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神様のお使い  作者: 花香
弐ノ話
16/46

八、わたしと精霊使いの師匠


毎度おなじみの光景になりつつあるけれど、守護精霊様と水の精霊と赤茶髪の人がごちゃごちゃし出すと、なかなか治まらない。

ちょっと離れたところから傍観していたわたしは、今や影を作る木陰に移動している。


だって、暑いんだもん!

もうお昼に近いせいか、太陽は真上。

まっすぐな太陽の光は、歩いていれば気持ちいいぐらいだけど、ぼーっと立ってるとじわじわと肌を焼いてくるのよ!

とっても、とっても暑いのよ!


ぱたぱたと手で風を送りながら、木陰に入れば幾分涼しくなった。

あっちは、盛り上がってるから、まだまだここから移動できそうにない。


なんで、あのとき勢いに任せて頷いちゃったのかな?


木陰に入ったわたしは、こうなった原因を思い出し。


「……………………うん」


やっぱ、しょうがないわよね!


あのときのことを思い出して、しょうがなかったのだと一人首を縦に何度も振った。

通りすぎる人がそんなわたしを見て、


「あの人大丈夫かしら?」

「この暑さでやられたのか?」

「具合でも悪いんじゃ。」

「顔色が悪くないか……」


とかなんとか言っているのは、全く聞こえてはいなかった。

それは、わたしの意識があの日の公園に飛んでいたからで、わざと聞こえないようにしていたわけじゃない。断じてそんなんじゃないとだけ、言っておくわ。

誰にとかは言わないけど、ね。


誰に対して言い訳しているか分からないまま、わたしは精霊2人を宥めている男の横顔を見た。

その顔は一言で言うと、ゆるい。

間抜けには見えないけど、それだけ。

とにかく、ゆるいのよ!

今何て、守護精霊様と水の精霊を優しく宥めているというよりも、2人に情けない顔でお願いしているようにしか見えないし。

そんな男の顔を見る度に、あの日の顔とのギャップにわたしは付いていけないなと思っちゃう。


そう、あの日。

わたしがうっかり質問してしまったあの日の男の顔は、今でも夢に見るほど強烈で……


「………また、思い出しちゃったよ~」


あの日のことを思い出して、ちょっと涙が出てきた。





あの日、


「ねぇ。建物に入れないことの、何がそんなに辛いの?」


うっかり言っちゃった質問に、ぴくりと男の顔が一瞬固まった。

そして、すっごくゆっくりと顔を向けてきたんだけど………


「…………ひっ」


ゆらりとこっちを向いた赤茶髪の男の目に、わたしは小さく悲鳴をあげてしまった。


やばい!!!

ヤバイ人の目だ!


咄嗟に顔をそらせなかった。

眼前の顔は普通の、さっきまでと同じはずなのに、暗いというか黒いというか、どこか逝っちゃってるぽいその目のせいで、完璧に狂人一歩手前の危ない人になってるその顔が!!!

ばっちりわたしの目に焼きついて。。。


い~~~や~~~!!!


声にならない悲鳴を心の中で叫びまくったのは、初めてかも。

あの化け物のときは、思いっきり固まっちゃって、叫んでるどころじゃなかったし……



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


曰く、マージナルとは国を跨いで活躍できるギルドのようでありながら、各国家から認知されている特殊機関である。

曰く、マージナルに登録できる者はギルド登録者とは比べられないぐらいの恩恵を受けられる。ただしその分マージナルに登録できるかどうかの審査基準は高く、登録者の任務には当然危険が伴い、且つ任務遂行時には紳士淑女的な対応を求められるので、実力だけでなく人間的な能力も求められる。

曰く、マージナルで活動する者は登録している限り人道的な救援を要請された際には、駆けつけなければならない。もし、不当な理由で拒否をした場合は登録抹消となる。

曰く………


「マージナルは………」


あ~~。もう聞いてられないよ~~


ずらずらといっぱいのことを言われて、わたしは頭を抱えた。

だってさ~、いきなり色々言われたってわけわかんないし、覚える気なんか最初っからないから言葉の羅列にしか聞こえてこないのよね。

目つきが怖いから黙ってるけどさ。

っていうか、なんでいきなりマージナル講座(?)を聞かなきゃいけないのよ!


「マージナルのは登録者のことは所属者と言い、この所属者にはある一定のルールが設けられていまして……」


もう、イヤ!!

さっきからルール、ルール。

だから何なのよ!

あ~~、ほんとにイライラするわね。

早く本題に行ってくれない?

さっきから20分ぐらい「マージナルとは」って説明ばっかで、疲れるったらありゃしないわ。


そんな、わたしの心の声がやっと届いたのか、逝っちゃってる目つきの男の視線が、ギランってわたしを睨みつけてきた。


「そんなマージナルの所属者は、マージナルからの斡旋による依頼で生計を立てているわけです。

 そして、マージナルに立ち入り禁止を言い渡されたということは、仕事ができないということです。

 ということは、僕は半年間強制的に仕事が出来なくなったってことなんですよ。」


わかりましたか?

