七、俺とさよなら、ありがとう
「うわわっ、やめろって」
じゃれてついてくる犬と猫が合体した珍奇な生物。
そいつの手元やら絡みついてきそうなしっぽを、ぺしぺしと叩く。
それが面白かったのか、なんなのか。
俺の手をよけてみたり、逆にしっぽでくるりと手首を巻いてみたり。
これって、遊んでることになるのか?
「……」
まぁ、きょろきょろと目を動かしながら、手元を追っている様子からみれば、きっとそうなんのか?
……文句はないみたいだから、いいんだろう。たぶん、だけど。
でも、ぶっちゃけ思うんだ。
「俺、何やってんだろう?」
何故に砂漠のど真ん中で、こんなことをしてんだ?
こんな、どうでもいいことに付き合う理由ってあるんだろうか?
そんな疑問? を抱えつつじゃれてくるのならって感じで相手している。
じゃれてくれば、結構かわいいんだよな。
なんか、微妙なかんじがするのはそのままだけど、それはそれでイイやって感じだ。
にやにやしながら、相手をしていれば奴の耳がぴくりと動き、そのまま動かなくなった。
なんだ? なにかあったか?
その奇妙なまでの静止に、俺の手も止まる。
それと、同時にちょっとばかし不安にもなった。
“ありがとう”
眉根を寄せて、奴を見ていれば静かな声が零れた。
「うん?」
“まんぞくしたから、もうかえるね”
きらきらっと目を輝かせたかと思えば、目を伏せた。
下を向いた目は、寂しげに陰っていた。
「帰る?」
“うん。もう、かえる。”
しかし、俺に応えた声は強く、こっちを向いた目は嬉しげに細められた。
そして、ぐにゃりと空間が歪む。
“じゃあね”
奴の身体が歪んだ空間に吸い込まれていく。
「ああ、じゃあな」
そして、歪みが収まったと思ったら、そこには何もいなくなっていた。
「帰ったようじゃな」
「そうですね」
呆気なくいなくなった奴に、少しの寂しさを感じつつ振り返る、俺。
「…………なんか、空気でしたね」
「何のことじゃ?」
「いえいえ、何でもないです」
やべ~、思わず本音がぽろりと出てしまった。
いかんいかん。
今の今まで御仁の存在感まったく、感じなかったなんて。
まるっきり空気になってたなんて、本当のことを言ってしまった。
って、はっ!!
やばっ、こんなこと考えてたら……
「ふ~~ん。空気とはのう?」
御仁の目つきが、怖ろしく吊り上ってる?
これって、怒ってますか……ね?
「いや……はははは?」
笑って、誤魔化すのはなしですか?
なしなんでしょうか?
「なんです? その力の塊は、なんなんですか?」
「うん? 少しお灸を据えておかねばならんようだからの~」
「いやいや、ちょっと落ち着いてください。
ここは、冷静に! そう、冷静さがっ……」
力の塊が迫ってくる。
空気がキュウキュウとあり得ない音をたてている。
そして
「いーーーーーやーーーーー!!!」
ばこんっっと砂漠の砂を巻き上げながら、力の塊が真正面からぶつかった。
霞んでいく意識の片隅、今まで酔っ払っていた精霊たちがじっとこっちをみていた。
そして、酔っているとは言えない素早さで、一斉に目をそらした。
それって、ないんじゃないか?
小さな不満を浮かべながら、俺は完全に意識を失ったのだった。