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神様のお使い  作者: 花香
壱ノ話
2/46

壱、神様の願いごと


――神様に仕えるモノ、これを天使という。


これは誰でも知っていることだが、天使は神様の側使えみたいなもので、神様には劣るが人間なんか目じゃないくらいの『力』を持っている。

けれど、これも常識だが、彼らは<特別な人>、即ち天使と契約を結んだ眷属にしか見ることができない。

つまり、普通のそこらにいるおっさん、おばさんは元より、あの辺にいるチビたちにも見えない。

純粋な心を持っているという、あそこですやすや寝ている赤子にも見えないだろう。

神秘性は十二分にあるが、日常的な存在じゃないのは当然。

きっと、世間の人間は天使との契約なんかも忘れ去っているだろう。

ここ何百年かは、眷属が誕生していないらしいから、今や天使は想像上の生物並みの扱いになっている。



――神様の『声』を届けるモノ、これを神子(みこ)という。


彼らは、天使とは違って見ることも触ることも出来る。

会いたいと思えば会えるし、神様の『預言』を教えてくれる。

ただし、教会やら聖地やらにいて、滅多に人目に触れることはないし、本当に神子なのかはわからない。

神聖さを売りにしている聖地らしきところで、“騙り者”をしている輩もいるし、自分がそうだと信じきっている“ニセモノ”もいる。

本物の神子が果たして今、どれくらいなのかは・・・・・・さてはて、さっぱり分からない。

そう言えば、この前見た神子さんは単なるお飾りだと思ったら、何故か悪魔の『声』を届けていた。

………きっと、悪魔信仰の神子さんだったんだろう。うん、きっと………そうなんだろう。

たとえ、純白の法衣を着て、由緒正しき聖地の神子さんであったとしても。



――神様の奇跡を手に入れたモノ、これを聖人・聖女という。


彼らは、一時的に神様の『力』を揮うことができる。

その『力』は、神の御業と敬われ、畏れられる。

人は彼らを讃えるが、彼らは神様に一方的に恩寵を得ているだけで、神様の意思を受けているわけじゃない。

当然だが、神子じゃないから『声』も聴こえない。

だから、せっかく何らかの『力』があっても、生涯気付かずに終わるのもいるし、うっかり神様の逆鱗に触れて『力』を失くしたり、天罰を受けてあっさりと死んだりするやつもいたりする。

聖人とか聖女なんて言われて担がれるのと、気付かずに生涯を終えるのと、はたまた逆鱗に触れてあっさりさよならするのと、どれがいいかと言われてもちょっと判断が難し…………くもないか。

俺なら生涯気付かずに終えたいと切に思う。

担がれた結果、国やら何やらに酷使されるのも嫌だし、天罰を食らいたいとも思わないし。




そんな『天使』『神子』『聖人・聖女』。

彼らは特異な存在で、滅多やたらに目にできるモノじゃない。

けれど、それよりも下に特異な人はわりといたりする。

即ち、


――魔道師、魔術師、魔法師だ。


魔具を使って異能を発揮する、魔道師。

術式を使って異能を発揮する、魔術師。

独自の理論で異能を発揮する、魔法師。


彼らは『天使』や『神子』、『聖人・聖女』よりも身近にいる、近くて遠い隣人だ。

珍しくもあり、珍しくもない。

ありふれた存在ではないが、確かにいることを疑われない。


普通と異能。

それは、世間と世間からの逸脱者。

その決して交わらない境界線も、あまりにも日常的過ぎて忘れられる。

すぐ隣りで酒を酌み交わし、友となり肩を組むことを許された関係。

それが、普通と異能の正しくもなく、間違ってもいない関係なんだ………



<こりゃ、話しを聞かんか>


つらつらと世界の常識を頭の中で最もらしく、哲学人っぽく考えている俺に、この世のものとは思えない稀なる美声が脳裏に刺さる。


<全く、この子は何を考えているのかしら。>


<本当に。我らの前にいるのに豪胆なことよ。>


<面白い輩ですこと>


ほほほ、あはは、ふふふ。

とかなんとか方々で上がる美声に、俺は頭を抱えたくなる。

俺は魔道師でも、魔術師でも、魔法師でもない。

かと言って神子や聖人でも、ここ何百年かいない天使に連なる眷属とかでも、ない!!

