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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第二章 小鬼の森の収穫者
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第24話 割者

「われもの……ですか?」


那砂が俺の言葉を繰り返す。


俺は頷き、淡々と答えた。


「器が割れた者──通称、割者」


宅配の“割れ物注意”どころじゃ済まない、こっちじゃ命がけのお話だ。


「さっき、器に牛乳を満たしてコーヒーを足すって例えをしたよな。


 もし、そのコーヒーを入りきらないほど注いだらどうなる?」


「……溢れるよな」


「そう、普通は溢れるだけだ。だから、大量の魔石を摂取しても、そう簡単に割れることはない」


じゃあ、なぜ割者が生まれるのか。


「一つは、圧倒的格上の魔石を吸収した場合だ」


魔石に圧縮された精神は、解放されると一気に膨張する。


そうなれば、格が違う器じゃ耐えられず、内側から弾ける。


「もう一つは、本人が無理やり押し込む場合だな」


出口を塞いで詰め込めば、当然、中から亀裂が走る。


「……そうなったら死んじゃうんじゃ?」


那砂の問いに、俺は小さく首を振った。


「普通はそのまま割れて死ぬ。だが――」


強い意志で乗っ取るか、覚悟をもって取り込んだ場合、話は別だ。


「魔素は精神と反応して魔力になる。そこに、器が耐えきれないほどの精神量と、それを抱え込む覚悟があれば」


割れた器から溢れた思いは形を作る。


「……器の外に溢れ出した中身が、その上に新たな体を作り始める」


器という制約を捨て、肥大化し続ける魔力の肉体を得た覚悟と狂気の怪物。それが割者だ。


「割者は存在自体が災厄。その脅威度は最低でも樹狸級、上は天井知らずだな」


「あの、樹狸ぐらいが最低、ですか……!」


実際に樹狸を見た那砂の顔が盛大にひきつる。


そう、あれが最低ラインだ。


「だが同時に、弱き者を守る抑止力でもある」


「抑止力……?」


「例えば、樹鹿が本気でこの街を襲ったら、俺達じゃ止められない。


 だがそんな真似をすれば、この規模の街なら樹鹿に通用する程の割者が生まれる」


割者の多くは、大切なものを守れなかった者が生まれ変わった存在だ。


逃げ場がないほど追い詰められたとき、人は割れることも厭わなくなる。


「中でも一番多いのは子を守ろうとして守れなかった母親、って話があるくらいだ」


それこそ種族も関係ない程に、母の愛は強いってことだな。


「だからこの世界では、小競り合いはあっても皆殺しは滅多に起こらない」


数多の悲劇の教訓が、本能にまで刻み込まれているから。


「……いいことなのか?」


優斗がぼそりと呟く。


俺は肩をすくめて、淡々と言葉を返す。


「……割者がさらに悲劇を広げることもある。悲劇の“量”は減っても、“質”は上がる。質のいい悲劇なんざ、誰も求めちゃいねぇのにな」




「まぁ、そんな訳で魔石の吸収は精神も回復するし強くなれるがハイリスクってことだな」


「ハイリスク過ぎませんか!?」


「ハイリターンなんだから仕方ない」


それに。


どうしようもない時の“保険”に開拓者は一番いい魔石を常に身に着けている。


死ぬよりはまし、って選択肢でも用意しておくべきだからな。


「そんなわけで、精神の回復手段ってのは本当に少ない。二人とも慎重に立ち回るように」


「はい!」


「嫌って程に」


身に染みているのならばよし!


辛い目にあった優斗もそれを見ていた那砂も、そうそう無茶はしないだろう。


……というか、ガラティーン君の解放技が精神消費型なのが悪いだけで、普通はあんなに精神消耗しないんだけどな!


魔法使いでもない限り基本的に支配領域で領域維持するぐらいだし。


「そんで、二人はそろそろ依頼を受けるのか?」


「あぁ、那砂とも話し合って、境界にある草原の採取依頼でも受けようって話に」


お、ちゃんと身の丈に合った依頼を選んで偉いじゃないか。


境界だからこそ採れる素材もあるし、動物も多数生息している。


油断はできないが、森などの支配領域と比べれば難易度はぐっと下がる。


その分、報酬も低くはなるが、それは仕方ない。


「でも、さすがにまだ二人だけは心もとなくてですね……」


「一回行っただけだし、それで楽観視はできそうにない」


那砂と優斗の言葉に嬉しくなり、つい腸詰をおすそ分けする。


慎重さは本当に大切だ。


それが二人に備わったのは本当に喜ばしい。


「そうだな、マリネが空いてれば安心なんだが……マリネ暇かー!?」


厨房に引っ込んでいるマリネに声をかけると、少し時間を置いてから。


「今日は無理―!前からシンザキにお願いしてた料理を教えてもらえる日なのー!!」


おっと、それは大事だ。


一流の料理人であるシンザキを目標にしているマリネは、料理を教えてもらう日を楽しみにしてるからな。


正直マリネは忙しい。


ウェイトレスに開拓者、料理修行もしているし、酒場の雑用もこなしてる。


それでも空いていれば二つ返事で付き合ってくれる。


……無理してなければいいが、本人が楽しそうだしとやかくは言うまい。


「なら、そうだな。俺もちょっと境界に用事があるから、それに付き合ってくれるなら採取依頼に付き合おうか」


「え、いいんですか!」


「用事ってなんなんだ?」


二人には顔合わせもしておきたいし、説明するにも丁度いいだろう。


この世界の二大組織、街を守り広げる“開拓団”と双璧をなす組織。


「“旅団”のお迎えだよ」


街と街を結ぶ“旅団”についての説明に。

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