伍、俺と霞む悪魔
「ああ、なんと素晴らしきかな!
これを解き明かし、吾らにとっての安息を!
闇き陰惨な吾らの楽園をつくり、偉大なるあの方へ――――――」
うんぬん、かんぬん。
悪魔の御仁賛美が続く、続く。
その間にもしゅわしゅわと、黒い靄が空へ昇り、それを不愉快そうに精霊たちが吹き飛ばす。
進行方向を垂直にしないで、やや横向きにしているからか、その直線状にいたはずの聖獣たちは一目散に撤退していた。
「なぁ、これどうするよ」
それを横目に、俺はいつの間にか掌サイズに変化していた黒い羽に聞くが
「任せる」
「なんか言われてるだろう?」
「指示なし」
「……いや、こうさ~」
「一任する」
「おい、そりゃないだろう」
「……」
黒羽は我関せずの体で、俺に丸投げしやがった。
ジト目で睨んでも、所詮羽。
何を考えてるのかさっぱりだし、沈黙されたら会話が成り立つ奴かも分からなくなる。
まったく。
深いため息を一つ、悪魔を見れば
「おい、おいおい。ちょっとマジでヤバイんじゃないか?」
そこにいた悪魔は、ひどいことになってた。
何がひどいって、なんか黒い靄の量がめっちゃ増えてるし、体力の限界に挑戦してる奴みたいにふらふらになってるし、何より身体が半分になってる!?
「ちょっと、ちょっと、ちょっと。
もうここにいたらヤバいって。消滅するよ、あんた」
「……いや、まだいける。
あと少し、ここで、あと、ちょっと……」
「もう、息できてないだろ、あんた」
「いや、少し、ぐらい、息が、でき、なくても……」
「マジで、息が出来てないのかよ!!」
本当にヤバイじゃないか!
もう、こいつ担いでいくししかないんじゃ。
ってか、そうしよう。
さっきまでなら無理やりとか、梃子でも動かせない感じだったが、これならいける。
堆積半分だし、存在感も希薄になってるし、なにより意識混濁状態だし。
でも、その前に
「おい、羽、大きくなってくれないか?
こいつ担いで、ここ離脱したいんだけど?」
俺はこいつを担げても、飛べないしな。
悪魔を連れてたら、ここまでついてきてくれた精霊も居心地悪くて助けてくれないかもだし。
「了解」
ぽんっと軽い音を立てて、黒羽が来たときと同じ大きさに。
「それじゃ。飛んでくれ」
「了解」
ひょいっとそれに飛び乗った俺を連れて、黒羽が高度をあげ……ないで、真横にすっ飛んで行く。
いや、まぁ、天空の島だからおかしくはないんだけど……
「なぁ、上に飛んでやったらどうだ?」
「こっちの方が効率的」
「まぁ、そうだろうけどさ」
「こっちの方が、早い」
「そうだろうけどね」
ただ、進行方向にいる聖獣とかえらい迷惑そうだし、この悪魔の身体の黒い靄も聖獣たちの近くに行けば行くだけ、めっちゃ消耗してんだけど……
「問題なし」
「いや、あるだろう?」
堆積がみるみるうちに縮んでいく悪魔は、飛んで早々気絶した。
そんでもって、身体の大きさは最初であった時の1/5。
「こいつ、死にかけじゃないか?」
「問題なし」
「……」
感情のない断定口調に、俺は悪魔に同情した。