仇、俺と謎の物体X
強い閃光に目の前が真っ白になり、現在
「うゎっっ!!」
俺の手のひらにあった水晶のアトに、思わず声が漏れた。
御仁の手の一振りで水晶が浮かびあがるのは、まだ驚くに値しないのだが、目の前で現在進行形で展開されている事態には、本当に思わず声が出てしまった。
ちょっとばかし恥ずかしい。
随分慣れたと思っていたけど、そうでもないみたい。
いや、ここはまだまだ慣れ切っていないことを喜ぶべきか……
そんなことを思いつつ、少し赤くなった頬を気合いで正常化する。
そして、改めて俺は手のひらを見つめる。
正確に言えば、俺の手のひらに握られていたはずの、水晶の中に閉じ込められていたものを。
つまるところ、件の神様から降格したという精霊を……?
「…………」
ええ~~~と。。。
……なんて言や、いいんだ? 取りあえず
「……????」
最大限、何ですかこれは的な疑問の眼差しを御仁方に向けてみた。
<…………あれ??>
そして俺の眼差しに返ってきたのは、当惑しているらしい御仁方の反応であった。
「ちょっと? なんですそれ?」
そのあんまりな反応に、小さく舌打ちして目をそらす俺。
その結果として、俺はその当惑の現物をまじまじと見つめることになった。
御仁方の話を聞いた限りでは、水晶の中には神様から降格した精霊が閉じ込められているという話だったはずだ。
そして、その精霊の本質は水と風。
元々が嵐の神様であったため、精霊になっても荒れ狂う気性に大層難儀されたという、悪戯大好き、迷惑極まりない精霊様であったそうな……
そんで、それがあんあまりに酷過ぎるからということで、水の御仁が統括者として処罰。
結果水晶に封印という。。。
そんな、ちょっと前の話を思い返しつつ、俺はそれを見る。
見たくないけど、仕方なく見てみる。
水の御仁(一見邪気のない、俺からすればイヤな感じの満面笑顔)の一振りであっけなく封印が解除された、水晶。
その一振りは精巧で緻密なルーンを容易く氷解させ、跡形もなく霧散させた。
結果、水晶は内側から亀裂を生じさせ、ダイヤモンドダストの如く空中に虹色と金色の光を散らせた。
その一瞬の光の乱舞は、とてもキレイだった。
そこまでは、よかったはず。
そこまでは、何の問題もなかったよな?
問題は、その光の乱舞の後だ。
俺の目は真白な閃光に塞がれ、目を開けば、これ。
水晶の中に閉じ込められていたと思わしき、この物体。
これは一体なんなんだ?
「ええっと………」
目をパチパチ瞬いたところで、そんでもってどれだけ凝視しようが、俺が行きつく答えなんてものはない。
ないったら、ない!!
だって、生まれてこのかたこんなのと遭遇したことないし。
本でも見たことは…………
まぁ、俺は学者でも賢者でもない、しがない一般事務員だから遭遇したこともなければ、これが載ってるような専門書を見たことないだけかもしれないけど、さ。
ああ、いや。
そんなことはどうでもいいよ。うん。
俺が知ってなくたって、そんなのどうでもいいんだ!
答えを求めたいのなら、答えを知る方々へと求めればいいんだから!
俺がわからなくたって、御仁方なら余裕ですよ~~よゆうよゆう。
そうですよね!!
俺に教えてくれますよね!!
そんな期待を込めて、再度目線を上へ。
今度は答えてねって感じで、きらきらと見上げてみる。
<…………>
<…………>
<…………?>
そして場は静寂に包まれ、
「何よそれ? 卵にしか見えないわよ?」
はい。どうもありがとうございます。
俺と御仁方の沈黙を磔天使様が、きょとんとした目で答えてくれました。
そうですよね~。
どこからどう見ても卵ですよね~。
「しかも羽が生えてるってどういうこと? 初めて見るわ!」
これから罰が与えられるはずの天使様は、そんなことは気にしないってな感じの雰囲気で目をキラキラ。
その視線は何で? そんでもってどうやって生えてるの? と問いかけたくなる純白の羽に注がれている。
ぱたぱたって微かに動いている羽を見れば、ああこいつ生きてるのね~とかほのぼのとした気分に逃避したくもなるが、そこはちょっとばかし待って欲しい。
これって精霊だったんだよ?
