現代版の魔女裁判にかけられた私が本物の魔女に救われた?
「お姉さん、お隣空いてるかしら?」
スラっとした長身で奇麗なお姉さんに声を掛けられて、私は驚いてしまう。
何も考えずボケっとしていたところに急に声を掛けられて、しかもその声の主がどこのモデルさんですか?ってくらい奇麗だったので余計にびっくり。
「どうぞ。……でも、周りも空いてません?別に構わないですけど」
見渡すと店内は込み合っているわけでもない。どこにでもありそうな喫茶店の、特別でもなさそうな壁際の席だし。
不思議には思うけど別にいっか。
「ここが良かったの。ありがとね?」
お姉さんは短く言うと私の隣に座った。なんか想い出でもあるのかな?
「私、移動しましょうか?他にも空いてる席ありますし……」
「構わないわ。どうぞそのまま」
なんか不思議なやり取りだけど、相手が美人さんだからなんかミステリアス?
ここ数日、感じることのなかった周囲への興味をちょっとだけ持ったけど。あ、余計な事考えるとまた落ち込んじゃうから何も考えずぼーっとしてよう。
そのために、知らない土地の知らない場所に来ているのだから。
そうしてそのまま暫く無言で時は流れていた。お姉さんも私と同様に何もせず珈琲を飲んでいるだけ。
スマホもPCも、本すら持たない二人は、今時だと珍しい部類になるんじゃないのかな?私は、先日までならスマホでも眺めていたんだろうな、と思う。
「お姉さん、少しお話してもいいかしら?」
「えっ?話、ですか?私、別に話することは……、いや、少しくらいなら、いいですよ」
「じゃあ、場所を移しましょ。着いてきて」
着いていくことになっちゃった。話すことなんて私にはないし、そもそも人を避けている最中だというのに。何故か断れない空気だった?
席を立つとお姉さんは私の分の伝票もさっと手に取って支払いまでしてくれちゃった。変な人なのかな?
いや奢ってくれたんならいい人?流石にそれは現金すぎるか。珍しく現金払いだったし。ますます関係ないか。
「私、カードとか作れないのよ」
変と言うか不思議な人だなー、と。なぜかあまり疑問を持たずに着いていった私の、不思議な体験が始まった瞬間だった。
―◇◇―――――――――
「詩織さんあなた、今にも死にそうな顔をしてたのよ?」
連れて来られたのはお姉さんの仕事場らしい、占い屋さんだった。それらしい雰囲気一杯の。
「話を聞いてみて理由も分かったわ。まったく、人間ってのは何百年経っても変わらないものね」
そして私はお姉さんに最近の身の上話をしたのだ。流石は占い師さんなんだろうか?めっちゃ聞き上手だった。
誰かに話す気なんかなかった話なのに、全部話しちゃったんだもん。
私は都内在住の女子大生、どこにでもいる普通のってやつ。
そしてココは都内から電車で2時間ほどの地方都市。そこのショッピングモール内の喫茶店で時間を潰してたらお姉さんと出会い占い屋さんにいるのである。
なぜそんなトコに一人でいたかというと地元に居たくなかったから。私を知る人がいないところに居たかったから、である。
というのもあらぬ疑いを発端にSNSは大炎上、知りもしない人からの罵詈雑言に加えて大学も行きづらくなって……
友人に誘われて遊びにいったら女性だけでなく男性もいて。その男性の中には彼女持ちもいて。その彼女持ちを私が誘惑したと疑われて。
勿論、事実無根なんだけど。そもそも私は女子だけだと思ってたし、その男のことも何とも思ってないし、特に何かあったわけでもないし。
でも、その彼女という人がヤバくって思い込みから私に対する誹謗中傷が始まり、そして女はその怨嗟をSNSにもぶつけて。
圧倒的な運の悪さでその投稿が目立ってしまって。対象である私は略奪女として叩かれてしまうという。こんなことある?
