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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第二章 小鬼の森の収穫者
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第26話 アルビオン

合流するべく歩き出すと、一息ついて余裕ができた那砂が首をかしげる。


「たしかアルビオン、っていうとグレートブリテン島の古い呼び方ですよね」


「お、詳しいじゃないか。アルビオンの歴史書に地球出身者が出てくるらしくて、多分由来はそれらしい」


アルビオンの友人が、俺が来訪者と知って嬉々として語ってくれたよ。


「だからか、来訪者には好意的な国でな。開拓団チュートリアルの酒場を贔屓してくれてるわけだ」


「それで出迎えに?」


そゆこと。


「それに、旅団が動いているのを実際に見た方がいいと思ってな」


「何か、特別な何かがあるってことなんですか?」


「旅団に必要なのは強さと、それを表に出さない謙虚さが大事なんだ」


「謙虚さ?」


そう、謙虚さ。


境界を縫って旅をする旅団は、どうしても領域を刺激しやすい。


強すぎたり、目立ちすぎるような奴だと領域支配者の警戒心を刺激してしまう。


その工夫の粋を凝らしたのが旅団だ。


旅団と同行したり、数人で境界を超える機会があるだろうから、実体験はしておいた方がいい。


「支配領域の近くを通っても、この感じなら無害だろう、って思わせる工夫が大事ってことだよ」


「なるほど……」


俺は気配を消すのは得意だが、あれは向き不向きがあるし単独行動向けだ。


なら、俺が教えるよりも教材としては旅団の方が適しているからな。




「そういえば、今更なんですけど、私たちのいる街と国の名前って何なんですか?」


「あー、説明してなかったな」


街と街、国と国が支配領域に遮られて離れているこの世界だと、固有名詞をわざわざ使わないことが多いからつい。


「俺たちの属している国の名前は“クシナド”だ。青銀の錬鉄王国クシナド、その旧王都が俺たちの街だよ」


「え、昔の王都だったんですか!?」


そうなんです、王都だったんです。


「実は俺たちの街も国も十年半ばの若輩でな。二十年前に旧王都が壊滅。


 地方都市の一つだった地人達の鉱山都市クシナドの領主が、荒れた国を救うために立ち上がってできた国なんだよ」


「じゃあ、王様は地人の方なんですね」


「あぁ、若いのにしっかりした奴だよ。王とは名ばかりの立場ながらよくやってる」


「知り合いなのか?」


「建国の際にちょっとな」


この辺りを話し出すと長くなるからまたの機会にな。


「そんな訳で、壊滅した跡地に復興したのが俺たちの街だ。正式名称があるはずなんだが、みんな旧王都って呼んでる」


あまりに呼ばれなさ過ぎて、正直俺もうろ覚えだ。


「なんで、クシナド王国の旧王都、で覚えておけばいい」


「わかりました!」




前回の野営地にたどり着くと、人の顔がわかりそうなほどの距離にアルビオンの旅団が見えた。


俺が手を振ると、先頭の馬車で御者をしている誰かが手を振り返してくる。


あの感じは、どうやら俺の友人のようだ。


危険な長旅を強いられるキャラバンは、万全を尽くしても安全とはかけ離れている。


旅の途中で倒れるのが当たり前の厳しい世界で、こうして再会できるのは嬉しい限りだ。


友人の生存を確認出来て、肩の力が抜けた。


その時。


「……なあおっさん、街道脇の草原おかしくないか?」


「ん?」


優斗の指さす方向に目を凝らすと。


背の高い草に隠れた、人型の……。


――そう判断した瞬間、俺は鉄剣を一瞬で半分抜き、魔力を込めながら高速で鞘に納める。


威嚇の意を込めた鞘鳴りが、境界に響き渡る。


「ゴブリンだ!!」


俺の鞘鳴りに気付いた友人が即座に馬車を停止させる。


「行くぞ二人とも!」


「おう!」


「は、はい!」


待ち伏せとは悪知恵の働くこって!


