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神様のお使い  作者: 花香
弐ノ話
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弐、わたしと見知らぬ人

今回は俺視点ではなく、わたし視点です。


「ねぇ、何やってんの?」


知らない男の声がして、わたしは横を向いた。

いつの間にかわたしの隣にいたのは、赤茶髪に茶色の目をしたひょろっとした人だった。

背はわたしよりは高いけど普通なのかな?

ただ、手足が長いせいなのか、それとも単に痩せているからひょろっとしてちょっと背が高く見えるのかな?と思ったけど、別にそれだけ。


「関係ないでしょ」


「おいおい。何だよそれ。」


「だって、あなたには関係ないじゃない。」


ほんとに、なんで声なんかかけてくるのかな?

こっちから声をかけない限り、勝手に話しかけてこないでよ。って思ってるのに、


「別に、何してるかぐらい言えばいいじゃないか」


「なんで?」


「朝っぱらからそこにいて、じっとしてるなんて気になるだろ?」


うっとおしい。

なに?こいつ。


「何かを見てんの?それとも、誰かを待ってんの?」


無視よ無視。

何なのよこいつ!

早くどっか行って欲しいんだけど。


「うう~ん……見てもいるけど、お相手が来るのも待ってるってとこか?」


「………」


その言葉にドキッとしたけど、黙ってればいいのよ!

黙ってればわかるわけ………


「図星かな?」


「わたし、何も言ってないじゃない!!」


「そんで、お相手は……あいつかい?」


焦って言ったわたしに、ニヤッと笑いながらその男は一点を指差した。

そこにいるのは、あの人。

わたしがここにいる原因。

そして、わたしのあこがれの人。

その人を指差されて、わたしはびっくりして目を見開いた。


「正解だね。」


そんなわたしに、今度は目元を細めて男は笑った。



わたしは今、マージナルのカウンターが見える真正面の場所から、カウンターが左横に見える布張りの長椅子に移動して座っている。

隣には赤茶髪の男が座ってるけど、人ひとり分のスペースが開いているから、さっきよりも距離がある。

それに、内心わたしはほっとした。

知らない人なんて、いやだし。


「そんで、なんでアイツを見てんの?」


「別にわたしの勝手じゃない」


「まぁ、勝手っちゃ~勝手だろうけどね~。

 朝からあそこにずっと立ってられたら正直邪魔だよ。」


「どうして?別に誰が立ってようと関係ないじゃない。

 こんなに広いんだから。」


なに言ってんの、この人?って思ってたら、横で大きくため息をつかれた。

しかも、なんか独り言言ってるみたい。

わたしには小さくて聞こえなかったけど、守護精霊様がその声を届けてくれた。

(あいつも大変だな)って声を。

それに、何?って思ってたら


「あのね………世間には常識とかルールとかがあるのは知ってる?」


なんか失礼なこと言われた。


なに、こいつ!

ほんと、なんなのこいつ!!!


ぐわっと怒りで顔が赤くなるのがわかった。


もう、なに?こいつ!!

ひとが大人しくついてきてあげれば、これ?

ついてくるんじゃなかった。

早く、移動しよっ!


勢いをつけて立ちあがって、くるんっと男に背を向けて、さぁ行こうって思ったら、


「ねぇ、あいつの弟子になりたいってほんと?」


「………なんで?」


「なんでって、なんで知ってるかってこと?」


「うん。」


「そりゃ~ね~。」


思わせぶりににやにや笑う顔が、すっごくむかつく。

何よ!って仏頂面してたら、今度は面白そうに顔をくしゃっと崩した。

その顔は、さっきのにやにやしている顔よりはマシだけど、ちっとも嬉しくない。


「あいつが言ってたから。

 そう言ったら、信じる?」


当然、信じない!!



もう、行こう。

やっぱり、この男から離れようって思ってたんだけど、この人がまたまた


「あいつがここで何て呼ばれてるか知ってる?」


なんか気になること言いだした!

知らないとか言いたくないから、何にも言わなかったんだけど、それでも伝わっちゃたみたい。


「あいつはね、ここでは“能無し”って言われてるんだよ。」


「なんで?」


「剣士でも戦士でも魔道師でも魔術師でも魔法師でも、まして聖人でもないから。」


それは本人からも昨日聞いたけど、だから何?

正直、蒼の民の中には戦士しかいなかったからわかんない。

どこかに入ってないといけないこと?


