伍、俺と絡むモノ?
「なんなんだ?」
これはどっから現れた?
ってか、なんで絡みついていやがる?
いや、なんというか…………
「これ、なんですかね?」
下半身に絡みついているそれからそっと目を背けて、御仁に縋る。
ええ、縋りますとも!
なんていっても、御仁は天上の存在!
頼れる上のかたですもんね!
「吾にはわからぬ」
そんな期待に満ち満ちた俺を、御仁は素っ気なく、あっさりと言いやがりましたよ。
あんまりあっさり言うもんだから、咄嗟に言葉が浮かばず、どうでもいいことが口から出た。
「そうですか……」
「そうじゃ。
吾らの意志ではなく、この界に迷い込んだモノの正体ではあろううがのう」
「そう、なん、ですか……」
はっきりきっぱり、爽やかな御仁の言に、俺はぽかんと呆けた返事しかできない。
「いやはや、どっから来たのやら」
むむむ、っと腕を組んで呻る様は御仁の仕草としては珍しい。
やっぱり人に入っているから、多少容れものに影響されているのか?
そんなどうでもいいことを考えてしまうのは……
わかってる。ああ、わかっているとも、現実逃避だ!
必死に現実から目をそらして、現実逃避をしてもいいだろう?
けど俺もただ現実逃避を決め込んでいるわけじゃないぜ!
そう、必死になって砂を引っ掻いているんだ!
せっかく少しばかり復活した体力を使いきるが如く、そりゃもう、必死に!
爪の中に砂が入り込もうが、口に入ろうが構うものか!
えっ、どうしてかって?
そりゃ、決まってんだろ!
いま、この瞬間から逃れられるなら、血管振り切るぐらいの勢いでやってやる!!!!
「こんの~~って、おい、こら、っちょっと?」
って、考えてたときもありました。。。
「えっ、いや…だから、ちょっと、やめ、やひゃひゃひゃっ
ほん、と、やめ、ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ」
俺が砂を掴もうとするたびに、ひたすらくすぐられている。
なぜ、こんなことになってる?
「お主が逃げようとしたからではないか?」
そんな解説いらないんですけど?
ついでに、御仁のセリフに“その通り”的な感じで同意の意思を送ってくんなよ。
そんでもって、何で拘束するでもなく、くすぐりになるわけ?
これ、地味にきついんですけど?
「ってか、そんなっ、そんな変な、動きで、身体を、くすぐるんじゃね~~」
ひゃっひゃと苦しい息の下から絞り出した心からの願いは
“それじゃ、構ってくれる?”
そんな交換条件のもと達成された。
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「それで、何すりゃいいんだ?」
構って光線っつ~か、思念的なのを受け取っているものの、何をどうすりゃ構ってやっていることになるのかがわからん。
なんせ相手は蔦? いや、縄? 蔓?
…………っと、とにかく勢いよく絡み付いたり、締め付けてくる謎生物だ。
どうしたらいいのかなんてさっぱり。
「ってかんじなんですが?」
「吾に聞くでない。」
俺のささやかな疑問は、ばっさり切られた。
「なんか、今日はほんとに冷たくないですか?」
無理やり連れ回されてるのは俺なのに。
なんか、俺の扱いひどくないですか?
「そんなことは、ない」
「どの口がそれを言うんです?」
うっすら笑いながら言われた否定ほど、信じられないものはない。
俺は胡乱な目つきで御仁を見つめるが、御仁の表情はまったく動かなかった。
―――――なんか、負けた。
意味はないが、何か負けた感じがする。
まぁ、御仁は天上の存在だ。
勝とうなんて思うはずもないから、いいっちゃいいんだけどね!
そんなどうでもいいことで、ちょっと悔しくなりつつ、視線を戻す。
そこには、
“もう、早くあそんでよ~”
くねくねと揺らぎつつ、俺の脚を締めたり緩めたり。
這いずったり、滑ったりしている“何か”がいる。
「……どうすりゃ、いいんだよ。ってか、何がしたいんだよ。」
“あそんでくれたらいいよ?”
いや、だからどうやって蔓みたいな奴と遊べばいいんだよ?
妙に明るく弾ける笑顔を連想させる声で言われたところで、ねぇ。
じゃぁ、楽しく遊びましょ~なんてできるわけないだろ!
お前で縄跳びとかすればいいとか?
って、それじゃ~俺がお前で遊んでいるだけで、お前と遊ぶことにはならんしな~。
う~~~む。
「せめて犬とか猫みたいだったら、遊んでやれるけどな~」
くねくねしながら俺を待っているっぽい、そいつに思わずため息が零れる。
すると、ぴたりとそいつの動きが止まって、
“それって、なに?”
くねっと首を傾げるように先端が傾いた。