙を作り、止めを刺すその動きは対人戦を主軸にしている動きだ。


魔獣相手を得意にする俺とは別方向のカディスの強さが垣間見える。


流石はアルビオンの旅団を任されるだけはある。




逃げ場のなくなった外のゴブリンは死に物狂いだ。


装備も練度も劣っているが、それでも覚悟も決めきれないように確実に即死させていく。


「なら、さっさとこいつらを一掃するか」


少なくとも、この森の異常の原因になっている以上減らしておくに越したこともないしな。


「カディス、二人で押し込むぞ。ルメールとペドロも続いてくれ」


「承りました」


元々バッカス組を率いての集団戦を得意としているペドロは囲まれるのは得意じゃない。


なので温存しておきたいルメールの二人に背中を任せて、俺とカディスで前に出る。


外のゴブリンを一掃し、そのまま包囲網を超える。


俺が正面から押し込み、魔力を込めて重量を増した鉄剣でゴブリンの体勢を崩し。


カディスが崩れたゴブリンを白い軌跡を描きながら即座に刈り取っていく。


ゴブリンの力は確かに強いが、樹猪に比べれば何という事もない。


誓いの言葉込みとはいえ、樹猪より重い俺の牙を防げるかな?




俺達が進むたびに外のゴブリン達が倒れ伏していく。


包囲網を敷いている小鬼の森のゴブリン達も、俺達の練度に脅威を感じているようだ。


実際、乱戦でこちらを仕留めようとした小鬼の森のゴブリンの何匹かを返り討ちにしている。


外のゴブリンが壊滅状態にもかかわらず、こちらの被害が全くないのに焦っているのが見て取れる。


来た道を塞いでいたゴブリンはすでに移動し、小鬼の森のゴブリンは集まって陣を組む動きに代わっているな。


今なら退くことはできるが……俺達の目的としては拙い。


外のゴブリンが入り込んだためという、異変の理由は推測できたが、それにしても引っかかる。


外のゴブリンと、小鬼の森のゴブリンとの装備と練度の差。


罠の敷き詰められた森の優位を考えれば逃がさずに殲滅できるだろう。


にもかかわらず、ゴブリンが境界にまで逃げ出してきている。


今思えば、装備からして境界にいたのは小鬼の森のゴブリンじゃない、外から来たゴブリンだ。


わざと逃がしている?


その目的はなんだ?


……こういう時は地頭の悪さが響く。


少なくとも片手間で答えは導き出せそうにはない。


まずは、外のゴブリンを殲滅して、正面の小鬼の森のゴブリンの包囲網を突破して……。



――轟



背筋が凍るような圧と同時に轟音が響く。


正面の小鬼の森のゴブリン達が、文字通り消し飛んだのが見えた。


衝撃の余波で、周囲の罠ごと木々が吹き飛び、土埃が舞い上がる。


魔素の壁のおかげでこちらまでは届かず被害はないが、それでもそれをもたらした魔力の余波に背筋が冷える。


「……収穫者ではないぞ」


後ろからペドロの声と槍を構えなおした音が、ルメールが今まで下ろしていた鉄槌を構えた音が聞こえる。


俺も、隣のカディスも


生き残っている外のゴブリン達が活気付き、大きく数を減らした小鬼の森のゴブリン達が新たな乱入者に武器を、盾を構える。


土埃が薄れていく。


そして、代わりに樹狸よりも遥かに大きな圧が強まっていく。


駆け寄った外のゴブリンを、まるで子供をあやすように撫でる大きな腕。


魔獣の骨で出来た巨大な大剣を抱えた、2メートルを超える体躯。


魔獣の毛皮で出来た外套を纏い、ゴブリン達に慕われる姿。


その牙で出来た冠が、自分こそが主だと主張している。


――ゴブリンの王


そうとしか言えない化け物が、そこに立っていた。

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