「ここ、マージナルに採用されている人ってね~。あいつ以外全~~員、剣とか槍とかの武器の達人とか、魔道や魔術や魔法で優秀な、それこそ国に仕えていてもおかしくないぐらい優秀な人しかいないんだよ。」


「そうなの?」


「そうなの。それに、マージナルに所属しているだけの奴らだって、それなりだし。

 ここには、そ~いうヤツしかいないんだよ。」


僕だってその中の一人だしね~とかいう男の声は、軽いけどウソじゃないって直感的にわかった。

けど、


「だけどさ。あいつは何にも持ってないからね。」


続けられた言葉に、ぐっと息が詰まった。

心の中が、「そんなことはない」って言葉でいっぱいになって。

でも、それが強すぎて胸が痛い。

それでも、思わずにはいられない!


あの人は――――すごい人なんだから!

何も持ってない人じゃないもん!!


「だから、あいつは“能無し”」


違う!!

あの人はすごい人なの!


「どうしてここにいるのか分からない“能無し”だよ」


「ちがう!!!!!!!」


やっと口から出た言葉を、こいつは笑った。


ムカつく!ムカつく!ムカつく!

にこにこと笑う、こいつが、すっごく、ムカつく~~~~~!!!!


あの人のこと知りもしないで、何言ってんのよ!

あの人はすごい人なんだから!


か~~って身体が熱くなってたまらない。

キッと男を睨みつけやろうとしたら、男の顔がぐにゃんってなった。

あれ?って思ったら、ぽろって涙がこぼれてきちゃった。

しかも、次から次にこぼれてきて、なんか止まんない。


あれあれ?

どうして止まんないの?


どうしてどうして?って思ってるわたしには、




<もう!わたしの大事な子を泣かせないでよ!>


「すみません。まさか泣くなんて思わなくて」


<もっと、言い方っていうのがあるでしょ。>


「いや…その~~~」


<そうですよ~。貴方は何をしにきたんですか?女の子を泣かせに来たんですか?>


「お前まで言うのか?」


<そりゃそうですよ。頼まれたときに引き受けるって言ったのは誰ですか?>


「そりゃ、そうだけど………」


<早く泣きやませてくださいよ。あの方との約束なんですから。>


<あら、あなたもあの人と知り合いなの?>


<ええ。かなり前からの知り合いですよ。というかこの人との契約を成立させてくれましたし>


<へぇ~~そうなの~~。その辺の話、今度聞かせて。私も早く契約したいし>


<ええ。もちろんです。>



守護精霊様と男と他の精霊が、特に守護精霊様が他の精霊とのおしゃべりに花を咲かせていたんだけど、泣いてるわたしの耳には一切意味をなさなかったし、歪んでいる視界のせいで姿がわかるはずもなかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「僕があいつと会ったのはね。」


濡れたハンカチを目蓋にあてるわたしの横で、赤茶髪の男が目を細くして語り始めたのは、あの人との出会いについて。



散々泣いて、泣いて、泣いた後。

わたしの涙が終わった時、この男がぺこりと頭を下げた。

その下げ方がなんとなく、あの人に似てるなぁってぼ~~っとしながら思ってたら、ハンカチを渡された。

そのハンカチはしっとりと冷たい。


ずっとここにいたのに、どうしてハンカチが濡れてるんだろう?


不思議に思ってたら、種明かしみたいに男の横に綺麗な男の人があらわれて、にっこりとほほ笑んだ。

思わずぱちぱちと目を瞬いたら


「こいつは僕の相棒。水の精霊だよ。」


<はい。どうも~>


ひらひらっと手を振られて、つられて右手をひらひら振っちゃった。


「こいつと知り合ったのはね。あいつがきっかけなんだよ」


「え?」


<そうなんですよ。あの方のおかげで今があるんですよね~>


「なんかそういう言われ方はイヤなんだけど、否定はできないな」


<まったく、強がりばっかり言って。言いつけちゃいますよ。>


「うっ、それはやめてくれ。あいつには………」


わたしをそっちのけで話し始めた二人に、わたしはぼんやりした。


さっき、“能無し”とか言ってバカにしてたのに……

どういうこと?


二人からはあの人をバカにしているんじゃなくて、あの人を尊敬しているような、信頼しているようなそんな雰囲気がする。

なんとなく、わたしがあの人に抱いている感じと似ている?

なんでなの?


さっきとのギャップに混乱していたら、そっと冷たいハンカチが目にあてられた。

横を見たら守護精霊様がわたしの目元までハンカチを持ち上げてくれていた。

わたしは守護精霊様にありがとうございますと頭を下げ、ハンカチを自分で目にあてた。

そしたら、やっと気づいたみたいで、男がこっちを向いた。

そして、


「そのまま聞いて欲しい話があるんだ」


そう言って、話し始めた。





姫さんの俺への想いが熱すぎな気が……この娘、大丈夫?そして想われ過ぎな“俺”、大丈夫?と思わないでもないです。。。

次話はある男、僕の視点でお送りします。

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