それに炎上ってね、聞いてはいたけど自分が遭遇するとめっちゃキツかった。
一つ一つのコメントはどうせ私のことを知らない人が、事情も知らない癖に知ったように文句言ってきてるだけ。たいしたことはないの。
でも、何百何千とコメントが寄せられてくると、それは一つの大きな悪意となって私を襲う。
まるで自分が、世の中の敵になったように感じてしまって、辛くなって。それで気付いたら知らないとこで時間を潰してたって感じ。
そんな衝動的な行動をしてしまうくらいには精神が病んでしまっていたのだろう。見も知らないお姉さんに心配されて声を掛けられるくらいには表情もヤバかったんだと思う。
「占い師っていうのはね?なにも占うだけが生業じゃないの。道に迷う人を導くことこそが本来だと思ってるの」
という占い師マリさんの職業倫理によって、私は少し救われた気持ちになっていたのだ。
炎上中はそれこそ「不潔」「最低」「可愛くもない癖に」とかそんな言葉しか投げつけられなかったし。そう言えば「魔女」なんてコメントもあったな。
SNSの炎上はそう、まるで魔女裁判のようで。ことの真実よりも叩ける対象をいかに叩くか大会となっていたわけで。
その対象となった私に対する擁護意見なんてまったく貰えなくて。
そして今、マリさんに優しい言葉を掛けられて。涙がこぼれたのも、仕方ないことだよね?
「つまりあなたは、現代版の魔女狩りに運悪く遭遇しちゃったのね。それじゃあ、一つずつ見返していきましょう?懐かしいわぁ……《《400年前》》もやり返すのが私の趣味だったのよ?」
ん?マリさんは出会った瞬間から今この瞬間まで一貫して不思議な人ではあるけれど。
まぁなんかやり返していく手段を考えてくれるところまではまだ分かるんだけど?
400年前ってなんぞ?
「何世紀か前はね、魔女狩り全盛期だったのよ。あの頃は無実の女の子が拷問されたり全裸にされて魔女のしるしを探されたり、ひどい時は火あぶりだの水に沈めたりと処刑を兼ねた拷問もあったわ。ひどいと思わない?」
「それは、そんなのはひどいと思いますよ。昔は科学も発展してなかったし、飢饉や疫病は魔女のせい、みたいにされてたんでしたっけ?」
「それもあるけどね、ようはスケープゴートよ。不満をぶつける対象が欲しかっただけ。だから、私はそいつらにやり返す手助けをし続けてきたのよ」
うん、もう聞いちゃおう
「マリさん、400年前が懐かしいってなんですか?それにやり返すっていっても私は時が過ぎて沈静化すればそれでいいと思うんですけど」
「言ってなかったわね。私は本物の魔女なの。あなたの大先輩ね。だから、《《現代の魔女》》を救いたいと思って、それで声を掛けたのよ?って言っても信じられないわよね?だからまずは、スマホを召喚しましょ」
マリさんが水晶に手をかざすと私の目の前にスマホが現れる、これなんて手品?いや、でもこのスマホ、本当になんか見覚えが……
見たくもないスマホは家に置いてきたはずなのに。まぁ私のじゃなければと画面を見ると、私のSNSアカウントが表示される。
嘘っ!?本物!?……あれ?でも99+で固定されてた通知がない?あれ?あれ?
「炎上は無かったことにしておいたわ。ほら?数日前から更新無いでしょ?あなたに声を掛ける前にコレは済ませておいたの。しっかし巨大プラットフォームは改竄も面倒だったわ。人間もこういうとこはしっかり進化してんのよねぇ」
たしかに、昨日最後に確認したときに溢れていた悪意あるコメントはきれいさっぱり無くなっている。
「それと、あなたに誹謗中傷や非難のコメントを送った人たちには、凍結だったり訴訟の連絡が送られてるわ。まぁ訴訟は気にしないで、私が処理しておくから。他には黒歴史が公開されてたりとか、ね。悪意に応じて罰は与えたわ。それでもまだ貴女に何かしてくるなら対処しなさい。方法は後で教えるわ」
はぁっ!?なにこの仕事の速さ?いやそれより制裁が苛烈だし私はそこまで……いや、ちょっと望んでたのかも?
