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神様のお使い  作者: 花香
伍ノ話
35/46

参、俺とご機嫌斜めな砂漠旅?

そんなこんなで、俺は体は神子さん中身は御仁と共に砂漠を旅している?


「って、砂漠かよ!」


「なんじゃ、突然」


心の叫びを思わず声に出した俺に、御仁は振り返った。


「いえ。すいません。何でもないです」


振り返った御仁の顔に浮かぶ呆れた様子に、俺は咄嗟にぺこりと頭を下げた。

言いたいことは色々あるが、言ってどうにかなるわけでもない。

それこそ、いきなり連れてこられた上、碌な装備もしてないのにこんなところに来たこともだ。


……こんなところ。


そう、光の奔流に目が眩み、吸い込まれたと体感した直後。

遮るもののない灼熱の太陽が頭上に燦々と照りつけ、その暑さといったら、もう。

干からびるのも時間の問題か? と考えざる負えない砂漠。

しかも凶悪極まりない砂蠍サンドスコルピオンが待ち構えている砂漠に、何故こんな普段着丸出しの格好でうろつかないといけないのかと文句を言いたくても、言ってはならないのだろう。


ってことは、わかってはいる。

だけど、どうしたって思うのだ。


ああ、やだやだ。

何でこんなとこにいきなり来てんだよ。

ついた途端、不機嫌になっちゃうしさ~。


そんなグチをちらっと思えば、前から舌打ちが聞こえた。


「ったく、ぐちぐちと女々しい。

 太陽ぐらいなんぞ困ることもあるまい。

 砂蠍サンドスコルピオンとて、何ほどのことがあるというのだ」


「舌打ちしなくたっていいじゃないですか。

 それに、何言っちゃってんですか?

 この全身から滴る汗を見てくださいよ。

 ヒトの身にはこの砂漠は辛い場所なんですよ!

 その上、砂蠍サンドスコルピオンは砂と同化して発見しにくいし、

 群れという数の力とその強力な毒で襲いかかってくるんですよ。

 一斉に飛びかかられたらすぐ死んじゃいますって」


御仁と俺では力が違いすぎる。

まさしく、天と地。いやいや地中、それとも地底か?

まぁ、とにかく比べることすらおこがましいほどに違い過ぎる。

神子さんの体に一部しか降りていなくても、その溢れる御力はあまりにも違う。


そんな全力否定をする俺に、御仁は非情だ。


「呆けたことを言っとらんで、さくさく歩け。

 お主がこんな砂漠如きでへばるわけがあるまいに」


「……その心は?」


「そろそろ自覚せい。

 お主は“視えている”のだから、この体よりも余程ここに対処できるわ」


何の対策も講じてくれるでもない上、御小言を頂戴した。


「せめて御慈悲ぐらい施してくださいよ」


情けない顔で言っても、今日の御仁は本当に容赦がない。


「自分でなんとかできる相手に、慈悲も加護もせぬわ。

 むしろ、地上酔いをしている吾の気分を治して欲しいぐらいじゃ」


下界に降りてきた代償とも言える地上酔いは本当にさっきよりも酷いようだ。

砂漠を進むにつれて、ますます御仁は機嫌が悪くなっていく。


そんな御仁を相手にすれば、俺は溜息をつきつつ何も言わずに後に続くしかない。

ただ、愚痴を心の中で吐くぐらいは許して欲しい。

そして、これだけは物申したい!


なんで捜索場所が町中とか、街道沿いにないんだよ。

未知の物体め、遭ったら覚えとけよ!


遭ったときにどうするかなんて分かりはしないが、そんな愚痴を心中で呟いて、俺はつっと目線を上げた。

そこには御仁から溢れる御力に群がる精霊たちが、どっからやってきたんだと言いたくなるぐらいにいる。


その数たるや、いやはや……


土や風、光の精霊から、どこから飛んできたのか少ないながら水や樹に連なる精霊たちすらいる。

こんな砂漠にいることがおかしいほど、数多の精霊たちで溢れている光景は、俺の目が狂っているのではと心配になるほどだ。


御仁が言うには、この“視えている”精霊たちになんとかしてもらえってことなんだが……


うーーん。めちゃくちゃ、気が進まないんだよなー。

でも、この暑さも砂蠍サンドスコルピオンも俺では対処できないし。

取りあえず、言うだけ言ってみるか?


「お願いします。助けてください」


口に出しては明瞭簡潔に。

その言葉の中に気持ちをこめて、ぺこぺこと頭を下げてみたところ……


御仁の御力に中てられ、浮かれ気味な精霊たちはニコニコ笑顔でこう言った。


<任せなさい!>


その力強い返事はいつもなら嬉しい言葉だ。

しかし、やっぱり今は不安を誘う。


<そ~~れ~~~>


「なっ、やめ、加減してってか、もっと冷静になってくれーーー!!!」


そして、その予感は見事に的中した。

浮かれ気味ではなく、浮かれている精霊たちは過剰な力を存分に振るってくれやがった!


どのようにというと、以下の通りだ。


1つ、俺の頭上から一切の光が消えた。

1つ、周囲一帯に寒風が吹き出した。

1つ、大量の水が俺目がけて走ってきた。


それが同時に起こった結果は……


【答】全身が一瞬にして泥だらけになったと思ったら、暗闇の中急速に体温を奪われ凍死寸前。


「俺を助けるんじゃなくて、殺す気だろ!」


砂漠で泥の氷漬けなんて冗談にしても酷過ぎる。

やっぱ頼むんじゃなかった。


浮かれた精霊は酒に酔って正体をなくした奴と同じだ。

全くもって、加減というものを知らない。

今もふらふら揺れながら、怒鳴る俺にきゃらきゃらと笑っている。


「ほんとに勘弁してくれよ」


地上酔いで不機嫌な御仁も、御仁の御力に酔っ払った精霊たちも性質たちが悪い。

この先の道行が不安で不安で仕方がない。

御仁のお供は始まったばかり。


この先、どうなることやら。


溜息ばかりが零れる俺を、誰か助けてくれないだろうか。

俺の砂漠横断は前途多難だ……


「ああ、早く目的地に着いてください」


今はそれだけを心から祈った。


そして、


「ちょっと、待ってくださいよ~」


スタスタと先を歩く御仁に焦りつつ、いそいそと冷たい泥から這い出て、焼けるように熱い砂漠をイヤイヤながら歩き出すのだった。





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