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神様のお使い  作者: 花香
壱ノ話
6/46

伍、俺と“にゃんこ”


「冗談じゃない!!」


ぐおおぉぉ~~~がるるぅぅぅ~~~~。

と吠えまくる“にゃんこ”……いや、もう怪物とか、怪獣とか猛獣とかケダモノとか………もう、何でもいいけど、本当に冗談じゃない!!


俺は、


「えいっ!」


今、


「ていっ!!」


草原を、


「とりゃっっっ!!」


あっちに行ったり、


「どわせっっい~~!!」


こっちに行ったり、


「って、こっちに、来んじゃねぇ~~~~~」


“にゃんこ”のほのおを、


「おぅちっっ!!」


……あっぶね~、もう少しで、尻に、火が、付くとこだった。


必死こいて、避けている。





「はぁはぁはぁ………あ~冗談じゃね~よ」


おそらくってか、十中八九“にゃんこ”は神獣なんだろうけどさ。あの巨体も反則だっていうのに、炎までボンボン吐きだすなんて、詐欺だろ詐欺。

ガンガンこっちにくる炎弾を避けまくって、ひとまず俺は“にゃんこ”から距離を置いてみたものの。


『ぐるるるるる!!!』


“にゃんこ”は標的である俺に、中々攻撃が当たらずにイライラしているようだ。


恐ろしい。

本当に、恐ろしい。


ヤツの尻尾がゆらりと揺れ、前傾姿勢になる。

その動作がひどく緩慢なことに、油断してはならない。

ヤツは狙っている。

標的である俺への距離と、跳躍の瞬間を!!


尻尾が、ゆらり。

前肢が、ぐぐっっ!! と地面にめり込む。


そして、




<よく避けられたわね~>


髪の毛が数本持っていかれたが、紙一重で避けることになんとか成功した。

“にゃんこ”は俺の数百メートル後ろに、スタンっと軽やかに着地。

すぐに、くるんっとこちらを向いた。


<その子を背負ってるのに、それってすごいわよね。>


風の精霊が、俺が背負っている姫さんの頬をツンツンと触っている。

“にゃんこ”がガンガンと炎を吐きだしてきたとき、渾身の力で腕から引きはがし、そのまま放るわけにもいかず俺は姫さんを背負っているのだ。

精霊に言われるまで忘れていたことだったが……


何か、重くなってきた。。。


急にずっしりと背中が重くなってきて、正直しんどい。

そんな俺のことなど気にも留めない精霊は、楽しそうに<この子起きないわね>とまだ、ツンツンと頬をつついていた。

実態のない精霊がすることだから、微小な震動さえも伝わってはこないが、気が散るから止めて欲しい。

それか、姫さんを風で浮かせてくれればいいのに……とジト目で訴えかけたが、精霊は俺の視線を無視しやがった。


そして、“にゃんこ”は再び跳躍体制をとり始めていた。

次こそはっという闘志が揺らいでいるように見えるのは、錯覚だと思いたい。




<っで、これからどうするの?>


俺が“にゃんこ”の次の一撃、そしてもう一撃、またまた一撃、さらに……と次々とくる必殺の攻撃を冷汗かきながら必至こいて避けていると、焦れたように風の精霊が眼前に来た。

俺は鬱陶しそうに見たのだが、精霊は全く気にしない。

それよりも、さっきから相手にせずに、ずっっっと無視していたことを怒っているようで、構ってオーラで抗議してくる始末。


生き死にがかかっている局面なんだよ。こっちは!!

お前に付きあってたら、死んじまうだろうが!!


と叫びたいのは山々だったが、そう言ってやる機会は見つけられず仕舞いだ。

なんせ、“にゃんこ”の攻撃は段々と鋭さを増し、最初は炎をぼっぼっと吐きだしていただけだったのに、今では、ぼぉぉぉっっっっっ!! っと不吉な音を立てて炎の弾丸を打ちだしてくるのだ。ちなみに弾丸の大きさは俺の頭より大きかった………


誰かに文句を言うような、そんな精神的余裕なんか、ない!!