俺は文字通り飛ぶように街道を一息に駆けていく。


こういう時に魔素の速度制限が面倒だ!




■優斗視点




速い!


おっさんが漫画のように、地面を蹴って飛ぶように走っていく。


俺も体感したからわかるが、魔素の壁にぶつからないギリギリの速度なんだろう。


それでも人間が出せるとは思えない速度で駆け抜けていく。


「那砂!」


「うん!」


那砂はもともと運動が苦手で、長距離も向いていない。


だから、事前に話し合っておいた。


那砂が俺の背中に飛び乗り、俺が那砂を背負う。


領域を強く意識して浮力がでるようにすれば、那砂の重さなんて無いも等しい。


全力で駆け抜けていくと、馬車から何人もの人たちが下りてきているのが見えた。


上は老人、下は中学生ぐらいの子供まで、老若男女含めてかなりの数だ。


「何考えてるんだ!?」


大半が守るべきような人たちで、とても戦えるようには見えない。


「来た!」


背負ったことで視点が高くなった那砂が叫ぶと同時に、街道脇の草原から人影が大量に飛び出してくる。


それは、俺が想像している醜悪な魔物のゴブリンというより生々しく。


体毛の薄くて二足歩行している猿といった風体をしていて、でもそれが何かと言われれば、ゴブリンとしか言えないものだった。


尖った耳は大きく、赤い目は遠目にも欲に塗れているのがわかる。


骨や木で出来た武器を持って、想像以上の俊敏さで彼らに飛び掛かっていくのが見える。


くっ、間に合わない!


遠距離攻撃ができない以上、俺はこれから起こる惨劇を想像して眉をしかめ。


――目の前の異様な光景に、言葉を失った。





馬車から降りた、老若男女様々な人々が。


各々が自然に剣の柄に手を添えた瞬間、全員の目が同じように細められ。


――全く同時に、全く同じ動作で、全く同じ魔剣を抜き放つ。


柄頭から切先に至るまで、純白の魔剣。


商人や町人にしか見えない彼らは、滑らかに一切の淀みなく魔剣を構え。


まるで歴戦の剣士の如き精錬された動きで、襲い掛かってきたゴブリンの武器を切り払う。


切り払った瞬間、そうなるのがわかっていたように近くで控えていた他の誰かが即座にゴブリンの腕を切り落とす。


ゴブリンが腕を切り落とされたことに気付く前に、武器を切り払った者が返す刃でゴブリンの首を切り飛ばした。


「……えっ?」


あまりの事態に、背中から那砂の驚きの声が漏れてくる。


それが、各所でほぼ同時に行われていた。


一瞬。


老人が、子供が、熟練の剣士のような動きでゴブリンを一瞬で切り捨てる。


冗談のような光景に、俺は気づいたら足を止めて呆然とその光景を眺めていた。


「驚いたろ?」


いつの間にか視界から消えていたヴァイスが、抜身の鉄剣をもって草原から現れる。


血糊に濡れた鉄剣を見るに、隠れていたのを倒してきたんだろうか。


この一瞬で?


「あ、あぁ。驚いた」


彼らにも驚いたが、おっさんの動きにも驚いたっての。


そう声には出さないでいたら、聞きなれない声が聞こえてきた。




「王より授かった魔剣アルビオンを携える、全国民が王に仕える騎士の国。我らアルビオンの矜持は示せたかな?」




一見して、変哲の無い人のいい青年にしか見えない男が、他の人と同じ剣を帯びてやってくる。


御者をしていた、おっさんの友人という男。


「久しぶりだな、カディス。元気そうで何よりだ」


「助かったよヴァイス。奇襲されていたら大事な馬車が傷物になるところだったよ」


何となく。


俺にはこのカディスという人が、おっさんのような化け物なのではという錯覚を覚えた。

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