第75話 終わりの終わり。 救世主物語の始まり
戦いは数日を超えて続き、ミネアとエミリアの衝突は極限の凄惨さを帯びていた。
互いの力が幾度となく激突し、そのたびに地上に恐るべき破壊の痕跡を残していた。
赤黒く染まった空を背景に、燃え上がる大地、裂けた地表、荒廃した文明の廃墟が広がっている。
両者ともにその限界を遥かに超えた力を発揮しており、その姿はもはや人知を超えた存在に等しい。
生存者は遠くからその戦いを見守ることしかできず、圧倒的な力の前にただ震えるのみであった。
ミネアは荒廃した大地の上で静かに佇み、その眼前に立つエミリアを見据えていた。
エミリアの体からは黄金の光が溢れ出し、その圧倒的な存在感はミネアの神威「エンドオブカタストロフィ」ですら容易に寄せつけない。
エミリアの持つ神威、「星の輝」はただ攻撃を防ぐだけではなく、ミネアの力を弾き返し、そのエネルギーを増幅させてすらいたのだ。
エミリアの身体を覆う光の壁は絶対的な守りを誇り、どんな攻撃もその輝きの前に無力化されてしまう。
ミネアの放つ「エンドオブカタストロフィ」は彼女の最も強力な力であり、通常であればあらゆるものを破壊し消し去るエネルギーの塊であった。
しかし、エミリアの「星の輝」に対してはそれさえも無意味なものであるかのように弾かれてしまう。
さらに鉄壁の防御力に超音速に近いスピードで
体当たりしてくるので、凄まじい破壊力になった。
ミネアの眉間に一筋の汗が滲んでいた。
それは彼女が感じている肉体的な疲労ではなく、精神的な緊張から来るものだった。
彼女は冷静にエミリアの動きを観察し、その力を見極めようとしていた。
エミリアの圧倒的な力には、明確な違和感があった。それは、かつて共に戦った仲間としての彼女とはまるで別人であるかのような、不自然な力の膨れ上がりを感じさせるものだった。
「エミリア…そなたは、もはや自分自身ではないのか?」
ミネアは静かに問いかけたが、その声に答えるものはなかった。
エミリアの瞳は虚ろに輝き、彼女の意識は完全に失われているように見えた。
彼女の体を操っているのは、かつての悪友エリシアだった。
エリシアは、かつてミネアと共に戦った仲間であり、強大な力を持つ天帝でもあったが、今やその力は狂気に支配され、絶望の象徴となってしまっていた。
「エリシアの魔王の力か…」
ミネアはその言葉を口にすると、エミリアを操るエリシアの魔王の力を察知した。
エリシアはエミリアを使ってミネアを絶望に追い込み、彼女を破滅へと導くつもりなのだ。
ミネアはその残酷な真実に気付きながらも、エミリアを倒すことの意味に苦悩していた。
エミリアを倒せばエリシアの呪縛を断ち切ることができるが、同時にエミリア自身も失うことになる。
だが、エリシアの支配から彼女を救うためには、その残された力を完全に無に帰すしかない。
「これがエリシアの策略だったのか…いや
あやつのことだ…自由気ままに…何も考えずに
こうなったかもしれん。」
ミネアは目を閉じ、静かに考え込んだ。
彼女の心は揺れていた。
何世紀も共に戦い、仲間であったエリシアが、なぜこのような道を選んだのか。
そして、エミリアを救うにはどのような犠牲を払わねばならないのか。
だが、戦いの舞台となったアルディア大陸はすでに破壊の極致に達していた。
山々は崩れ、大地は裂け、かつて清流が流れていた川は干上がり、枯れ果てていた。
周囲には、人々の絶望と恐怖が漂い、その文明の最後の残光さえも失われようとしていた。
生き残った者たちはわずかであり、彼らもまた終焉の中で息絶えんとしていた。
ミネアは決意を固め、最後の賭けに出ることを決意した。
彼女の選択は、エリシアを止めるための犠牲を払うことだった。
「エリシア!そなたの気持ちは余には理解できんが、考えはわかった。そなたは余を困らせたいのじゃな。その願いは叶ったぞ。そなたの勝ちだ。しかし、エミリアだけは救わねばならぬ…」
ミネアの声は静かであったが、その言葉には決意が込められていた。
彼女は自らの中に眠る力をすべて解放する準備を整えていた。
それは、彼女自身の命を犠牲にして放たれる最後の手段であり、この世界に存在するすべての破滅と呪いを無に帰するための究極の力だった。
三千年間封じられていた7つの結界が次々と解き放たれ、世界を守ってきた封絶結界が消え去ると同時に、ミネアはすべての神威を「アンスターオリジン」に集中させた。
この力は、ミネアが命を賭して使用する究極の神威であり、すべての負のエネルギーを吸収し、それを無に帰すための力であった。
「祖は遍く無に還す者なり…」
その一言が発せられた瞬間、天地が震え、大気が砕けるような轟音が響き渡った。
ミネアの放った力は、エミリアの中に巣食うエリシアの呪いを完全に粉砕し、同時にエミリア自身の力さえも無効化していった。
そして、エリシアの支配は完全に消滅し、エミリアは解放されたのだ。
その瞬間、ミネアの体は光の粒子となって静かに崩れ去っていった。
彼女の使命は終わり、彼女自身はその犠牲と共にこの世を去った。
荒廃した大地にはもうミネアの姿はなく、ただ静寂が広がっていた。
戦いは終わりを告げ、エミリアは救われた。
しかし、ミネアはその名を残しながら、伝説の中へと消えていった。
その後、アルディア大陸には長い間静寂が続いた。
人々は失われた文明の残滓の中で生き延びるための手段を模索していたが、希望は薄れ、誰もが破滅を受け入れようとしていた。
人々は再び立ち上がる術を失い、文明の残滓をかろうじて生き延びた者たちが漂うのみだった。
しかし、その荒廃した大地に、一つの希望の芽が生まれようとしていた。
かつて遊牧民で育った一人の少女――今や立派な大人の女性として成長した彼女は、ミネアの伝説を信じ、ミネアがかつて救おうとした世界のために立ち上がる者であった。
女性は、かつてのミネアと同じように、大いなる力を秘めており、その力で新たな時代を築いていく運命を背負っていた。
この女性が救世主となり、荒れ果てた世界に再び希望をもたらすだろう。




