第106話 昼過ぎ
※106話から書き方を少し変えます。
違和感や読みにくいなどありましたら申し訳ございません。
■陽葵視点
「ごちそうさまでした!」
自分でもびっくりするぐらい、お腹いっぱいお昼を食べれた。
特訓のお陰でお腹がすいていたからだと思う。
……となりで私の何倍も食べてたベルンくんと比べれば小食かもしれないけど、食の細かった私からしたら驚く量だ。
それに、何より料理が美味しい!
マリネちゃんのお父さんが作る料理は日本で食べたどんな料理より美味しかった。
味付けも、どこか懐かしい味わい。
……昔、似たような味の料理を食べたような気がするけど、気のせいだよね。
何よりこんなに美味しくなかったし。
「それじゃあ、行ってくるね」
午後からは街の外での特訓だ。
私がそう言って立ち上がると、私の分の食器を片付けてくれていたベルンくんがこちらを向いて牙を剥き出しにして笑う。
「おう! いってらっしゃい陽葵! がんばれ!」
最初は怖くてびっくりしたけど、すぐに慣れた。
口元は怖いけど、よく見れば可愛らしい表情だ。
ベルンくんは子供っぽさが可愛くて、すごく癒される。
純粋でまっすぐで元気なのが温かい。
……でも、その隣。
「いってらっしゃい、陽葵」
マリネちゃんも笑って見送ってくれるけど。
声はいつも通りに明るいのに――表情だけが、ほんの少し硬い。
朝はそんなことなかったのに、何かあったのかな。
私が足りない頭をまわすより先に、マリネちゃんが「さぁベルン、お昼時は忙しいよ!」と言って厨房へ戻ってしまった。
ベルンくんは、何でも悪いことをしてしまった罰で酒場の手伝いをしないといけないみたい。
マリネちゃんは酒場の手伝いはしてもしなくてもいいらしいんだけど、今日はお手伝いらしい。
残念ながら、午後からの特訓に二人は不参加だ。
だから、街の外に行くのは私と、優斗さんと那砂さんの三人だ。
「陽葵ちゃん、無理はしないように。今日は境界の空気になれるぐらいで大丈夫だから」
「そうそう。私たちがしっかりサポートしますから、気楽にしてくださいね」
すでに食事を終えて準備万端の優斗さんと那砂さん。
来訪者の先輩の二人は、私とは違う学校の制服の上から革鎧を着ていた。
制服の上から革鎧とか違和感がありそうなのに、完全に着慣れていて馴染んでいるのが私にもわかる。
「うん、よろしくお願いします、先輩!」
私の先輩という呼び方に、二人は戸惑ったように少し照れていた。
「俺達なんておっさんに比べれば未熟もいいとこだけど……そう呼ばれるだけの仕事はしないといけないな、那砂」
「そうだね、優斗くん。先輩、かぁ……嬉しい反面、なかなか重い言葉だね」
そう言いながらも自然体の二人の姿は、私にはとても未熟には見えなかった。
開拓者セットが入っているらしいリュックを貰って、神授の魔器の入った竹刀袋と一緒に背負い酒場を出発する。
昼過ぎだからか、人通りは少なくすぐに北門にたどり着く。
二人が門番さんに紹介してくれて、顔を覚えてもらってから立派な門をくぐる。
門をくぐると、空気が変わり重みを感じる。
まとわりつくような、水をかき分けるような抵抗が全身にのしかかってくる。
「これが、境界……!」
熱いとか、冷たいとかじゃないのに、確かに感じる非日常感。
そして、踏み込んだ先の世界は、全く別のように感じられた。
日本では見られないような、地平線の先まで自然で溢れた世界が広がっている。
視界いっぱいに草原が広がり、その中を一本の街道が続いていく。
「すごい……」
途中からは森が広がり、植生が違う二つの森が地平線の先まで広がっていた。
不思議と、森の周囲が泡のように色が違って見えるのは、教えてもらった支配領域かな。
空もまるで水底から見上げる空のように揺らぎ、私の語彙では表現しきれない不思議な魅力がある。
「ものすっごいファンタジーだよ!」
太陽が二つあるとか、島が空に浮かんでるとかは想像したけど、空そのものが揺らぐのは予想外だ。
街中は地球とあまり変わらなかったから実感は薄かったけど、五感の全部が“ここが異世界だよ”と伝えてくる。
「陽葵ちゃんは、才能あるんじゃないのか?」
「うん、私達より馴染んでるかも」
二人の言葉に思わず振り向く。
少しの苦笑いとそれ以上に面白そうな顔をしている二人の顔。
「そうだったの?」
「あぁ、呼吸の仕方を忘れるところだったぐらいにね」
「そうだったね、『呼吸の仕方を忘れるなよ?』って言われなかったら危なかったかも」
懐かしそうに笑う二人が、同じ人物を思い浮かべているのがわかる。
二人を教えてくれたという事は、私にとっては大先輩だ。
いつか会えるかな?
そう思いながら、私は二人に連れられて境界の街道を進んでいった。




