裏話、わたしは見ちゃった!
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壱ノ章のおまけ的の話です。
一般人の“俺”視点ではない人が、“俺”と“にゃんこ”を見ているとこうなりますという話です。
わたしは今、何を見てるのかしら?
口から飛び出した悲鳴が、自分のものだとも思えなかったけど、そんな小さなことに気を回す余裕なんてなかった。
近くにあった腕にすがり付くのに精一杯!
あれは、なに!!!!
圧倒的な威圧感に足が震える。
恐ろしい咆哮に心が凍りついて、痛い。
自分が目にしているのが、現実だと思えない。
目を閉じて……
こんなの見たくない。。。
そう思うのに、わたしの目は言うことを聞いてくれなかった。
目を離すこともできなくて、わたしは“それ”をずっと見つめることしかできなかった。
瞬きもできずに。
そんなわたしに、
「お前、置いてかれてるぞ。」
「えっ!!」
知らない声がかかった。
それに驚いて、やっと“あれ”から目をそらすことができた。
そして、そのきっかけをくれた人を見上げたら、妙に落ちついた視線にかち合った。
その目線がつーっとわずかに後ろを見ていたから、わたしもそれに合わせて……
「うそ!!! なんで置いてくの??」
愕然とした。
それは、生まれて初めての経験。
部族の中にいて、わたしの周りにはいつもたくさんの人がいた。
わたしを一人にしてくれないって文句を言ったこともあったけど、そのたびに
「大事な姫様を一人になんてしませんよ。」
「そうです。あなたは大切な人なんですから。」
「姫様が一人になったとき、何かがあったらどうするんですか?」
「まぁ、貴方様を一人にすることもないですけどね。」
「もし、“何か”があったら命に代えてお守りしますけれど…」
とか、なんとか言っていたのは誰?
遥か遠くに見える背中。
その背をこんなに遠くに見ているわたしは、何?
わたしは、大事な精霊姫で、命がけで守られている姫なんじゃなかったの?
頭の中がぐるぐるする。
みんなの顔が、やさしい顔がぐるぐるの頭の中で、誰の顔かわからないぐらいぐちゃぐちゃになっていった。
何も、わからない。
わかりたくない。
わたしは何もかもが分からなくなって、だけど、そんなわたしの背中に強烈なプレッシャーがどっと押し寄せてきた。
“あれ”の発する、強大で凶悪な威圧感。
殺される!!
何にも、わかんないけど!
これだけはわかって、だけど……わたしには何もできない。
だから、
「なんとかしてよ~~~~」
えぐえぐっと涙を流しながら、わたしは掴んでる腕にぎゅ~~っと縋りついた。
もう、この人しか頼れないんだから、しょうがない。
けど、頼りのこの人はこう言った。
「俺は、一般人だから何もできんぞ。
むしろ、精霊姫なんだからお前がなんとかしろよ。そいつと一緒に。」
空いている方の手で、わたしはその人が“そいつ”と指差した方を向いた。
そこにはわたしの部族の守護精霊様がいた。
守護精霊様はわたし以外には誰にも見えないと思っていたから、それにちょっと驚いたけど、それよりも“お前がなんとかしろ”って部分がすっごく気になる!
わたしが!
何でよ!!
だって、わたしは何にもできないのよ。
守護精霊様の姿は見えるけど、それだけだし。
何とかするならむしろ、わたしじゃなくて守護精霊様とかあなたじゃないの!!
そんな意志を込めてこの人を見てみた。
そしたら、“お前がするに決まってんだろ”とでも言いだけな目で見られた。
……なんで。。。。
そう思ったのを境に、わたしの目の前は真っ暗になった。
ゆらゆらっと体が揺れてる。
その振動と、「うおりゃっ」とか「せいやっ」とか言う奇声で目が覚めた。
なに??
目を開けたら、視界に大きな炎が飛び込んできた。
赤い炎の巨大さに、わたしの目が点になった。
あんなに大きな火の塊を見たのは初めてで、いったい何なのか、さっぽりわからなかったけど、その火はわたしを焼くことはなく、横を通っていった。
焼かれなかった。
それが分かってほっとしながら、そのあまりの恐ろしさに身がすくんだ。
あまりにも大きな四肢がこっちに来たのには、心臓が凍りつくかと思った。
でも、それが何度も続けば慣れちゃうものなのね……とか、思える自分にびっくりした。
それというのも、
<よく避けられたわね~。
その子を背負ってるのに、それってすごいわよね。>
そう、どうしてわたしがこの人に背負われているのかわからないけど、この人が奇声を発しながら避けているからだ。
しかも、結構余裕で避けている。
声だけ聞いてると、必死に避けてるみたいだけど、何だか雰囲気が余裕そう。
部族のみんなは我先に逃げていったのに、残った人。
わたしもだけど、みんなが驚いていたときも、この人だけは何だか落ち着いていた。
この人って、何なんだろう?
