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救世主物語  作者: アルドア
最終章

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第71話 終わりの始まり3

バモスカラ大陸の薄暗い夕暮れ、エリシアとエミリアの間に流れる静かな緊張感は、夜の帳が落ちるにつれ、徐々に重みを増していった。


野営地の小さな火は彼女たちの影を歪め、その光と影が一瞬一瞬の会話を繊細に彩っていた。


エリシアはエミリアを見つめ、穏やかな微笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。


その笑みは柔らかく、母親が娘を慈しむかのような優しさに満ちていたが、その内側に潜む冷静な策略を、エミリアは全く感じ取ることはできなかった。


「エミリアちゃん、あなたのおかげで多くの命が救われたわぁ。あなたは、虐げられてきた人々にとっての希望であり、救世主よ。」


その言葉はエミリアの心に深く響いた。


天帝に背き、民を救うために戦うというその崇高な使命感は、エミリア自身が長年抱えてきた怒りと孤独を浄化するかのようだった。


エミリアは言葉を返す。

「私はただ、天帝たちが行っている支配を許せなかっただけです。自分の力を、そんなことに使うなんて…」

彼女の声は震え、真摯な決意が感じられた。


エリシアはすぐにその言葉に強く同調した。

「そう、そうよ!力を持つ者が、その力を濫用して民を苦しめるなんて、許されるはずがないわ。彼らが『天帝』などと自称するのは、あまりにも傲慢ね。」


エリシアの言葉には、巧妙な毒が含まれていた。


エミリアの心にある純粋な正義感を煽り、その怒りを利用するための一言一言が、緻密に計算されていたのだ。


エミリアはその瞬間、自らの中に燃え上がる怒りと正義感がより強く膨らむのを感じた。


彼女は拳を握りしめ、決意の炎を新たにした。


「この世界を正さなければならない…正義のために!」


エリシアはその言葉を聞くや、内心で満足感を覚えた。


エミリアが完全に彼女の意図通りに動いていることを確信し、計画は順調に進んでいると感じた。


エミリアの純粋な心、そしてその強い正義感こそ、エリシアが彼女を操るための最も効果的な手段だった。


エミリアにとっては、エリシアは信頼できる同志であり、共に戦う戦友であった。


しかし、エリシアにとってエミリアは単なる駒だった。


エリシアはエミリアを正義の旗手として担ぎ上げ、その影で自らの計画を進めていたのだ。


エリシアの目的は単なる天帝への反逆ではなく、もっと深い、もっと暗い意図が隠されていた。


エミリアを正義の名のもとに戦わせ、その純粋さを利用して大陸全土を混乱に陥れることが、彼女の真の狙いだった。


エミリアがいかに正義を掲げて戦っても、その背後にあるエリシアの暗躍によって、その戦いはいつしか目的を見失い、破壊と混乱をもたらす道へと進んでいた。


火を囲む二人の姿は、表面的には固い絆を示していた。


野営地の火が揺らめく中、エリシアの姿はまるでこの世界の一部ではないかのように、妖艶で幻想的だった。


炎の光が彼女の顔を照らし、柔らかくも冷たい表情を浮かべるエリシアの目は、まるで深淵を覗き込んでいるようにエミリアを見つめていた。


彼女の言葉は一瞬、風に溶け込んでしまいそうなほど静かだったが、その内容はエミリアの心に鋭く突き刺さった。


「エミリアちゃん、あなたのお母様のこと、ずっと見守っていたのよ。」


エリシアの声には、冷ややかな響きがあった。「彼女の運命はとても強力で、私も何度も運命の輪を使って未来を垣間見たわ。でもね、もしあなたが生まれてこなければ、その全ては無意味だった。」


その瞬間、エミリアは凍りついた。


信頼していた仲間の口から出た言葉が、彼女の中で何かを壊していくのを感じた。


彼女は動けなかった。ただ、その場に固まって、エリシアの言葉が何を意味しているのかを必死に理解しようとしていた。


「伝染病を広げたのも、全てはあなたのためよ。」エリシアは続けた。


その声は優しさを装っていたが、エミリアにはその裏に潜む残酷な意図が見え隠れしていた。


「あの土地に病を流行らせることで、運命を確実に果たすことができた。あなたが無事に生まれてくるためには、そうする必要があったの。そしてその結果、お母様を失うことになった。」



エミリアの心の中で、何かが砕けた音がしたようだった。


彼女の頭の中で記憶が急速に駆け巡る。


子供の頃の幸せだった日々、母親が病で倒れたあの日、そしてその後の孤独。


全てがエリシアの仕業だったのだ。


今まで信じていた世界が、急に足元から崩れ去っていく感覚に襲われた。


「え…えっ…?」エミリアはか細い声を出すが、言葉は喉の奥で詰まってしまった。


心臓が激しく脈打ち、頭がぼんやりとする。


彼女はエリシアを信じていた。


共に戦ってきた仲間だと思っていた。


だが、エリシアは彼女の母親の死に関わっていただけでなく、その全てを計画し、冷酷に実行していたのだ。


エリシアはゆっくりと微笑んだ。


その微笑みには、人間らしい感情の欠片もなかった。


まるで人形が作り物の笑みを浮かべているかのようだった。


彼女はエミリアの動揺を楽しんでいるかのようだった。


エミリアが理解に苦しむ様子、信じられない現実に直面し、心の中で混乱が広がっていく様子を観察しながら、その瞳は冷徹に輝いていた。


「あなたが今ここにいるのは、全て私のおかげなのよ。」

エリシアは静かに言った。


その言葉は、鋭い刃のようにエミリアの胸を刺し貫いた。

エリシアの言葉は、彼女の行動の背後にある真の目的を露わにし、エミリアにそれを突きつけていた。

自分の人生が、エリシアの計画にすぎなかったという現実が、エミリアをさらに絶望へと追い込んでいった。


エミリアは拳を握りしめた。

怒りと悲しみが彼女の中で沸き上がり、心の奥底で燃え盛る感情が、彼女の理性を飲み込もうとしていた。

しかし、それでもなお彼女は動けなかった。


これまで信じてきたすべてが裏切られたと知った今、どうすればいいのか、どこに向かうべきなのか、まったく分からなくなってしまったのだ。


エリシアは立ち上がり、エミリアの前に立つと、その頭を優しく撫でた。


「大丈夫よ、エミリアちゃん。これからもあなたには大切な役割があるわ。運命は、あなたをまだ必要としているのだから。」


エミリアはその言葉に応えられなかった。


彼女の世界は崩壊し、その中でただ立ち尽くすしかなかった。


エリシアの手は彼女の髪を優しく撫で続けたが、その手の温かさは、彼女にとってもはや何の慰めにもならなかった。



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