第十一話
「司さんよ、あんたは――心霊関係の話、信じる方かい?」
「幽霊とか、そういう? うーん……見たことがないので、なんとも言えないというか……」
突然の話題に、司は戸惑いを隠せず、首を傾げながら言葉を濁した。
「幽心や、こいつはな――どうやら“そういうの”が見える性質らしくてね。俺自身もあいつと一緒にいると、わけのわからん現象に巻き込まれることがある。今回もきっと、そっち方面の興味でここに来たんだろうさ」
五郎は、親指で人の部屋のお茶請けを頬張る新平をクイと指しながら、どこか面倒くさそうに笑った。
「まぁ、俺としては鳴神家の物件を扱えるってだけで十分な箔が付く。資産家の屋敷なんざ、壊れてようが放置されてようが、取り扱うだけで価値があるのさ。だからな、司さん――あんたとは案外、長い付き合いになるかもしれねぇな」
五郎がニヤリと、どこか凄みを含んだ笑みを浮かべる。
その圧に、司は思わず身構えた。だが同時に、彼の言葉や態度の端々から、妙に現実的で地に足のついた感覚も感じ取れる。
――あくまで、表面上は。
「そういやぁ、尊君から今回の詳細は届いてんのかな。俺の方には全然降りてきてないんだけど」
話の流れを切るように、新平がそう言いながらスマホを取り出し、画面を確認する。
しかし、どうやら目的の連絡はまだ届いていないらしく、落胆したように肩を落とした。
「尊君?」
司がそう尋ねると、新平が顔を上げて軽く笑った。
「あぁ、うちの探偵事務所のスタッフでね。リモートワーク専門なんだけど、情報収集とかデータ整理とか、そういうのを全部引き受けてくれる天才引きこもり君なんだ」
「ひ、引きこもり……」
「ほら、うちの所長――あのご尊顔だろ? とにかく目立ちまくるから、現地調査にはまるで向いてないのさ。だから俺以外にも現場担当が何人かいるんだけど、その中でも尊君は凄腕の情報収集係なんだ」
「なんだよその言い方。ハッカーだろ、ハッカー」
「そうそう、それそれ」
新平の軽い口調に、司はただでさえ非日常的な会話についていけず、ますます困惑する。
(……個性が強い職場なんだな)と内心で納得しつつ、新平がスマホで誰かとやり取りしている様子を見守った。
「……あ、来た来た」
どうやら相手が単に送信を忘れていただけらしい。すぐに資料が届いたようで、新平は画面をスクロールしながら中身を確認する。
司は部外者ということもあり、直接内容を見ることはできなかったが、新平がかいつまんで説明してくれた。
「二十年前の行方不明事件の消息不明者一覧と、鳴神家の成り立ち。それから、この地域に伝わる昔話とか、そういうのをまとめてもらったんだよ」
「……昔話まで?」
司が首を傾げると、新平は苦笑しながら頷く。
「まぁ、民話ってのも馬鹿にできないんだよ。たとえば地名ひとつ取ってもそうだ。“龍”とか“蛇”が付く地名は、たいてい土砂災害の多い場所を示してたりする。後になって改名されて忘れられちまうこともあるけど、昔話を辿れば、その土地がどんな曰くを背負ってるのか分かることもある。土地の価値を見極めるなら、そういう調査も大事っちゃ大事だけど……まぁ、今回は幽心さんの趣味だろうな」
「藤堂不動産は、こういう“いわくつき”の土地を扱うのが得意でね。鳴神のご当主が、素直に俺らに内見を許してくれた理由の一つがそこさ。まぁ――大体そういう騒動を解決してくれるのが、うちの幽心なんだけどよ!」
がははと調子よく笑う五郎に、新平は白けたような視線を向けた。
その後しばらく、新平は黙って資料に目を通していたが、やがて眉を寄せ、重く息を吐いた。
そして、心底嫌そうな声でぼやく。
「うわぁ……やっぱりここ、忌み地だ」
「……もしかして、忌み地って怖い話とかで聞く……」
司が思わずそう零すと、新平は視線を資料から外さずに説明する。
「簡単に言えば――“呪われた土地”ってやつだな。凶事が起きやすい土地のこと」
不動産業に携わる者にとって、忌み地はもっとも敬遠すべき場所だ。
本来は、墓地や火葬場のような嫌悪施設、あるいは騒音・悪臭などで心身に悪影響を及ぼす場所を指す言葉だが――今回の鳴神村に関しては、その意味が少し違う。
なぜか不幸が立て続けに起こり、災いを呼び寄せる“何か”が潜んでいる土地。
鳴神村は、まさにそんな忌み地だった。
新平はスマホから顔を上げ、じっと司の方を見つめた。
その表情は先ほどまでの軽さを失い、どこか張り詰めたような真剣さを帯びている。
「なぁ――“オワライサマ”って、聞いたことある?」




