弐、俺と語られる理由
話をまとめると、こうだ。
1つ、地上に未知なる存在が出現した。
2つ、存在が上からでは確認不可だった。
3つ、下界で調査を敢行することになった。
以上。
何それ?
話を聞いて「はぁ?」とか不良っぽく聞き返した俺は悪くないと思う。
けど、御仁に言ったのはまずかった。
どれぐらいまずいかと言うと
「すいません、すいません、マジですいません!!!」
壁に逆さで宙摺りにされて、顔とか体すれすれに何かが高速で飛んでくるぐらいに!!!
「ほんとにすいませんでした!!!!」
ひいひい泣きながら必死の懇願で解放されたのは、更なる地獄を見た後だったことは追記しておく。
詳しくは言わない……
ってか、封印だ!
即効で何があったかは封印です!
「それで、未知の存在とか調査とかは分かりましたけど」
実際は全然わかってな……
「実際は全然理解してないのは、わかっておるわ」
ひっ!
心声は健在なんですね。
「もちろんじゃ」
そうですか。
いつも通りではあるが、何だろう。
いつもと違う空間でのことだからか?
結構、衝撃とも何とも言い難いものがある。
「それでは、正直ご事情が全くわかりませんが。それは一先ず置いておいて……
俺が呼ばれた理由って何なんです?」
「うむ。お主には吾の手足となってもらいたいのじゃ」
「って、どうしてですか!
神子さんに入ってるなら、ここの連中使えばいいじゃないですか!
俺である必要性ゼロですけど」
ここは仮にも数ある神殿の中でも本殿と呼ばれるところだ。
さすが総本山と言うべきか。
神殿の中には腐るほど神職者がいる。
そんな神殿にいる神子さんに入っているのだ。
御仁が一声かければ、それこそ感涙に咽び泣きながら喜んで手足となるものが何百といる。
どんなに困難なことであろうと、一も二もなく飛びつく姿が容易に目に浮かぶのは当然。
俺なんかをわざわざ呼びつける必要性は、全くない!
「ここの者共ではダメじゃ」
って、何でさ!
首をふるふる振りながら言われたら、ここの連中ちょっと可愛そうじゃないか?
七面倒臭い奴ばっかだけど、基本的には御仁方に毎日毎日祈りを捧げて生きてる奴ばっかだよ?
御仁方に尽くせれば本望的な奴らがダメとか。
なに? ここの奴らは役立たたずってことっすか?
「まぁ、そういうことかの」
「うわぁ、めっちゃ不憫じゃないっすか」
「勘違いしてはいかんぞ。今回の件に関しては、使えんというだけじゃ」
そんじゃ、普段の用事とかは?
とか聞くのは駄目なんだろうなぁ。
でもさ~
「それじゃ、何で神子さんに降りてきたりしたんです?」
神子さん何かに降りてきたりしなければ、俺が大神官様に睨まれることもなかったのに。
わざわざ俺と相性の悪い団体のトップに降りたのは、もしかして嫌がらせか?
「なんと、失礼な。
お主に吾が嫌がらせなぞ、したことはあるまい」
「え~。
いつもの使いっぱしりは、ちょっと嫌がらせめいてるんですけど……」
「なにを言っとるか。
お主が出来ることしかさせてはおらぬし、褒美も渡しておろうが」
じとっとした目線が、非常に痛い。
でもね~、出来ることってのが問題といいますか……
頭に巡る数々の苦難に、心が沈む。
確かに頼まれたことは達成してきたとは思う。
けど、だ。
それはあくまで、助っ人を付けられたり、アイテムとか渡されてたから出来たことであって、俺だけで出来ることなんてあった例がない。
ということは、それは「俺が出来ること」とは違うのではないか、と……
「まったく、お主は……」
そんな風に愚痴愚痴思ってたら、ふぅ~と、いかにも呆れたと言わんばかりの溜息を吐かれた。
「毎回言っておるが、そろそろ観念したらどうじゃ」
「そんな……観念も何も、ないですよ。
俺は“普通”だけが取り柄みたいな、“一般人”ですよ。
そう思うのが当たり前じゃないですか」
「ほんに、往生際が悪い奴よの~。
その頑迷なところは嫌いではないが、自覚せぬのは好かぬ」
ぷいっと顔を背けられて、ちょっと驚く。
今日の御仁はやけに感情的だ。
普段ならころころと笑って、ここまで俺に付き合うこともなければ、好き嫌いを口にしたりはしない。
一体、どうしたんだろうと首を傾げながら、俺は一つの懸念に思い至る。
「神子さんに降りてるの、苦しいんじゃありませんか?」
降りている容れモノが合わなければ、御仁といえども辛いはずだ。
神妙に聞いてみれば、御仁がついっと視線を合わせてきた。
「ふふっ。吾のことなぞ心配することはない。
ことは急を要するのでな……」
そう言って御仁は笑う。
その笑みは世界への慈しみに満ちていて、思わず何も考えずに頷きそうになる。
だが、先の言葉はつまるところ……
「それって、どれに降りても変わらないし、神子なら何があっても融通が利くからってことですよね」
その訳に御仁は慈愛の笑みを作っていた口角を、くいっと上げた。
どうやら、正解らしい。
まぁ、よく考えれば神子さんほど都合のいい容れモノはない。
なんと言っても、普段は神殿の権威の象徴として、御座所に日がな一日座っているだけ。
神殿としても特別な日でもなければ、居ても居なくても困ることはないだろうし……
普通のその辺の人に降りてくるよりも、よっぽどいいかも?
そう思っていたら、「如何にも」というように御仁が目を細めて笑った。
まったく。これだから、御仁方は……
下を向いて思わず呻ってしまう。
御仁が抜けたあと、もれなく寝込むことになる神子さんに同情するよ、ほんとに。
「それでは、参るぞ」
俺がそうして神子さんを憐れんでいたら、御仁の軽快な声がすぐ近くで耳を打った。
何時の間に!
結構離れていたはずなのに、すぐそばにいる御仁にギョッとした。
そんでもって、ぽむっと肩に手が置かれた瞬間
「……!」
声にならない驚きの中、目を焼きつくすような光の奔流に晒され、ついで身体が何かに吸い込まれていった。