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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第一章 チュートリアルと樹鹿の森
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第15話 魔虫

■優斗視点


地球と変わらなかった街中から、街の外に出て。


水の中のような境界に心揺さぶられて。


でも、これぐらいなら全然大丈夫だと思った。


ヴァイスのおっさんに稽古してもらい、世界を教えてもらい。


狼と戦って、何とか勝って。


もしかしたら、俺はやっぱり少し特別なのかなって。


思い上がって。


樹鹿の森に入って、それが思い上がりだと即座に叩き込まれた。


俺と那砂は息を吸うのもやっとで、頼りになるマリネちゃんですら、息を荒くして。


おっさんだけは、息一つ乱さずに平然としていた。


森の採取でも、どれだけ格が違うかを嫌というほど思い知った。


俺と那砂だけじゃない。マリネちゃんのフォローまで、それが当たり前のようにこなしていた。


どれだけ積み重ねたら、あそこまで至れるのか。


俺には全く分からなくなっていた。




マリネちゃんの尻尾を目印に、那砂の手を引いて走る。


後ろでは、硬いものがぶつかり合う音が聞こえてくる。


ちらりと見えた馬鹿でかい魔虫とやらと、おっさんが戦い始めたのだろうか。


振り向かずに、那砂の手の温かさを離さないように、ただ走る。


息苦しさと恐怖に震える中で、ふと視界の隅に映る。


高い枝に群れる光が淡く瞬き、薄闇の森を星空のように飾っていた。


恐ろしい場所なのに、こんなにも綺麗なんだと一瞬思ってしまった。


「最悪!」


マリネちゃんが大声で悪態をつく。


巨大な蜘蛛が、行く手を阻むように起き上がるのが見えた。


おっさんの所とは別の魔虫!?


そういえば、マリネちゃんは隠れてたり寝てたらわからないって言ってた。


確かに、これは最悪だ。


人間よりすこしでかい体に、異様に長い脚をもった蜘蛛は、想像以上に大きく恐怖をあおる。


ぎちぎちと口が開き、岩だって砕きそうな無数の歯が見えた。


そのくせ、その長い脚はかさりともせずに動いている。


「時間稼がなきゃ……」


尻尾を逆立て、威嚇するマリネちゃんを向いていた蜘蛛。


その何個もある無機質な目が、こちらを向いた。


その瞬間。


――得体のしれない、だが強烈な“食欲”が、それに伴う殺意が俺達を押しつぶした。


「あ、あっ」


那砂の声になり切らない悲鳴が聞こえる。


いつの間にか、恐怖で震えた手は那砂の手から離れていて。


固まった首でどうにか振り返ると、そこには恐怖に固まった那砂の顔。


視界の端に、何かが動いたのが見えた。


「……くそがぁっ!!」


体は、動いてくれた。


那砂に向けて音もなく突き出された槍のような脚に、ガラティーンを力いっぱい叩きつける。


逸れた脚が、那砂の顔の横を通りすぎ。


目標を邪魔をした俺に即座に切り替えた脚が、俺を吹き飛ばした。


間一髪ガラティーンで受けたが、その直後に壁にぶつかるような衝撃に襲われる。


「がっ!?」


魔素の、壁……!?


そりゃ、吹き飛ばされても高速移動には違いねぇけど……!


