晴れ空に祈る
絶望の時代。
子どもだった私は、生きていくのもやっとの状況で地面を這いずり回っていた。下手に道を歩けば蹴られ、口を開けば殴られ、泣き叫べば首を絞められて、言葉一つ間違えれば命を落とす。そんな世の中を生きていた。
誰もが息を潜め、身を縮こまらせて。そして、空を仰いでいた。救世主はいつも、そこから現れるからだった。砂色の雲を引き裂き、光の階を下りて。私たちを虐げる悪を打ち滅ぼすために、剣を取り戦ってくれた。
そして、世界を変えてくれた。
平穏の時代。
大人になった私は、軽やかに飛び回る明るい声を必死で追いかけ回している。仕事に追われ、家事育児に追われ。毎日が目まぐるしくて大変だけれども、命の心配をしなくて良いのが、何よりも幸せだ。誰もがこの幸福を噛み締めている。
忙しい日常の中で、ふと空を見上げる。果てしなく広がる澄んだ青の中に、あのときの英雄の姿はない。彼らがもう淀んだ雲を引き裂く必要がない今を、私たちはこの上なく愛している。ささやかながら、みんなで力を合わせて守っている。
どうかこの空の色が、永遠に変わりませんように。
他の誰でもなく――私たちを救ってくれた、英雄たちのために。