マージナルは今日も平和です?
今回は“俺”が働いているマージナルについて。
閑話なので少々テイストを変えてお送りしております。
お楽しみください。
はい、どうも。
本日はどのようなご用件で?
はい。聞きたいことがあると?
何についてでしょうか?
えっ!
神霊課一種?
どちらでお知りになったのですか!
はっ? 小耳に挟んだ?
その課は、職員でもあまり知らないのですがね~~
あなたは、どうして……
うん?
あそこにいる奴に聞いた?
…………。
ああ、すみません。
険しい顔になっていましたね。
申し訳ありません(ニコッ)
それならば、納得致しました。
しかし、何故お知りになりたいので?
ああ慌てなくても結構ですよ。
落ち着いてお話になってください。
ふむふむ。
ああ、そういうことですか。
あなたは初めてここに来られて、まだここをご利用になったこともなければ、どのような場所かもご存知ないのですね。
わかりました。
それでは、まずここがどのような場所であるかをご説明致します。
まず、ここマージナルが請け負っていることについてですが、これは主に3つあります。
民間のギルドでは扱いかねる案件。
逆にギルドでは扱わない案件。
後は国からの要請がそれです。
あれ?
分かりにくいですか?
それでは少し長くなりますが、一つずつご説明申し上げます。
まず、民間ギルドでは扱いかねる案件についてですが。
これは、ギルドに所属している人間では手に負えなかった依頼のことです。
一番多いパターンは、依頼を受けた者たちが死亡、もしくは重症を負って対処できなかったなど、半年以上解決することが不可能であった案件をこちらで引き受ける、といったものですね。
後は、ギルドが対処できないと判断したものもこちらに上がってきます。
次にギルドが扱わない案件について。
これはギルドでは簡単すぎたり、面倒だったりなどして人気がなくて引き受け手がいない依頼のことです。
こちらも半年以上放置、もしくはそうなるだろうと判断してこちらに上げてくるものになっています。
最後の国からの要請についてですが、これはそのまま。
言葉通りとしか申し上げられません。
以上、3つのものを扱っているのがマージナルとなります。
お分かりいただけましたでしょうか。
はい?
随分、厄介なものばかりをと?
全くもってその通りなんですが、まぁそれがここの存在意義のようなものですからね。
ここがなければ放置される案件が増えていくばかりですし、そうなれば、ねぇ?
とんでもない状態になりますから。
痛仕方ありません。
何やら難しいお顔をなさっていますが、どうなさいました?
なになに……
ここでも解決できなかったら、ですか?
ふふ。
私を含めてですが、ここの職員もここに所属している者もそれなりの実力者であると自負しております。
厄介ごとでも何でも引き受けたからには、どんな手段を使っても達成いたしますよ。
これまでの案件も全て解決して参りましたし、これからもです。
これは自惚れでも何でもありませんよ。
それが出来なければならない場所なのですよ、マージナルは。
そのために有能な実力者しか所属していませんし、先に申し上げたようにどのような手段を使っても、解決いたします。
そのためには、如何なる犠牲も已む無し、それほどの覚悟とそれを成し遂げる実力者がつどっております。
いままでは(ボソッ)
おっと、すいません。失言を!
最後の言葉は忘れてください!
きれいさっぱり、お流しください!
これからも実力者しか所属いたしません!
ええ、ええ、あんな軟弱な役立たず以外はみな実力者なのですから!
っは!!
またまた、失礼いたしました!
あやつのことになるとどうも……
お恥ずかしい限りです。
え?
あいつって誰のことか、ですか?
口にしたくはないのですが……
あなた様が初めに問いかけられました、神霊課一種にただ一人所属しております、あのカウンターにいる奴のことです。
あの男はある日突然、やってきまして……
あの、、、
嫌に真剣にお聞きになっておりますが、如何いたしました?
何か気になさることでもお有りで?
あの男のことは、マージナルの説明とは関係ありませんが。
それでも、ご説明いたしますか?
ええ、ええ。そうですよね。
あ奴のことはどっかに忘れてください。
それでは、その他のご説明に移らせていただきますね。
こちらでは得意分野ごとに部署を設けておりまして、案件に適切に対処しております。
部署はこちらのボードをご覧いただけますか?
ええ、後ろのこのボードです。
ここでは主に2つの省、異能省と戦闘省があります。
異能省では異能のスタイルで、魔法部・魔術部・魔道部と3つに分けておりまして、戦闘省では戦闘スタイルで近接戦闘部・中距離戦闘部・遠距離戦闘部と3つに分けてございます。
その各省各部の中で、異能省魔法部でしたら精霊課、言霊課など、戦闘省近接部でしたら拳闘士課、剣士課といったように能力ごとに所属場所を分けております。
能力的に多岐にわたる者の場合は兼任している者もおります。
以上がマージナルの簡単な説明となりますが、いかがでしょう?