しかも、元下級ながらも神様から降格した精霊だったはずでしょ?
なんでそんな上等な存在が、たかだか封印されてただけでこんな変わり果てた姿になってんの?
いや、俺はその姿とか見たことないから、実は元々こんな姿なんですよ~とか言われれば、「そうなんですか。変わった精霊もいるんですね」とか言って終わりなんですが……
<………どうなってるのかしら?>
封印を施したと仰った当の御本人が首を傾げてるってどういうこと?
<………後退? いや、まさか>
あさっての方向を向きつつ、ぶつぶつ言い始める炎の御仁とか、大丈夫ですか?
<ははは………どうなっておるのじゃ……>
何故に空笑いをして目線を遠くにするんですか! 大地の御仁!
その場の混沌とした様子も知らず、羽をぱたぱた、くるくると俺の手のひらの上で八の字旋回を続ける卵らしき存在。
それと御仁方の混乱を交互に見ながら、
「とりあえず、もう帰ってもいいですか?」
なんか全てがどうでもよくなって、無性に帰りたくなってきた。
というより、早く帰して欲しいんですが。
そんな儚い願いを知らぬげに……
いや、若しくはそんな俺の願いを叶えるためかもしれないが、それは大きなお世話というものですよ!
そう叫びたくなる事態が起こったのは次の瞬間。
起こしたのは、俺の手のひらの上で旋回する謎の卵だ。
それはというと、
「あっ!」
という間に、先ほどまで緩い動きでフヨフヨ飛んでいた、謎の物体Xこと羽の生えた卵が、疾風の如く俺の手のひらから射出されたのだ。
勿論、俺の意思ではない。
というか、普通の俺が弾丸並みのスピードでモノを投げれるわけがない。
ついでに言えば、そもそも投げる動作もなしに、そんなことが出来るわけがない。
従って、卵は勝手に、一直線に飛んでいったのだ。
「……へ?」
今、すっごい間抜けな顔をしている磔天使の元へ。
一直線。
すごいね、マジで一直線。
このスピードで行くと、天使の腹辺りで卵が弾けて、中身が飛び散るか?
それとも、まさか風穴が空くとか…………
そんなことを考えているうちに、事態は進む。
「きゃ~~~~」
以外に可愛らしい声を上げる磔天使に、肉薄する弾丸卵。
ああ、中身をぶちまけるのか、それとも天使の腹を突き破るのかと、恐いモノ見たさでドキドキする俺。
そして、
「まぶしっ」
俺は緊張感もなく、一言。
何が、どうなっているのかさっぱりだが、このところよく目にする閃光が瞬いた。
違いがあるとするならば、それは閃光のくせに目に優しい感じがした点。
そんでもって、未だに光り続けている点。
あとは、
<繭?>
<もしくは、たまごかしら?>
光が磔ごと天使を呑み込み、大きな塊になっている点だ。
なんだこれ?
一体何回思えばいいのかわからないが、あえて言おう。
「なんだこれ?」
俺の目の前にある大きな大きな塊は、ころんと丸みを持った卵と言えば卵っぽく、繭と言われれば繭かもね……と言える珍妙な物体。
それが何かを問いながら、俺は全力でこの場から消え去り、この先に待っているだろう事実を知りたくなと思っている。
なんか、これに関わってはいけないような。
ついでに言えば、この先の展開を見聞きしてはいけないような、そんな気が。。。
俺はぼけっと謎の光るたまごだか、繭だかになった塊を見上げながら、悪い予感に身震いしたのだった。