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神様のお使い  作者: 花香
弐ノ話
11/46

参、僕と秘密の湖【前編】


僕の住んでいる町は、なんの変哲もない田舎町なんだけど、たったひとつだけ自慢できるところがある。


だけど、それは町の外には秘密なんだってさ。

こんなにきれいなら、観光名所にでもすればいいのに。


「そしたら、僕も………」


お金持ちになれるかもしれないのに……って言葉は呑み込んだ。

代わりに「はぁ~」と細ーく息を吐いて、ゆるゆると首を振った。


観光名所にして、何をするっていうんだか。

あそこが観光名所になったぐらいで、僕がすぐに金持ちになれるわけないだろうし。

というより、僕が何かする前に大人たちがアレコレして、結局僕にはお金は入ってこないような……


うん、やっぱりあの場所は秘密にしていた方がいいや。


僕はあっさり、あの場所の観光名所化計画を捨てた。

そして、ぐ~~となる腹を抑えた。


「おなかすいた~~」


僕のつぶやきは森の中に吸い込まれていく。

歩きなれた道を進みながら、僕が向かうのは町の秘密の場所。

もうすぐ見えてくる………


「ああ、やっぱりここはいいな~」


目の前に広がるのは、湖だ。

穏やかな湖面、さわやかな風が通る度に湖面に波紋が立ち、その波紋が僕の足元までやってくる。

形も大きさもどこにでもある湖だと思う。

けど、


「いつ見ても、すっごいきれい。」


ほぅ~~と息を吐いて、見惚れてしまうのはこの湖の色!!

見てよ、この色!!

青色なんかじゃなくて、透き通るエメラルドグリーンの湖が眼前にあれば、感嘆の声の一つも出るのは当然。

しかも、この湖はこれだけじゃないんだ。


風が通り、波紋が立つ度にきらきらと太陽の光を反射して湖面が煌めく。

翡翠やサファイアの煌めきの合間に、紅玉や紫水晶の輝きを放つ様は、湖に宝石が沈んでいるんじゃないかと思わせるほど美しい。


この前見た虹もよかったけど、こっちのきれいさには勝てないな。


僕はこの前夕立の後に架かった七色の虹を思い出した。

見たときは感動したけど、それは滅多に見れないから思ったこと。

きれいさで言えば、断然こっちの方がきれいだし、


――本当に


「本当に宝石みたいだな」


「えっ????」


僕の心の声にぴったりはまったセリフだけど、僕は言ってないよ?


「“情報”通りだけど、こんなところがあったんだ」


慌てて後ろを見るまでもなく、僕の横を通り過ぎていく少年。

年は僕と同じぐらいかな?

っじゃなくて!!!


「よそ者!!」


町の秘密の場所に町民以外(よそ者)がいる。

大問題だ。


こんなところを誰かに見られたら……


さーーって血の気が引いた。

町の秘密をばらしたって思われる!!!

それはやばい!

めちゃくちゃやばい!!

母さんに怒られ、父さんには殴られるかも。

みんなにも色々言われるかもだし………


これから起こることは、最悪なことしか浮かばない。


やばいやばいやばい


ひたすら頭の中でループする言葉に押されて、「うわぁっっ」って声も無視して、僕は男の子の腕を引っ張って森の中へと駆け出した。





「いきなり、何するんだよ!!」


掴んでいた手を振りほどかれて、怒った顔が僕の目の前にある。


「お前が悪いんだ!どうして、あそこに来たんだ!

 誰に教えられたのか言えよ!!!!」


対する僕も怒っている。


だってそうだろう!

秘密の場所にこいつが来たのが悪いんだから!

一体誰に聞いてやってきたって言うんだろう?

言ったヤツ、絶対とっちめてやる。


ひょろひょろで、悲しいことにひ弱なことを認めざる負えない僕が、出来るかどうかはわからないけど……意気込みは大切だと思う。

うん。きっと、大切だよね?


簡単に振りほどかれた手を見て、ちょっと悲しくなりながらも僕は怒っていた。

そんな僕に、目の前のこいつはやれやれと言いたげに肩をすくめた。


「誰に教えられたかなんて、別にどうでもいいだろ。」


「よくないよ! あそこは秘密の場所なんだ! よそ者が来ていいとこじゃない!!」


「なんで? あの湖がなに? 

 あの湖は君のものでも、町のものでもなんでもないだろ?」


「町のものだよ!! よそ者が来ていいとこなんかじゃない!」


「なにそれ? 町の近くにあるだけで、町のものなの?

 確か、この町の領地にこの森は入ってなかったはずだけど……

 この町は勝手に町のものにしてるの? それとも国が黙認してるってこと?」


言われて僕は言葉に詰まった。


町の近くにあれば、町のもの。

町のすぐそばにあるから、単純にこの森も湖も町のだって思ってただけで、僕は町の領地とかそんなこと考えたこともなかった。

いきなりそんなことを言われても………

答えられない僕は、ただ口をぱくぱくとしているしかなかった。


「それに、さっきよそ者が来ちゃいけないとか言ってたけどさ。

 それを言うなら、俺じゃなくてお前の方じゃないの?」


「はぁ?」


「すっごい不機嫌そうだったじゃん。」


あれはあれで綺麗だったけどさ~と言いながら腕を組んで頷いているこいつに、僕は思った。


変なヤツにからんじゃったのかもしれない。


僕は自然と距離を取るように数歩下がった。

その間、こいつはぶつぶつと「機嫌とるの大変そう」とか「どうやって説得しようかな」とか言っていたけど、急に頭を押さえて


「ほんとに、面倒なことばっか。俺は一般人なのに、ひどすぎる!」


嘆いて髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜ、こっちを見た。

目と目が合った瞬間、どきっとしてじわじわと下がっていた足が止まった。

視線が外せなくて戸惑ったけど、すぐに視線が逸れ、僕の斜め後ろに向いたその目が、大きく見開かれた。


何か、いる?


町の近くにある森のため、この森には大きな獣はいない。

見かける獣の中で大きな獣と言えば、せいぜい兎とか狐ぐらい。

だから、後ろに熊みたいに大きな獣が現れたとかは思わなかった。

けど、珍しい色をした鳥なら?


そう思って僕もその目線の先を見たけど、そこには何もなかった。

何にもないやってちょっと落胆しながら前を向いたら、目を細くして薄く笑っている顔があった。


なに?

その顔、怖いんだけど。


ジリっとまた下がり始めた僕の腕が、ガシッと今度は掴まれた。

ヒィッと喉が鳴った僕に、薄笑いを浮かべたこいつは


「お前にいいもの見せてやるよ」


一言投げつけて、ぐいぐいとさっき僕たちが辿ってきた道を戻り始めたのだった。





こうして、僕と俺は出逢ったのでした。。。

後編に続く。

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