裏話、吾から見た奴は……
上の御仁から見た、俺の印象は? というかんじの話です。。。
楽しんでいただけたら幸いです。
まったく、わかっておらん。
吾はきゅ~っと目を回して気絶している男を見て、ため息をつきたくなった。
今回の件は大変な珍事であった。
なぜこのようなことになったのか、吾にも検討がつかぬ。
しかし、起こったことは起こったこと。
事実は覆らぬし、結果もまた然り。
どこからともなく現れた生命体は、誠にけったいじゃった。
吾の眼をして、判然としないというのは怖ろしい事態でもある。
じゃというのに、こやつは先刻まで何でもないことのように扱っておった。
「うわわわっ、やめろって……」
などと笑いながら、ぺしぺしと正体不明のものを叩く様は、そこらの犬猫と扱いが同じ。
困っておるのか、楽しんでおるのか。
微妙な笑みをも浮かべておった。
この世界とは異にするモノをよくもまぁ、相手にできるものじゃ。
吾には出来ぬ。
なんせ吾と同等の格を持ちながら、性質が違い過ぎるのだ。
吾と反発することは明白。
接触をしようものなら、ここら一体がどうなるか分かったものではない。
それが分かるだけに、こ奴に相手をさせるしかなかった。
そして、こ奴は“あれ”を満足させるだけでなく、何事もなく送り返しおった。
善き結果に、さしもの吾も安堵した。
もし、帰りもせず留まり続ければ、世界が崩れるところであったしの……。
「それにしても、こ奴は困ったものよの~」
吾と同格のモノを相手にしておる、その事実を分かっていながら、理解しようとはせぬ。
まったく、頑固者目が!
それがどれだけのことか、少し考えれば分かろうに……
地上種の個体が持つ力なぞ、どうということもない。
内に宿る力、人の言うところの異能もさることながら、我らの“声”を聞けるだけの存在、我らが加護を施した存在。その持てる力の大きさなぞ、単にあるかないか、大きいか小さいかでしかない。
世界にはなんの影響もない、ほんに他愛ないものよ。
しかし、こ奴は違う。
“視る”
この一事がどんなに重要なことか、一刻も早く自覚して欲しいものじゃ。
「まったく、困った奴よの~」
吾は、ふ~と吾らしからぬため息をついた。
ふむ。
どうやら、肉体に引っ張られているという、こ奴の考えはあっているのやもしれぬ。
「まったく、困った奴じゃ」
ふふっと、今度は口角があがった。
楽しいという気分のままで、“自然と笑う”というのも面白いものじゃな。
こ奴の側は、面白い。
ヒトの身でありながら、吾らに近い珍奇なヒト。
この地上でただ一人、吾らを“視る”ことができるその珍奇さ。
早く、自覚してほしいものじゃな。
「さて、帰るか」
ひょいっと気絶しているこ奴を浮かせ、吾は宙空に円を描く。
夜の砂漠に、尚暗い闇がぽかりと開いた。
その事実に、ほっとする。
“あれ”が現れた頃から、すでに空間には異常が出ておったのだ。
そのため、空間を大きく渡るようなことは控えねばならなかった。
肉体を使い、砂漠を渡る。
まったく、難儀なことよ。
早々に“あれ”が元の次元に帰ってくれたことは、ほんに助かった。
暗闇に入っても異常はない。
これで、すぐにでもこ奴を送ってやれるし、この肉体も返却できよう。
「疲れた。疲れた」
やれやれと肩を竦め、吾はそっと砂漠の空間を閉じ、帰路へと着いた。
伍ノ話はこれにて幕となります。
次話は少し違うところからの依頼にしようかな……