「貴女に悪意をぶつけた人たちの顔が見たかったら言ってちょうだい。水晶に映してあげるわ。それより次行くわよ」
えっ!?と思ったその瞬間には私の目の前の光景は変わっていた。
そこは、見慣れたキャンパス、だった―――
―◇◇―――――――――
「はい、そこの君。私の可愛い後輩を無駄に苦しめた罪として、罰を与えます。そうね、女絡みの罪なので……EDの刑ね。詩織の気の済むまではあなたは女を抱けなくなりました。残念!」
「はっ!?あんた何言って……ん?あれ?」
「一瞬で理解出来るようにEDの刑の間は体の一部を消失させておいたわ。詩織が優しければ、そのうち戻るから安心なさい。男でしょ?それくらい我慢しなさい。あ、男じゃないかも?ないもんね。残念!」
私が言い寄ったと彼女に嘘をついた男は顔を真っ青にして、股間に手を当ててる?なんでかはなんとなく理解出来るけど考えたくないので気にしないようにしよう。
兎に角、変なことが出来ない上に今の情けない姿も周囲の学生の好奇の目に晒されているわけで。社会的な罰としてもキツイだろうなぁ。
「はい、急ぐわよ?次々♪」
なんか楽しそうなマリさんに連れられて場所を移動するのだけれど……展開が早すぎるぅうう。
―◇◇―――――――――
「はい、そこの貴女。貴女ですよー。性格悪そうな顔したそこの。それじゃあ浮気もされるわよ?男を大事にしてあげなさいな。あんたの彼氏、使い物にならなくなってるわよ?ま、貴女も暫く使い物にならなくなるけどね」
「はぁっ!?あんた誰よ?……後ろにいるのは詩織?あんたよく私の前に顔出せたわね?人の彼氏誘惑しといて……この魔女がっ!」
「魔女を悪態に使わないで頂戴?罰を追加してもいいのよ?それに、人の彼氏を誘惑したのはあなたでしょう?身に覚えがない?それは詩織もそうだったのよ。なので同じ苦しみを味わいなさい。あなた、SNS確認してごらんなさい?浮気女として目下大炎上中よ?デジタルタトゥーとしていつまでも残るようにしてあげたたから。現代の魔女のしるし、ね」
「何言ってるの?この女おかしいんじゃない?って随分通知音が続くわね?そんなはずないけど……えっ!?なに……これ、、」
「あとでゆっくり確認なさい。事実無根!って闘ってもいいのよ?対処はあなたの自由!それすると延焼するけどね。でも、それでも身体が止められないように、目を瞑れないようにしておいてあげたから、ネットの炎を存分に楽しみなさい。それじゃ、詩織。帰るわよ?」
ここも一瞬ですかそうですか。速すぎる断罪である。私は何もしてないけど。でも。余りにもあまりなマリさんの振る舞いに、少し心が軽くなっていくのを感じるかも?
そして、また私の視界は暗転する―――
―◇◇―――――――――
「ふぅ、帰ってきたわね。久し振りの逆魔女狩り楽しかったわ。それで詩織?あなたもコレからは迫害に対しては自分で対処するのよ?出来るようになるまで私が教えてあげるから。それとコレは魔女の約束。後輩には優しくするのよ?私のように」
はい?私がマリさんのように、ですか?いやいやいやいや。無理無理無理無理無理!!
「あぁ、、やっぱり気付いてなかったのね。あなた、魔女の素質があるのよ?だから変に周囲に注目されるの。魔女は人を惹きつけるのよ?普通なら気に入られない人に気に入られたり、ネットですら見過ごされるコメントは注目されたり。今回の炎上も魔女の素質が原因ね。で、トラブルに巻き込まれ始めるほどに力が増したあなたには教育が必要ってわけ。最初からあなたに声を掛けるつもりで、貴女の意識をこの街まで誘導したのよ」
ほえ~。そうですかぁ。いやもうそんな感情になるって。突飛すぎるんだよ話が。
でも超常現象は散々体験させられたしなんとなく思い当たる節もある。だから受け入れるしかないかぁ。
マリさんにはお世話になったしね。ざまぁも、実はちょっと心が晴れていたりするわけで。
でも気になることが一つ。これからも魔女の力がある限りトラブルに巻き込まれてしまうのだろうか?
ちょっとイヤかもと思う反面、もしかしたら長生きするかもしれない?魔女の人生には刺激も必要なのかな?と思ったり。マリさんの悪戯そうな顔を見て少し不安に思いつつも決意する私。
これからは私、新人魔女として、頑張っていきます!!
お読みいただきありがとうございました。女性主人公が苦手なのでセリフおかしいよ?とかあればコメント頂けますと今後の勉強にもなりますのでどうかご教授くださいませ。