そろそろ目的をお話になった方がよろしいのではないでしょうか?
なんのことだ、ですか?
ふふ。
なぜ私がここまで詳しく話していると思っているのですか?
知らない人間に親切にもご説明差し上げたとでも?
マージナルの実態を知らない方だから?
ふふふ。
そんなこと、あるわけないじゃないですか。
ここに来るのはマージナルを知っている者だけです。
ふっふふふふっ。
何故そう言い切れるのか、ですか。
先ほども言いましたよね~。
ここの主な案件は3つ。
ギルドが扱いかねた案件、ギルドが扱わない案件、国からの要請の3つだと。
どの案件も一般の方から直接受けることはありません。
よって、一般の方が依頼にくるわけがないのですよ。
それに、、、
分からないとでも思ってんのか?
お前のような薄汚い野郎が、人間の振りして聞きにくんじゃねーよ!
虫唾が走るんだよ!
さっさと正体現して、ここに乗り込んできた理由を吐けっつでんだよ!
それとも、何にも言わずに昇天させてやろうか?
ああん?
*****************
どがん!!!!
「おっ?」
俺がせっせと書類仕事をしていたそのとき、爆音が響いた。
なんだ? と目を向ければ、もくもくと煙が上がっている。
「へぇ、珍しいこともあるもんだ」
別に爆発が起こったことは対して珍しくない。
ここでは何でかあっちこっちで爆発だったり、暴動だったりが起こる。
何だ何だ! と騒ぐのも馬鹿らしくなるぐらい日常茶飯事だったりする。
だからか、ってか元々そんな奴らばっかが集まってるからか、誰も騒いだりしない。
それなのに、俺がちょっと驚いたのには訳がある。
「あいつがこんなことしてるの初めて見たな」
それをやった相手が珍しかったからだ。
真面目で型物。
誰も騒がない爆発とか暴動にいっつも目くじら立てて、やれ器物損壊だ、報酬から引いてやると自体収集に駆けつける当の本人様がやったからに他ならない。
さっきまで話し込んでたと思えば、何やってんだか。
「ここは一つあいつに代わって、天引きするぞって言えばいいのかね?」
ちょっとにやけながら見てれば、爆発地点からノソリと黒い影が立ちあがった。
それは背中に黒い翼を広げ、頭に角を生やした典型的な悪魔のシルエットをしていた。
そのシルエットにちょっと、既視感?
ええっと……なんだっけ?
何か視たことあるような。
会ったことがあるような。
うんうん呻っていたら、煙が晴れた。
そんで、頭の霧も晴れた。
「あいつは、この間会った奴じゃないか!」
びっくり!
負け犬の遠吠えよろしく、覚えてろよ! と叫びながら去っていった奴に違いない。
お願いごとは達成済みだったから、すたこら逃げてく背中を手を振って見送ったことを覚えている。
そいつが何でこんなところにいるのかは、さっぱり見当がつかないが、それにしても
「あいつも運がないな」
相手が悪すぎる。
異能省魔術部祓魔課一種、いわゆる悪魔祓いの超スペシャリストの前に現れるとか。
どんだけ運が悪いんだと、同情したくなる。
「さっさと地獄に戻らないと、強制昇天させられるぞ」
お前の逃げ足の速さを今こそ発揮しろ!
密かにあいつにエールを送ってみたわけだが
「ああ、やっぱそうなるわな」
鮮やかな術式が悪魔を覆う。
後はあっという間。
聖なる光に囚われて、しゅっと姿が蒸発していく。
呆気に取られた間抜けな顔で、地獄に帰れず昇天だ。
折角の逃げ足も役に立たなかったか。
「哀れな奴」
どうしてこんな危険なところにのこのこ来たんだか。
あいつの思考はどうなってるんだろう?
そんなどうでもいい疑問を浮かべれば、真ん前を人影が通り過ぎた。
「ああ、ムカつく。
なんで悪魔なんかがここに来るんだよ。
あいつのせいで余計な労働させられたじゃないか!」
通り過ぎざま悪態をつく悪魔祓いの超スペシャリストを横目に、俺は思う。
「何で最初っから気付いてて、途中まで相手してやってたんだ?」
結局、問答無用で昇天させるんなら、話し込んだりせずにさっさとすればいいものを。
その辺がさっぱりわからん。
悪魔といい、こいつといい、訳がわかんらん。
そんな些細な疑問を残しつつ、今日もマージナルはいつも通り。
ちょっとやそっとの厄介事じゃ、マージナルの平常はびくともしない。
「今日も平和だな。」
マージナルの日常はこうして日々過ぎていくのであった。