そう聞いてきた男の顔は、鬼気迫るものがあって、夢に出そうなぐらい怖かった。


目が変われば、人相が変わることをわたしは身をもって知った。

マージナルについて切々と語っていたと思ったら、これ。


もう、やだよ~~


泣きたくなってきた。

だって、怖いんだもん。


この日、延々とこの怖い目で夜中まで散々「マージナルについて」という講座が開かれた。


講師は赤茶髪の男。

講習生はわたし一人。

2人の精霊はと言えば、いつの間にかいなくなっていた。


守護精霊様の薄情者!!



場所が公園から宿屋の食堂に代わって椅子に腰かけ、延々続く講習会が女将さんの一声で終わりを告げた瞬間、わたしの目には宿の女将さんが天使様に見えた。


っていうのは、いくらなんでも大げさかな。

なんせついこの間、本物の麗しの天使様を見ちゃったわたしとしては、たとえでも天使様と女将さんを同列になんか扱えない。

天使様と女将さんでは、次元が違いすぎるしね。

あっ、でも天使様じゃなくて、救世主とかだったらいいかも。

わたしにとってはそうだったし。


こうしてこの日は、長時間の苦行にヘロヘロになって眠りについたんだけど、こんなに疲れて眠った翌日がすっきり爽やかな朝になるわけがなかったのよ。

夢の中でもマージナルトークと、あの怖い目を向けられてたし。


スカッと、晴れ渡る空とは対照的に、わたしの心の中はどんより曇って、ついでに頭の中も霞がかっていた。

だから、正常な思考能力なんて、わたしにはなかったのよ!!

あの怖い目に根こそぎ刈り取られちゃったのよ、きっと!!


翌日の朝早く、


「今日から君は僕の弟子になるから。」


「はぁ?」


「いいよね。」


「…………はい」


ニコッと笑いながら、その実昨日の夜と同じ目つきの男が、朝っぱらから目の前に現れたら………


頷くでしょ!

わけわかんないこと言われてるとか思っても、反射よ、反射。

とりあえず頷いとけって感じで、反射的に頷いちゃったのよ!!!!!!



っということで、弟子になりました。

ええ、弟子になることになりました。


わたしの師匠は、切れると恐ろしい水の精霊使いです。

巷では“赤の水使い”と言われている、赤茶髪のひょろ男がわたしの師匠になりました。


あの人じゃないことは、ひじょ~~~~に!!

ひっじょ~~~~~~~に残念で、とっっっても悲しいんだけど、わたしは師匠の弟子になりました。


わたしの師匠があの人じゃないんて……

こんなことがあっていいの?

なんであの人じゃないの?

あの人を追いかけて、ここまで来たっていうのに、ひどい!!


そんなわたしの嘆きなんかなんのその、この男、いやもう師匠って言わないとダメなんだっけ?

この師匠は、ちっとも気付かず守護精霊様と水の精霊たちとごちゃごちゃと何かしている。


う~~~ん。後もう少しってとこかな?

師匠の懇願に守護精霊様が折れるまでのカウントダウンが始まってるし。


って、こんなことばっかり分かるようになってる自分にちょっとうんざりよ。まったく。


空は晴れ渡っていて、気持ちのイイ風がそよそよと流れている。

わたしは、これからどうなるのかな?

そんな風に疑問は募るし、こうなっちゃった後悔もあるんだけど。


「……がんばってみるのも、いいかな?」


蒼の民の集落から飛び出して、守護精霊様に言われるままにあの人を追いかけて。

あの人の弟子になるのは断られたけど、あの人の近くに行けるように。


「うん、がんばりたいな」


あの人がいる場所は、もうわかってる。

あとは師匠に色々教わって、あの人の近くに行こう!


わたしが望んでいた結果じゃないけど、これもいいかなと思えるようになった自分に、ふふっと笑いが込み上げてきた。


わたしの心は、まだまだ曇ってるところももちろんある。

けど、雲間から差し込む日差しみたいに、希望と期待の晴れ間が顔を覗かせはじめているのも確か。


「待ってなさいよ!」


すぐにあなたのもとに行くから。


師匠に弟子入り?してから10日目。

まだまだ、なんにも分かんないけど。

すぐに一人前になって、マージナルに入るんだから!


ふふふって笑顔がこぼれてるわたしに向かって、「お待たせ」って言いながら師匠がやってきた。

やけに機嫌がイイわたしに、ちょっと目を瞬かせてどうしたのか聞いてくるけど、わたしは無言で首を振った。


「それで、今日は何を教えてくれるの?」


昨日よりも明るい声のわたしに、ますます思案気な顔をするけど、


「まずは基礎からだよ」


詮索はしないで、ただ嬉しそうに師匠は笑ってくれた。



弐ノ巻はこれにて幕になります。

あんまりにもわたしの話が長くなって反省です。幕引きもちょっと無理やり感が否めないのですが……これ以上は長引かせたくないので、ここまでに。

次回は俺の話にしたいと思っていますので、お楽しみに。



ちなみに、弐ノ巻のその後的な話は活動報告にあります。

読みたい方はそちらを~~


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