昨日、草原で倒れていたこの人は、正直力強いかんじでもないし、所謂“できるヒト”ってかんじでもない。
目立つような人でもないし、印象にも残らない。
だから、守護精霊様から朝<連れてきなさい>って言われても、見るまで顔を思い出すこともできなかった。
そんな人が、あの恐ろしい化け物の火の玉をよけたり、一撃を余裕でかわしている。
何者?
わたしの唇がそれを言う前に、守護精霊様にツンツンっと頬を突かれた。
見ると、守護精霊様がシッと唇に人差し指を当てていた。
そして、
<この子起きないわね>
といって、笑顔でこのままでいなさいとアイコンタクトをしてくれた。
それに、わたしもアイコンタクトで「わかった」と返すと、いい子ねと瞳に乗せてまた、ツンツンと頬をつついてくれた。
だから、わたしは無言で、見ていることにした。
背負われているわたしが起きているとは、この人はわからないはずだから。
口から飛び出そうな悲鳴が出ないように、黙って見ていることにした。
それから、何なの?
って思うことばっかり起こった。
ほんと、何なの?
この人?
四方八方、視界全部が真っ赤に染まったときは、もう駄目だって思った。
もう、終わりなんだって……
でも、そんなこと、ぜんぜんなかった。
だって、炎がぴたって止まったのよ!
信じられない!
ぴたって止まったのよ、ピタって。
びっくりしてたら、笑って佇んでいる女の人が炎の中で立ってて。
それにも驚いたけど、それに平然と、しかも納得してるみたいにこの人が頷いてるのにもびっくり!!
しかもしかも、この人が何か言ったら、周りにあった炎が一瞬でポンってなくなっちゃたのよ!
何それ?って言いたくもなったけど、あんまり驚きすぎて声にならなかったみたい。
そして、炎がなくなって驚いたのは“アレ”もみたい。
ギョッとしたように眼を向いて、ざっと毛を逆立てたのをみて、そうよねって頷いちゃった。
更にビックリしたのは……
っていうか、もうびっくりしっ放しだったってことだけ言っておくわ。
あんなに怖かった“アレ”が急に伏せをして大人しくなったり、おっきな首輪が突如現れたと思ったら、“アレ”がいなくなってかわいいけど、ちょっと変わったかんじの子猫がいたり、それとななっっなんと、これって夢?それとも、幻なの?
背に広がる翼に、輪っか。淡い燐光を纏った天使様が!!!!!!!!!
わたし、もう死んでるのかもしれない。。。。
天使様と思しき方を視界に入れた後の記憶はあいまい。
気づいたら部族の家が見える草原にいた。
そして、そんなわたしを見て顔を蒼くするみんな。
なんだか亡霊でも見ているような、そしてバツが悪そうに、祟られたくないとでも手を合わせているみんなを見て……
わたしは、草原に、何もない草原の中を走っていた。
もう、あそこはわたしの場所じゃないって、そう思った。
わたしを捨てたみんな。
戻って助けようともしていない。
ただ、わたしを置いてけぼりにして……
そして、当然のように死んだと思っているみんな。
もう、あそこはわたしの場所じゃない。
ぽろぽろと涙がこぼれた。
もう、帰る場所がない。
草原をひた走って転んで、わたしは泣いた。
泣いて、泣いて、泣きはらして。
<わたしがいるわ>
頭をなでてくれている守護精霊様に気づいたのは、ずいぶん泣いた後だった。
誰もいない。
もう、一人なんだって思っていたわたしに、守護精霊様は優しかった。
その優しさに、わたしは救われ、
<あの人を追いかけてみない?>
その言葉に心が揺さぶられた。
わたしのそばにいてくれた人。
背に背負ってまで助けてくれた人。
そして、未知の力で救ってくれた人。
あの人を追いかける。
それは、とっても心が踊った。
だから、わたしは
「あの人、どこに行ったかわかる?」
<ええ、こっちよ>
立ち上がって、あの人を追うことにした。