六、俺と犬+猫?
「イヌ」
それは主人に尽くすことに喜びを感じている……かもしれない、四足歩行の哺乳類だ。
決して犬牙族みたいな、喧嘩上等、文句は俺に勝ってから言え! ってかんじの戦士系種族の代表格みたいな奴らのことじゃない。
主人に褒められたらしっぽをぶんぶん振って、雪が降っても振らなくても走り回る、散歩大好きな動物。
それが、犬ってもんだ。
愛玩動物ってだけでなく、番犬とか、狩猟犬とか、牧羊犬とかいろんな場面で活躍できる。それも特徴。
「ネコ」
それは一日の半分以上寝て過ごすと言われいている、四足歩行の哺乳類だ。
決して猫爪族みたいな、甘いわね、捕まえられるなら捕まえてごらんなさい。ってかんじの隠密行動と俊敏性にやたら特化している、怖ろしい暗殺集団じみた奴らのことじゃない。
日がな一日、日向ぼっこをのほほんと楽しみ、煩わしいことからはするりと逃げる、自由気ままな動物。
それが、猫ってもんだ。
愛玩動物って扱いが大半だけど、鼠獲りとか使い魔とかになってたりもするな。
「イヌとネコってのは、こんなんだよ。」
“ふ~ん”
砂の上に絵を描きながら、現在絶賛説明中です。
多少横道にそれたりもしたけど、まぁいいだろう。
イヌとネコについて改めて考えると、どーしても獣人族の中でも割とポピュラーな2種族が頭に浮かぶんだよなぁ。
なんとなく、ついででも言いたくなるのは……
奴らとは、違うんだ!
って分かってもらいたからだ。
ぐっと拳に力を込めて主張するのだって、その心の表れだ!!
マージナルにも犬牙族と猫爪族が、当然ながらいる。
マージナルの奴らが強いってのは分かり切ってるといえば、そうなんだけど。
奴らの存在感は半端ないのだ。
戦闘狂だろお前っていいたくなる奴とか、少しぐらい気配を出せよと言いたくなる奴とかばっかだし。
間違っても、あのもふもふの動物たちとを一緒くたには絶対したくない。
そんなのは、癒しを提供してくれる、あのもふもふの子たちへの冒涜だ!
つまるところ、
「イヌとかネコとかは、わりとかわいい子たちなんだよ」
うむうむと深く頷きながら言う俺。
その俺に、謎生物はこう言った。
“それじゃ、それになったらいいの?”
「はい?」
“それじゃ、こんなかんじ?”
俺の疑問はスルー。
こんなかんじと言った途端、ぼわんと黒い煙みたいなものが上がった。
そして、現れた。
“どう?”
「はぁ?」
そこに新たに現れたものを前にして、俺はぽかんと大口を開けてしまった。
“どう? どう?”
俺の足元をぴょんぴょん跳ねるのは、四足歩行の哺乳類らしき生物だ。
犬みたいな鼻に、猫の瞳孔。耳はへにゃりと垂れ下り、しっぽは長くふらふらと揺れている。
そんなのが上機嫌に俺へと笑っている。
“いぬってのと、ねこってのになった?”
「………あ~、そうだね」
とりあえず、イヌとネコを足したらどういう風になるのかはよく分かった。
かわいいかも? とちらっと思う瞬間もあるが、正直かなりビミョーだ。
やっぱ、イヌはイヌ。ネコはネコの姿がしっくりくる。
見慣れていないせいとかじゃなく、異種族を混ぜるのはやっぱダメだ。
そして、犬牙族とか猫爪族とか、異種族間で結婚しても子どもができないか、できてもどっちかの種族になる理由が分かった気がする。
やっぱ、異種族の壁は高くないとな。
新種の珍奇な生物がわらわらいるってのも、面白いとは思うけど……
いやいや。やっぱダメだ。
ちょっと想像しようとしたけど、なんかダメ。
想像しちゃダメ。
“これで、あそんでくれるよね?”
そんな、どうでもいいことに思いを馳せる俺に、こきゅっと首を傾げてのおねだり。
一体どこでそんな技を!
ちょっと、ちょっと。なんか訳もなく可愛く見えちゃったよ?
びみょ~な感じだったのに、なんだよそれ?
小首傾げてのおねだり光線は、イヌとネコが合体しても健在なのか!
異種族の高い壁は、もしかしたら、超えてもいい壁なのかもしれない……
そんな血迷ったことを思ってしまった。