受け身も取れず魔素に叩きつけられた俺は、その場に崩れ落ちた。


「こんのぉ!」


マリネちゃんが、蜘蛛に飛び掛かかるも、脚に阻まれて近付けなくて。


「優斗くん!!」


那砂が涙交じりの悲鳴を上げながら必死に俺に近付こうとするも、脚で狙われて結界で防ぐので精いっぱいで。


俺は、朦朧とする意識の中で。


これ以上に強い衝撃を、どこかで受けたなと、ぼんやりと思い出していた。




途切れ途切れの記憶。


学校帰りに、那砂と二人で、出かけて。


そうだ。


確か、信号を渡ってたら、バスが。


俺、那砂を庇うことしかできなくて。


そうだ、その時だ。


それで――




『それが、ガラティーン。日輪の写し身。君の、君の為だけの剣だよ』


那砂を守れるだけの力が欲しくて。


夢のような場所で、どんな力が欲しいかと神様に聞かれて。


俺が願ったのは、どんな相手も退けて那砂を救える力。


『力を使うときは、こう唱えるんだ』


そう、確か……。




倒れながら、蜘蛛に向かってガラティーンを掲げる。


「日輪の、写し身よ……」


刀身に複雑に刻まれた刻印に、光が刻まれていく。


「その影を……」


俺の中から、急激に何かが剣に吸われていく。


だが、それでいいのだと、俺はありったけの魔力を剣に込める。


「かの地に示せ――ガラティーン!!」


刹那。


太陽が現れ、俺の意識を塗りつぶした。




■ヴァイス視点




甲虫の群れと大蜘蛛を切り伏せ、俺が駆けつけた時。


それは優斗のガラティーンから、小さな太陽のごとき爆炎が撃ち出された瞬間だった。


「うっそだろ!?」


一瞬だけ輝いた太陽は、大蜘蛛を中心に周囲を円形に消し飛ばし。


大蜘蛛は直撃した爆炎に吹き飛ばされ、燃えながら近くの大木に叩きつけられる。


マジかよ、大蜘蛛の体半分消し飛んでやがる。


大蜘蛛は俺でも面倒くさい程度には強い、優斗にとっては完全な格上。


――覚悟を示した、か。


ちゃんと那砂もマリネも範囲外で撃ってるし。


よくやった、と言ってやりたいんだが……。


森に響く爆音、全力の魔器解放、木々は被害甚大。


そして燃え盛る蜘蛛!


禁止事項全部やったな!!


あぁ、もう!


なんだその機能、かっけーなちくしょうが!


ちゃんと事前に説明しやがれ!


炎撃てるとか聞いてねぇぞ!!


「マリネ!!優斗背負って全力で撤退!!」


「言われなくても!」


俺でも気付いてるんだ、マリネが気付かないわけがない。


マリネちゃんの尻尾、逆立ってえらいことになってるし。


視界の端で、憎悪に染まった目をした大蜘蛛が立ち上がる。


流石の生命力。


向ける憎悪も見事な覚悟に染まっているが。


でもな。


――もうお前の出る幕じゃない。




音もなく、空気が裂けた。




大蜘蛛が、降ってきた巨大な獣に炎ごと踏みつぶされる。


あっけなく。


最初から、そこにはこいつが居たのだと錯覚するほどに。


土埃一つ立てることなく。


全身に蔦を纏い枝を生やした、象のように巨大な樹狸が、


森ごと押し潰すような存在感で、そこに佇んでいた。


静かに、音もなく。


ただ。


その目は恐ろしいほどの怒りに濡れていた。


明確な殺意が込められた、物理的な重量すら感じるほどの領域圧。


俺ですら冷や汗ものだ。


まぁ、大事なお家に放火されたらそうもなるよな!


だから当然。


「……ぁっ」


どさりと、那砂が倒れる音が聞こえた。


まぁ耐えれるわけがないわな!


「ぐっ、こんなくそーっ!」


マリネよく耐えた!


えらいぞ!帰ったら好物をたらふく奢ってあげよう!


「マリネ、いけるか!」


「女は度胸、開拓者は根性!」


おっし任せた!


「殿は任せろ」


「任せた!」


二人を掴んだマリネが、全力で駆けだす音が聞こえる。


樹狸が、させまいと一歩踏み出し。




「お前、俺がさせるとでも?」




背後で荒い息が小さくなっていくのを聞きながら、俺は一歩前に出る。


踏み出した樹狸の歩みが、止まった。


怒りに震えていた樹狸が、じっと俺を睨み、動かない。


わかるだろう。


わかるよな。


眷属にもなれば。


俺が、通すわけがないってことぐらい――

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