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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第二章 小鬼の森の収穫者
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第25話 浮力

草原の採取依頼を受け準備を整えた俺達は、門を超えて境界に向かうべく酒場を出る。


今日は日帰りの予定なので弁当持参。


マリネが練習で作った失敗作が詰まってる。


失敗作って言っても、シンザキが求める基準に達してないだけで充分美味いんだが。


あいつ、普段はマリネに甘いのに、料理に関してだけはマジで厳しいからなぁ。


「私たちもよかったんでしょうか」


那砂が自分たちの分の弁当が入ったリュックを見ながらつぶやく。


「遠慮なく貰ってやってくれ。冷めてからが本番だから、感想も伝えてやると喜ばれるぞ」


本気で料理人目指してるマリネだ、厳しい意見の方が喜ぶだろう。


「そういえば、今日はルメールさんいなかったな」


「あいつは買い物。毎回服をオーダーメイドで仕立てるから時間がかかるんだよ」


飲食しないし装備にも金がかからないのに、開拓団最強なので高給取りのルメールは金の使い道がない。


なので、金が余ると服を作りに行くんだよな。


まぁ、どっちかというとルメールの体を作った俺の級友の趣味の影響なんだが。


なので人形のルメールに似合うゴスロリや王子ロリィタ系が俺の部屋の衣裳部屋に増え続けている。


……可愛いし似合うから何も言わないけど。


「仮縫いが終わったら帰ってくるから、明日には戻ってると思うぞ」


「楽しみですね!」


目をキラキラしながら語る那砂に、かといって口に出して楽しみだというのもむず痒く、軽くうなずいておいた。




俺は馴染みの門番に手をあげ、門をくぐる。


ボールを水の中に入れるような抵抗を感じる。


俺には慣れ親しんだ感覚だが、まだ慣れない二人は軽く身震いをしていた。


それでも、樹鹿の森を経験したからか、その表情は落ち着いたものだった。


「さて、まずは前回の野営地まで走るぞ」


「走るって、結構な距離あるだろ!?」


何時間も歩いた場所だから、走っても一時間以上はかかるだろうな。


「そこで、境界だからこそできる小技を教えてやろう」


境界の魔素の挙動は水に似る。


俺たちが纏う領域は言ってしまえば泡だ。


そして水の中の泡は浮く。


と、いう事は。


俺が、軽く地面を蹴ると──ふわりと、体が水底を蹴ったように浮かび上がる。


「えっ!?」


「浮いた!?」


ゆっくりと浮かび上がった俺は、そのままゆっくりと落ちてくる。


「境界の魔素が水の挙動をするのを利用して、浮力を得る方法だな」


「すっごいメルヘンですね!」


ふんわりと泡をまとって跳ねるとか、確かにそう見えるか。


「おっさんじゃなけりゃ、確かに」


マリネやルメールじゃなくてすいませんね!


あ、いやマリネはメルヘンだが、ルメールだとちょっとホラーと紙一重だな?


「境界でしかまともに使えないが、領域の維持さえできれば体の負担はだいぶ少ないから長距離移動に便利だよ」


精神的な負担があるから、慣れるまでが難しいんだがな。


「そんな訳で、二人にはこれの習得を目標にしながら移動していこうか」


「……もしかして、難しい技術だったりします?」


個人差があるが……少なくとも来訪者には難しいのは間違いない。


返事の代わりに笑顔を向けておこう。


「がんばれ!」


「絶対難しいだろこれ!」




俺が後ろ向きに軽く跳ねながら二人を見守る。


二人は少し浮いたり浮けなかったり、少し浮いてもすぐに浮力が切れたことで何度も転んだりしながらも真面目に取り組んでいた。


優斗は地面を蹴った勢いでふわりと浮き、そのまま草の上に前のめりに倒れ込み。


那砂は何度も跳ねようとしては転び、膝には土がこびりついている。


それでもめげずに真摯に取り組んでいるのを見ると、教える側としては嬉しい限りだ。


「戦闘中は相手の領域で阻害されるからまず使えないが、戦闘以外は便利だからなー」


「おっさんの、楽そうな顔を見れば、便利だろうなって思うよ!」


意外と余裕あるな優斗は。


運動は苦手なのか、那砂の方は声を出す余裕はなさそうだ。


頭も覚えもいい那砂だが、理論派なのかだいぶ手こずっている。


優斗は感覚派なのか、すでに多少浮力を得ているようで僅かだが足取りが軽い。


……初日でこれは驚きだな。


優斗ができるようになれば、那砂ができなくても背負って移動すれば問題なくなる。


お互いの領域が重なっていても一切の違和感を感じていないようだし、阻害も起きないだろう。


本当にバランスのいいコンビだ。


「で、旅団の出迎えって、どこまで行きゃいいんだ……!?」


「先触れの話だと、そろそろ森を接する街道を抜けてくるころだと思うんだが」


旅団は街に到着する前に先触れを出して知らせるのが基本になってる。


支配領域を縫って境界を渡って旅をする旅団は、武力集団の側面も持つ。


先触れなしだと敵性集団と受け取られかねないんだよな。


「ここらで丘を越えるから、そろそろ見えると思うぞ」


坂を上り、丘を越えると、遠くに樹鹿の森と小鬼の森の境界線を縫う街道がよく見える。


丘を上り、境界線を縫う街道を見渡すと、その奥に三台の大型の純白の馬車が列をなしているのが見えた。


それぞれを引くのは、遠目にも堂々とした体躯を持つ馬たち。


その額からは真っ直ぐに伸びた剣のような角が陽光を受けて鈍く光っている。


息を整えながらも、それを見た二人が顔を合わせる。


「わぁ、真っ白!」


「なんで、あんなに白いんだ?」


「馬車の色を統一しているのは、あの旅団の所属してる国の国色だからだな」


この世界では国毎に“国の色”を制定している。


その色は、決して他と被ることのない、国に根付いた色が選ばれている。


「白を冠する国の名は『アルビオン』、白亜の城塞国家アルビオンだ」

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