第72話 終わりの始まり4
エリシアの冷淡でありながらも優美な声が、エミリアの心を深く切り裂いていった。
エミリアは息を呑み、目の前にいるエリシアの言葉に耳を疑った。
信じがたい言葉が次々と口から出てくるたびに、エミリアの心の中で信頼が崩れていくのが感じられた。
「あなたのお父様、本当に素敵な人だったわね。精霊の加護を得ていて、運命に守られているかのようだった。だからね、あなたのお師匠、名前は…うーん、忘れちゃったけど、そこの王様に働きかけて植民地政策を推し進めるようにしたのよ。本当に大変だったわ。」
エリシアは淡々と話し続けるが、その言葉には恐ろしいまでの冷酷さが感じられた。
「そうしてね、その政策で労働力が必要になってきた。もちろん、国の人々が捕まえるわけにはいかないから、山賊に偽装してあなたを捕まえさせようとしたの。あなたのお父様は…立派に死んだわ。あなたを守るために、そして…あなたのせいで。」
エミリアはその言葉に衝撃を受け、全身が凍りついたかのようだった。
涙が滲む瞳でエリシアを見つめながらも、言葉が喉に詰まって出てこない。
「それでね、あなたの神威を目覚めさせるためにまた苦労したのよ。私が直接手を下せば、すぐにミネアに察知されてしまうから、他の人々に運命を委ねて操作することがどれほど大変だったか…あなたにはわからないでしょうね。」
エリシアはその美しい顔に微笑みを浮かべながら、エミリアの反応を楽しんでいるかのように見えた。
「ねぇ、どう?
エミリアちゃん。すべてを知った今、どう感じるの?」
エミリアは震える手を握りしめ、言葉を絞り出した。
「あなたが…すべてを計画していた…私の人生を、運命を…すべて…」
エリシアは一瞬の沈黙の後、再び微笑んだ。「そうよ、エミリアちゃん。すべてはあなたをこの運命に導くために、私が仕組んだことだったの。でも、それもすべて…あなたの力を引き出すために必要なことだったのよ。」
エミリアの心は憎悪と裏切りで燃え上がり、その視線はエリシアを鋭く見据えた。
「あなたは…私を裏切った…!」
エリシアは肩をすくめるように軽く笑った。「裏切り?いいえ、これはただの…運命の一部よ、エミリアちゃん。」
エミリアの怒りは抑えきれず、全身を震わせるほどの激情が彼女を支配していた。
瞳には涙が浮かび、胸の内から溢れ出る憎悪が燃え盛る炎のように彼女の心を焼き尽くしていた。
何度も何度も心の中で「なぜ?」という問いが繰り返され、信じていたすべてが崩れ去っていく感覚に襲われた。
「なぜ! なぜ今、それを言うの!」
エミリアは声を張り上げ、叫びに近い声でエリシアに問いかけた。
信じていた仲間だったはずのエリシアが、自分を利用していたこと、すべてを計画していたことを、どうして今になって明かすのか理解できなかった。
エリシアはその問いに対して、ほんの少し考えるように間を置いた。
そして、ふとその表情が花のように柔らかく笑顔に変わった。
「あなたのその顔が見たかったのよ」
エリシアは楽しそうに、しかし冷酷に答えた。
その声にはまるで遊び心が含まれているかのような響きがあったが、エミリアにとってはその一言がどれほど残酷なものであるか、まざまざと突きつけられた。
その笑顔はまるで全てを計算し尽くしたかのような余裕を感じさせ、エミリアの怒りをさらに煽る。
エリシアの意図が単なる悪意ではなく、彼女の感情を弄び、その苦しみを楽しむためだったと知り、エミリアの心はさらに深い絶望に沈んでいった。
「あなたは…私を…ただの遊び道具にしていたのね…」エミリアの声はかすれ、震えていた。
自分の人生が、エリシアの一つの思いつきで歪められたことを悟り、彼女は深い喪失感に襲われた。
エリシアは無邪気に微笑みながら、エミリアを見つめ続けた。
その笑顔には一片の後悔もなく、ただエミリアの苦しみを楽しむことにしか興味がないかのようだった。
エミリアの心は、沸騰する激情と混乱に支配されていた。
視界がぼやけ、手足の感覚は無くなり、まるで自分の身体が自分のものではないかのように感じられる。それでも、エミリアの意思はただ一つ、確固たるものだった。
「許せない!」
その一言が、彼女の全てを動かしていた。
目の前で微笑むエリシアは、エミリアの苦しみを喜び楽しんでいるように見える。
その瞳に狂気を宿しながら、エリシアは魔王の力である虚魔幻惑の力を最大限に引き出し、エミリアの感情をさらに高めた。
「いいわぁ、その目でわたくしを見てほしい。
愛しているわ。」
エリシアはそう囁く。
その瞬間、エミリアの中で何かが切れた。
怒りと憎悪が限界を超え、彼女の内に秘めた力が爆発的に解放された。
「星ノ輝!」
その一撃は、エリシアを瞬く間に跡形もなく消し去った。
しかし、エミリアの中に湧き上がる怒りは、もはや彼女自身の制御を超えていた。
理性は崩壊し、怒りと憎悪だけが彼女を突き動かしている。
エリシアはもうこの世に存在しない。
しかし、彼女の言葉と行動は、まるで呪いのようにエミリアの心に根を張り、彼女を蝕んでいく。
エミリアは、その呪縛から逃れようともがき続けたが、その怒りは収まることなく、彼女を苦しめ続けた。
どこへ向かうべきかも分からず、エミリアはただ怒りに駆られ、目的もなく彷徨い続ける。
その姿は、まるで怒りと悲しみに取り憑かれた亡霊のようだった。
これから彼女が向かう先に、どのような運命が待ち受けているのか、誰も知る由はなかった。




