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神様のお使い  作者: 花香
壱ノ話
3/46

弐、俺と大草原

空が、とっても青いね。

まったく、清々しいじゃないか。


はははははっと乾いた笑い声を、俺は、いま、草原の、ど真ん中で、あげて……


アッ、も う  だ   め。


ぱたんっと今、力尽きて倒れた。




ことの起こりは大したことじゃない。

かの御仁の“お願いごと”を叶える為に、俺はまずマージナルへと足を向けた。

ここは、戦士や傭兵はもとより、魔道師、魔術師、魔法師といった“異能”たち全般を管理しているところだ。

いわゆる『ギルド』というものなのだが、国家が運営しているため民間経営のギルドよりも上で、よりお固い印象がある。

どっちかというとお役所に近い。


ここに正式に採用されれば半国家公務員的な扱いになるから、住居の手配とかもあるし、一定額の給料ももらえる。

しかも、これがいい収入で国からの待遇もいいもんだから、採用されたがる奴は多い。

ただ、まぁ当たり前といえば当たり前かもしれないが、正式に採用される人数、つまりは組員数には限りがある。

けど、組員じゃなくて、アルバイトっていえばいのかな?

マージナルに所属しているというだけでもブランド価値があるってことで、非採用で単に所属している輩が大半なのが現状。

正式採用されて組員になってるのは、やはり腕が立つ優秀な人物たちなのは当たり前。

ということで、“普通”である俺は非採用者、単なる所属組………と言いたいところだが、なぜか正式に“組員採用”されている。


もちろん実力ではない。


どっかの神子さんが、「神のお告げが~~~」と言って、指名手配犯並みの捜査網を敷かれて、あれよあれよという間にしょっ引かれたと思ったら、いつの間にか採用状態だったりする。

そうして入ってきた俺だが、特に何ができるわけでもない、ということが初日に発覚して、だけど神様のお告げだから云々……と訳の分からない状態のまま今に至る。

そんなもんだから、ここの組員さんたちからの視線は微妙だったりする。


とまぁ、そんなことはどうでもいいことなのだが、俺はとりあえず“情報”の場所まで行くため、その辺の仕事がないかをチェックしている。

やんごとなき事情のため、結構な頻度で休暇届けを出していたら、上の連中に文句を言われたのだ。

なので、“情報”近くの仕事をしつつ“お願い事”を叶える必要がある。

そうこうして探していると、


「薬草採取」


という、何か俺でも何とかなりそうな仕事を見つけたので、それを持って申請書を提出して、俺は遠い地へと出発したのだった。



と、ここまでは良かったのだと思う。

問題は、


「あれ? こんなとこ、地図に載ってないけど………まぁ、大丈夫か?」


地図にない場所に着いた俺が、引き返すことも情報を収集することもなく突き進んでしまったという、実に馬鹿らしいことをしてしまったせいだったりする。

そして、冒頭に戻るわけだ。



見渡す限り草、草、草。

大草原と呼ぶに相応しい、延々と地平の彼方まで続くのではと思わせる草原。


気づけばここにいたとか、どんな冗談だ?


そわそわと風に揺れる草の絨毯に、ぱたりと倒れ込んだ俺の意識は、だんだんと遠ざかっていき―――――――――――――




気づいたら知らない天井が……じゃなく、知らない奴に覗き込まれてた。

そいつはパチパチと瞬きして、俺を凝視している。

俺も負けじと凝視した。


ってか、顔近いよ!

近すぎてビックリだよ!

顔が近すぎてそいつの目しか見えない、ってこれは!!

接吻5秒前。

いや、もしくは既に!!!


と俺の頭は訳わからない現状に空転しまくり、身体はカチコチに固まっているわけだが、ほんとにどうしたらいいっていうんだ?