余裕を買えるんなら、今なら借金してでも買いたいよ。



『ぐおぉぉ~~~』


“にゃんこ”の叫び、


『ぼっぼっぼっぼぼぼっっっ!!!』


その叫びから弾丸が幾つも、幾つも吐き出され、


『がおぉぉ~~~』


耳をつんざく咆哮を上げ、一斉に弾丸が放たれた。

間違いなく、俺に向かって。


その圧倒的な力の前に、


「終わった。」


俺は確信した。

右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても、俺が弾丸の餌食にならずに済む安全地帯はなかった。

背中に背負っている姫さんを放り投げて盾にしても、一緒に消し済みになること決定だ。


俺の人生、終わったのか……


短い人生だった。

きっと、ていうか絶対に、あの日あの時あの場所で選択を間違ったせいで、こんなことになるんだ。

そもそも、俺がこれで死んだら、死亡原因は神様のせいだよな。


神様、死後の世界で会った時は、覚悟していてくださいよ。



とか、なんとか考えていた俺は、


<あなた、何者?>


精霊の驚いている声に、ハッとして現実に戻ってきた。

見れば俺は無傷。

ついでに背中に担いでいる姫さんも無傷。

あんなにあった弾丸は、何故か俺の半径1メートルぐらいの場所でピタッと止まっていた。


どういうこと?


と首を傾げた俺に、にこっと笑顔を向けたのは炎の精霊だった。


「……どうして?」


どうして、助けてくれたのか?

精霊の気まぐれと考えるには、あまりにも楽観的すぎる。

精霊たちは偶に気まぐれを起して手助けをしてくれるが、基本的に平和な状況でしかそんなことをしてくれない。

こんな、神獣クラスの“にゃんこ”相手に、しかも半端ない火力の攻撃を防ぐような気まぐれを起こすわけがない。

なぜ? と眉を寄せた俺は、そこでふと思い出した。


<我の眷属も使ってよいぞ>


そう言ったのは炎の神様だった。

面白そうに笑って言ったそれは、帰る間際だったこともあって今の今まで忘れていた。

忘れていたが、


そういうことか……


納得できた。

そして、納得すると急に力が抜けた。

そんな脱力しきった俺に、めっと厳しい目を炎の精霊は向けてきたが、強い存在が助けてくれると確信したら、気も抜けようというものだ。

そして、多少の余裕が生まれたおかげで、もう一つの御言葉を思い出した。


<権限を少し貸してあげるから、お願いね>


今回の“お願い事”をした、神様。

彼の御仁は、天を司る女神様。

っということは……


『抑えよ』


炎の精霊への呼びかけで、俺の周囲でピタッと止まっていた弾丸が、尽く消えていく。

おかげ様で視界は良好。

“にゃんこ”は無傷で現れた俺に、目を見開き、次いでザッと毛を逆立てた。

これは、本気になった証拠なんだろうか?


『封ぜよ』


けれど、俺は気にしない。

なんせ、神様から借り受けた御力があるのだ。

まして、女神様のペットが、飼い主の力に叶うはずがない。


『ぐぅぅぅっっ』


ということで、“にゃんこ”は苦しげな声をあげて、その場で伏せをしている。

悠々と歩み寄る俺に、強烈な眼光で睨みを利かせるが、俺は恐くはな…………い、わけではなかった。

けど、さっきよりはましだ。


さっきまでは、圧倒的な力に完全に屈伏し、絶望のままに死の恐怖を味わっていたのだから。

それよりはマシに決まっている。

ちょっと、“にゃんこ”の眼光に足が震えるのは、“普通”に“一般人”の俺には仕方がないんだ。

情けないかもしれないが、しょうがないから、いいんだ、別に。。。



「さて、お家に帰る時間だよ」


俺は懐から、彼の御仁から賜った例のモノを取り出す。

そう、あの赤い首輪だ。

これをつければいい、ということは“情報”にもあったが、さて?


「どうするんだ、これ?」


やっぱりサイズが違いすぎる。

最初っから明らかにサイズが合ってないと思っていたが、実物を前にすればそれがますます顕著だ。

手に持つ首輪と、“にゃんこ”の首。


絶対、ムリ!!

100パーセント無理。


唸る“にゃんこ”の前で、俺はしばし固まるしかなかった。


 


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