第27話 旅団
伏兵も全部始末したのを確認すると、後処理をアルビオンの彼らに任せる。
相変わらず見事な手際だ。
魔剣アルビオンは、同じ領域内のアルビオン同士で意思を共有する群体型の魔剣だ。
使い手と剣心一体となることで、子供であっても熟練の剣士のような動きを可能にする。
知識も常に魔剣が提供してくれ、指導までしてくれるからアルビオンの者は例外なく強い。
特に集団戦での連携力に関しては世界一と言ってもいいだろう。
領域を共有していれば、思考まで共有されるから、文字通り一つの生き物のように動き出す。
その仕様上、国民の数は管理されていて、大分ディストピア感漂ってはいるんだけどな!
初対面の相手に「ヴァイスさんですね!」とにこやかに挨拶されるのが当たり前なのマジで怖いし。
とは言え、その性質上、アルビオンの民というだけで信頼がおける。
魔剣アルビオンは不正を見逃さないし、ごまかすことは不可能。判断が常にアルビオンの総意だから話も早い。
だから、アルビオンは世界有数の軍事国家であり、金融機関であり、商人なのだ。
カディスはそんなアルビオンの商人で、旅団を率いて国を跨いで商いをしている。
クシナド王国を担当してくれていて、建国の時から世話になっているし、チュートリアルの酒場立ち上げも手伝ってくれた仲だ。
アルビオン人という意味とは別で、俺はカディス個人を信頼しているわけだ。
「そちらのお二人は、初めましてですね?」
「あぁ、ちょっと前にこっちに来たばかりの来訪者だよ」
「やはり!その特徴的なお召し物を見てそうではないかと思っていたのです」
二人が着ているのは神様製の制服だから、わかる人にはすぐわかる。
特に、来訪者好きのカディスならすぐに気付くと思っていたよ。
「えっと、優斗です」
「那砂っていいます、よろしくお願いします!」
「これはどうもご丁寧に。私はアルビオンの商人、カディスと申します。以後お見知りおきを」
挨拶をする二人に、商人特有の丁寧な礼をするカディス。
「この二人は旅団を見るのが初めてでね、顔合わせも兼ねて見学に連れてきた」
「なるほど、旅をするもの特有の工夫は、街を守る開拓者とはまた違いますからね」
納得したと頷くカディスが、自慢するように馬車を指し示す。
地球でいうところのキャンピングカーのような形をした、大型の馬車だ。
完全に締め切ることができるようになっており、窓も用意されて完全に動く家のようだ。
「境界の旅は、いかに目立たず刺激せず、が重要ですからね。領域が漏れない作りで、かつ魔素の抵抗を受けない素材でできております」
「近くで見ると、すっげぇ装飾」
「遠目でも白くてきれいでしたけど、芸術品ですね……」
純白の素材で白一色で作り上げられた馬車は、旅の安全を祈願した装飾が施されている。
旅団の馬車、特に国直属の旅団ともなれば、その作りも完成度も相応の素晴らしいものになるわけだ。
「そう言っていただけると私としても鼻が高い。最高の馬車だと自負しておりますが、それでも来訪者の方に褒めていただけるとほっとします」
カディスからすれば来訪者は異世界の価値観を持っている相手だからな。
そういう相手にも通じるのは安心するのだろう。
「ヴァイスはそういう評価はしてくれませんからね」
「最初に会ったときはそれどころじゃなかっただけだっての」
俺だってすごいとは思ってたぞ?
そんな余裕がマジで当時なかっただけで。
「あの、ところでこの馬車を牽いてる、この……お馬さん、ですか?」
那砂がものすごく気になっていると言わんばかりに視線を向けたのが、地球の感覚では馬がいる場所の所。
そこには、肩高さ2メートルはある巨大な馬。
額には、鍛え上げた剣のような一本角をはやした、純白の馬たちだった。
「ユニコーン……じゃねぇよな」
「幻獣のユニコーンとは違うね。彼らはアルビオンの歴史と共に進化し、剣を持つようになった馬――ソードスティードだよ」
「そんなことあるのか?」
優斗が驚くのも無理はない。
人間が刃物を使ってるのを見続けてるから剣が生えてくる、なんておかしいよな。
「魔素は精神に感応する。という事は、思い描いた理想の姿が影響し、次代に引き継がれることがあるんだよ」
獣人とかも、周囲の環境や領域支配者の影響を受けた種族が生まれやすいらしいし。
「だから、地球では想像もできないような進化を遂げた生き物がいっぱいいるぞ?」
「まじかっ!」
男ならそういう反応になるよな。
厳しい世界だが、そういう楽しみはしっかりあるから楽しみにしているといい。
「ふわぁ、すっごい綺麗で格好いい……!」
那砂が剣馬にふらりと吸い寄せられるのを、優斗が気付き抱き留める。
「馬鹿、地球の馬と違うんだぞ」
「うぅ……ごめん」
うん、これは優斗が正しい。
というか地球の馬でも不用意に近づいたら駄目だぞ?
「彼らは非常に頭がよく従順だけれども、アルビオン人以外が近づくのはお勧めはしないかな」
「はい、ごめんなさい……」
俺としても、こいつらが魔獣を角で切り捨ててるのを何度も見てる身としては近づかないのをお勧めするぞ。
「では、そろそろ出発しよう」
後始末が終わり、止まっていた馬車が動き出す。
ちなみに、ゴブリンからは魔石を回収するだけだ。
あいつらこの世界だとどっちかというと猿なんで喰えないこともないが、別に美味くもないしな……。
あのぐらいの数なら、街道から外れた草原に埋めておけば、そのうち狼を始めとした動物が気付いて処理してくれる。
この世界は簡単に腐敗しないから、一時しのぎの匂い消しを撒いておけば大丈夫だ。
先頭の馬車に並走するように小走りでついていくと、カディスが声をかけてくる。
「なぁヴァイス。小鬼の森に何かあったか?」
「……いや、特には聞いてないな」
樹鹿の森はこの前報復戦があったが、あれ以降は大人しい。
小鬼の森は基本的に旨味もないし、危険地帯なので普段は立ち入り禁止だ。
「今回、森沿いの境界を抜けるまで、ゴブリンの襲撃が何度もあった」
「……それは妙だな」
小鬼の森からゴブリンは基本的に出てこない。
何故なら、出てくる間もなく“狩りつくされている”からだ。
稀に狩り漏らしが出てくる程度で、何度も襲撃をかけるようなことはまずない。
それが出てきているとなると……森で何かあったか?
「情報提供感謝する」
「帰り道の安全を確保していただきたいからね、この程度いくらでも」
北に向かって伸びるあの街道の安全は街にとっても死活問題だ。
何より、ゴブリンが森から出てきているというのが一番“まずい”
「明日にでも偵察に向かうかぁ」
小鬼の森に行くのはいつぶりだろうか。
正直心の底から行きたくないのだが、俺以上に適役がいないんだよなぁ!
とは言え、あいつに遭遇する可能性を考えると俺一人じゃ心もとない。
ルメールとペドロに声をかけるか。
ルメールの強さは言うまでもないし、ペドロは開拓者としての経験値は俺より上だ。
ただ、ルメールは燃費が悪いし、ペドロは攻撃役には向かないんだよなぁ。
あと一人、攻撃役を任せられるのが欲しいけど誰にするか。
……なんだよカディス、俺が悩んでるのが面白いのか?
「それ、私も同行していいかい?」
……本気で言ってる?