ここは、全力で叫ぼう!


俺は、至って普通なんだ!!

俺は、世間から弾かれちゃない!!!



<諦めが悪いわね>


<そちは十分外れておる>


<あなたはとっても貴重よね。ええっと、あら? あれをなんて言ったかしら……>


<うん? “ヒト”が言う神子とか聖人のことかえ?>


<そうそう。私、最近いらなくなったわ。>


<我もだ。>


<わらわもじゃな。まだ見てはいるがの~>


和やかに、世間一般で重宝されている『神子』や『聖人』を、“いらない”なんてぶっちゃけている御仁方に、俺ははぁ~と肩を沈ませた。

こんなぶっちゃけ話、俺は全く聴きたくはない!


ということで、俺は今まで続けていた現実逃避を諦めた。

………いつものように。





白、それも幻想的に輝く白い空間に浮かんでいる俺は、頭上を見上げる。

そこには、ああこれこそが究極の美であり、描くこともできない“美”そのものであると思わずにはいられない、麗しき御仁が優美にして荘厳、言い表すこともできない畏怖を身に纏ってそこに“いる”。

俺のような矮小な取るに足らない人間なんか目じゃない巨大さは、単に体躯の大きさからではなく圧倒的な存在感の違いに他ならない。

いつ見ても、いい加減首が痛くなるから、存在感はどうでもいいから身体だけでも矮小な俺に合わせてくれてもいいのにと思う。

ああ、首痛て~とか思いながら、俺は取りあえず、何かやたら期待に目を輝かせている方へと目を向けた。


「それで、今回は何用ですか?」


<あのね。頼みたいことがあるのよ。>


そうして、かの御仁が語ったのは、


<この子が逃げちゃって。探してきてくれる?>


頭の中に一つの情報が叩きこまれる。

キンッッと耳鳴りがした後に、叩きこまれた情報が脳に意味を成した。

その情報に………えっ、ま じ  で、、、、、

一瞬、俺は彼岸に意識を飛ばした。

これ、ほんとですか? という意思を御仁に飛ばしたら、


<お願いね>


とにっこり笑顔で“お願い事”を押し付けられた。


<これ使って、連れてきてね>


そう言ってふわふわとこっちに降りてきたのは、掌に納まる首輪だった。

明らかに情報とは、全く、これっぽちも大きさがそぐわない、赤い首輪だった。

それを手に、俺は呆然。


そして、


<権限を少し貸してあげるから、お願いね>


<今回は、我の眷属も使ってよいぞ>


ほほほ、あははっと上品な笑い声と豪快な笑い声と共に、白い幻想空間は意識の彼方へと遠ざかっていった。

俺がいるのは見慣れた一室。

用件だけを告げて、今日も今日とて、かの御仁らは去っていった。


ああ、いやだ。


俺は、赤い首輪を凝視したまま、しばらくの間悲嘆にくれた。

逃げられるのなら逃げ出したい。

そして、一方的な“お願い事”を放棄したい。

そう心から思うが、そうは問屋が卸さない。

なんせ、かの御仁方は


「神様のばかやろ~~~~~~!!!!!!!」


この世界の神々なのだから。

矮小な俺なんかは、神々に逆らえるわけがないのだ。


ああ、なんと悲しくも哀れな俺。


理不尽な願い事に命を駆けざる負えない俺は、きっと世界一不幸な“一般人”だ!

魔道師でもなく、魔術師でもなく、魔法師でもなく、聖人でもなく、神子でもない。

これは事実。

つまり、俺は世に言う“異能”を持たない“普通”の人。

そんな俺が、あれを……

脳裏を占める情報にぶるっと身体が震えた。


ああ、いやだ。

ああ、行きたくない。

でもな~~~~


「行くしかないか」


一人の部屋に、俺の独り言が空しく響いた。




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