そう悩む俺に、


「キャーーーーーーーーーー」


甲高い悲鳴とガツンっとイイ音が脳を揺さぶった。

俺の耳はキーンと痛み、目の前にはいくつもの星が飛ぶ。


俺が一体何をした……


折角目覚めた俺は、起きてものの数秒もせずに再び真っ暗闇へと舞い戻ったのだった。




「ごめんなさい。」


殊勝に頭を下げるそいつを俺は見ている。

あの星が散った衝撃は、俺の額に大きなたんこぶを作っている。

これを作った凶器は、どうやら目の前の奴の頭突きだったらしい。

らしいという曖昧な言い方になるのは、致しかない。

なんせ、こっちが大きなたんこぶを作っているというのに、目の前の奴は全く、これっぽちも、でこが脹れてはいないのだから。

ただ、なんとな~く、ちょっとだけ赤くなっているところがあるから、そうなのかと思ったのだ。


「悪気はなかったんだよ。ちょっとびっくりしちゃって。」


うるうると目を潤ませ、俺を上目づかいに見るそいつを俺はただ見ている。

顔を上げたからわかったが、かなり整った顔立ちだ。

後2~3年もしたら、この上目づかいは一種の凶器になるだろう。


「急に目を覚ますから、ほんとにびっくりよ。

 そう考えると、私は悪くないのかしら。」


あら?と首を傾げたそいつは、うるうるしていた目を一瞬で通常バージョンに戻した。

それにちょっと感心しながら、なんだやっぱ嘘泣きかと確信してがっかりした。

さっきの潤んだ瞳にころっと騙されたかったような、騙されなくてよかったような……演技派が上手に世渡りしていく世の中って、世知辛いな~と遠いところに俺は視線を飛ばす。


「それに、あんたを見つけてここまで連れてきてあげたんだから、私って謝り損?」


俺は痛む額に氷をあて、周囲を視線だけで確かめる。

視線だけでって言うのは、目の前の奴を警戒しているからというわけではない。

単に頭を動かすとズキズキと痛むからだ。たんこぶが。


「むしろ私の方が被害者なんじゃない?」


ここはやはり、知らない場所みたいだ。

しかも、動物の皮を何十枚も繋いで拵えた三角屋根のテントだった。

外からの風を完全に遮断できる分厚い皮を使い、広さも十分にある。

足元に敷いている絨毯もしっかりとしているところを見ると、どこかの部族の家。それも、部族の中でも高い地位の家のようだ。


「そうよ! 私が“風の導き”で見つけなかったら、今頃野垂れ死にしているところを助けてやったのに! なんで、私が謝ってんのよ! ってか、いい加減、無視しないでよ!!!!」


バンッッと勢いよく絨毯越しの地面を叩いた反動で痛かったのか、そいつの顔が歪む。

今度の涙は本物のようだ。

痛みから溢れた生理的な涙、と見せかけた演技をしていたら、それこそ惚れ惚れするところではあるが……


「ちゃんと、聞いてよ。」


そして、本物の涙目で睨まれたら、“普通”の人である俺は、


「勘弁してください。」


ぺこりと頭を下げた。

あまりに場違いな返答にそいつはキョトンとしているが、俺は“普通”の人なんだ。

テントの入り口に見えるその、ギラッと光る凶器は何だ!

しかも、何人控えてるんだ!

耳を澄ますまでもなく、「何だあいつは!」とか「姫様に無礼を働けばただじゃおかない!」とか、「ひとおもいに……」とかなんとか、物騒な相談ごとをこっちに聴こえるように話している。

はっきり言って、目の前で話しているこいつなんかより、外に控えている奴らが気になってしょうがない。

お前の話を聞いてるどころじゃね~んだよ! と言ってやりたいが、言った瞬間あれに串刺し決定だ。


早く、ここから出ていきたい。


俺の心は、生きた心地がしないこの現状から、一刻も早く逃れることを欲していた。

そんな俺の切なる願いは、


「何言ってんの?」


変なモノを見たとでも言いたげな顔で、キョトンとしている目の前のそいつには通じなかった。

 





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