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神様のお使い  作者: 花香
参ノ話
24/46

八、俺と要らない御褒美?


もう、俺の出番は終わったからこれで帰れるかなとか、帰ったらどんだけ仕事が溜まってんだろうとか顔を青くしながらも緩んでいる俺だったが、おかしなことに俺はまだこの空間に留められている。

そのことに首を傾げていると、頭上から朗らかな声がかかった。


<そうそう。これは貴方に御褒美としてあげるわ>


「これを、ですか?」


涙目で睨みつけてくる、磔天使を一切無視したいつも通りの御仁方と俺。

そんな御仁方の一柱、水の御仁が示したのはルーンが巡る水晶だ。


「正直どうでもいいんですけど。」


<そう言わずに受け取って頂戴。>


にこにこ笑顔の麗しの水の御仁。

その笑顔は酷く眩しくって……


正直、何かを企んでいるようにしか見えん。


<その中身、かつて“盗まれたモノ”であるのは確かなのよ>


疑いの目で見る俺に、にっこり笑顔で語る御仁。

俺はその笑顔に若干引きながら、手元の水晶をもう一度“見て”みる。


水晶の中を巡るルーンをよくよく見れば、なにかしらを“封印”するためのものだというのは解る。

ぐるぐると動き回るルーンは相当に手の込んだもので、少なくとも今の世でこのルーンを施せる者は皆無だろう。

ヒトには過ぎたルーンであり、施すことが到底不可能な類だ。

その精巧さ、そして緻密さもそうだが、使われている術式自体も解析不能。

ヒトという種がこれに手の届く日は、当分来そうにない。


この封印のルーンを施せるのは、それこそ上位種と言われるような天使とかか?

まぁ、御仁方ならお茶の子さいさいレベルではるけれど、まさかね~。

御仁方が施したなんて………


<綺麗にできてるでしょ。随分昔にしたのよ。それ>


「はい?」


簡単そうに見えるように小細工もしたから、結構大変だったのよとか言わないでください!

何ですかそれ?


「貴方がしたのなら、全然盗まれたモノじゃないじゃないですか!

 何が、盗まれたですか!」


<そんな呆れたような目で、そんなこと言わないで頂戴。地上から取りあげたことは事実なのよ。

 つまりは、地上からは“盗まれた”って言ってもおかしくないじゃない?>


「何ですかそれ?」


<若気の至りというのかしら?

 ちょっと~むかっとしたから、地上から強制引き上げして~ひょいって封印しちゃったのよ>


<相当にやんちゃだったからな>


<そうよの。アレには手を焼いたの~。妾も相当腹を立てたこともあったしの>


<あのときは大変だったわい。諌める方のことも考えて欲しいぐらいだったからな>


ほほほ。ははは。うふふっとか何昔を思い出していい気分になってるんですか!

ちゃんと説明してください。

何かイヤな汗とか出てきちゃってるし、この水晶を持ってるのが恐いんですけど。


<恐いことなんてないわよ。あなたなら>


そして、いつも思うんですが心の声も拾わないでください。。。

ついでに、脆弱な人間になに超過大評価をしまくってんですか!!


<まぁまぁ。それでね……>


「って、スルーですか? 進めちゃうんですか?」


<それの中身知りたくないの?>


「いえ。知りたいですけど。」


<じゃ~黙って聞いていなさい。それはね……>



そうして始まったのは遥か昔の物語。

御仁方からすれば少し前の。

けれど俺みたいな地上種にとってはお伽噺レベルを超えた、神代の物語。



ある ところに かみさまが いました

その かみさまは うまれたばかりの かみさま でした

その かみさまは …………… 


そんな冒頭から始まったお伽噺は……………




――――――長かったので割愛。

ええ、割愛ですよ割愛。

面倒くさいのでさくっと、すぱっと簡単に言うと、以下の通り。


「やりたい放題の我儘に育って、迷惑ばかりかけるから精霊に格下げ。

 それでも反省せずに勝手ばかりするから、封じられたってことですか?」


俺は御仁方の話を聞きながら、かなりイヤな予感がしている。

というか、イヤな気配がすぐそばから漂ってきている。


<そうなの。ほんとうに困った子だったわ>


頬に手を当て、子育てに困っているマダムみたいに言わんでください!


<やんちゃで、やんちゃで、何度手を焼かされたか>


そんでもって、問題児を抱え込んで頭を悩ませている教師みたいに唸らんでください!


もう、あれですよね。

この展開でその話ってことは、もう決まりですか?

決まりですよね!

そんな、御仁方にも手に負えなかったのなんて


「いりません!」


ええ、きっぱりお断りします!

御褒美だ、なんだ言われたってこの水晶にはその、困った奴が絶賛封印中なんでしょ!

そんな危険極まりないモノ、誰が持っていたいものですか!

こんなの喜ぶのは、戦争中の馬鹿か、頭がとち狂ってる輩ぐらいなんじゃないっすか?

俺はそんなモノとは縁もゆかりもないんで、


「断固拒否です!!!」


<そんなこと言わないで~>


<それも、そろそろ反省ぐらいしておるだろうしのぅ>


<力はあるから、便利ではあるかもしれんぞ>


厭々と頭を振って拒否の姿勢を貫く俺に、御仁方が言い募る。

やれ、永い封印生活のため従順になっているはずだの。

上位精霊だから周囲の精霊も従え放題だの。

俺を守る盾にも剣にもなるだの。


はっきり言って、何一つ心に響いてきませんが?


だってさ~、俺は戦闘要員とか冒険ヤローとかじゃないわけよ。

魔獣討伐に繰り出したり、盗賊退治もしない。

護衛任務を受けることもないし、リュックを担いで秘境探検とかも勿論しない。


俺がするのは事務仕事だ。

事務仕事に超強力な剣も盾も必要ない。

周囲の精霊が使いた放題になったって、マージナル内で使う場所がない。

しかも、やんちゃで封印されるような奴が、大人しく反省して従順になるか?


イヤ、ないでしょ。

マジでないでしょ、そんなこと。


ランクダウンして精霊に格下げされようが、関係なく好き放題やっていたっていうなら、九割九分反省なんてなんのその。

解放されればまた好き放題するんじゃないか?


俺が拒否するのって、当たり前じゃない?

そう思うんですが、御仁方、どうなんです?


「俺は、こんな危険そうなのなんて、絶対、ぜ~~ったい、要りませんからね!」


俺の必死の懇願。

目と目を合わせ、結構真剣に言ってみる。

ここ最近にない必死で真剣な視線と、超懇願の眼差しを御仁方へ!!


<…………>


「…………」


無言で見上げる俺。

にこにこと笑みを絶やさない御仁。


うふふ。とか笑ってないで、俺の意思をちょっとは尊重してくださいよ~~。

本当にお願いしますから。


そんな俺の主張は、御仁のえらく可愛らしい声に打ち破られた。


<えいっ>


「ちょっと………」


御仁の片手が軽い調子で一振り。

狼狽する俺を無視。加えて俺の願いもあっさり無視って……マジですか!


こうして事態は刻々と進んで行く。


ああ、人生って本当に儘ならない…………ってか、


「俺で遊ぶのとか、マジで御遠慮願えませんか!」


俺の心からの絶叫もなんのその、俺の手のひらの上で水晶のルーンは瞬く間に崩壊していく。

強烈で、鮮烈な光を発しながら。





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