58話 アルドゼファー大陸に上陸
そうして使節団一行は、ついにアルドゼファー大陸の海岸に辿り着いた。
長い旅路と激闘の果てに、夜の闇が一行を包み、星空が静かに輝いていた。
だが、その美しい夜空とは裏腹に、全員が疲労困憊していた。
特にエミリアは、道を切り拓くために星の輝きの力を使い過ぎ、すっかり消耗しきっていた。
彼女の顔には疲労の色が濃く、ヘロヘロな状態で岩陰に腰を下ろした。
「ここまで来られたのは、カレンのおかげだよ…」エミリアは感謝の言葉を漏らしながら、カレンを見上げた。
カレンは疲れているにもかかわらず、冷静に周囲の状況を確認し、キャンプの設営を指揮していた。
彼女の強さと決断力がなければ、海魔たちを突破することは到底不可能だった。
しかし、カレン自身も心の中では冷や汗をかいていた。魔眼の力を解放したことで、自分自身も制御しきれない恐怖と戦っていたのだ。
発狂と飢饉の魔眼が生み出した惨劇は、彼女にとっても精神的な負担となっていた。
使節団全員が目を閉じていたとはいえ、その異様な光景は二度と見たくないものだった。
「今は休みましょう。あの海魔たちとの戦いは、誰にとっても簡単なものではなかったわ…」カレンはそう言うと、エミリアの肩にそっと手を置いた。
彼女の表情は強がっていたが、内心では何度も恐怖と戦っていたことは誰の目にも明らかだった。
他の使節団員たちもそれぞれキャンプの準備に取り掛かりながら、深い疲労を感じていた。
セレナは失神から目を覚ましたものの、未だに虚ろな表情をしており、彼女が見たもの、聞いたものが強く心に残っているようだった。
エンルケ・ギは、エミリアを気遣いながら火を起こし、暖を取ろうとしていた。
「これからどうする…?」アイリスがぼそりと口を開き、カレンに問いかけた。
「アルドゼファーに辿り着いたが、ここから先の道のりはさらに険しいだろう。」
「まずは休息よ。明日のことは、明日になってから考える。」カレンは短く返答しながら、星空を見上げた。
夜風が彼女の髪を揺らし、疲れた身体を包み込むように流れていった。
静かな夜の中、一行は徐々にキャンプの準備を整え、休息の時を迎えた。
シリウスがその辺りの森で狩った獲物を抱えてキャンプに戻ってきた。
普段であれば、エミリアも彼に付き添い、一緒に狩りを楽しむのが恒例だったが、今回は疲労が限界に達しており、火の近くで休息を取っていた。
シリウスは黙々と獲物を捌き、鍋を作り始めた。じゅわっと肉が煮え始め、辺りに芳ばしい香りが漂い、キャンプ全体が温かく包まれた。
緊張感と恐怖が渦巻く中、鍋から立ち上がるその香りは、どこか心をほぐし、一同に一瞬の安堵を与えた。
シリウスは出来上がった料理を各自に配り、みんながそれぞれ静かに食べ始めた。
失神していた者たちも、料理の香りと温かさに誘われて目を覚まし、徐々に意識を取り戻していった。
セレナは目を覚ますと、すぐに自分が荷車に乗せられていたことに気づき、顔を赤らめながら「申し訳ありません…迷惑をかけてしまい…」と、控えめにエミリアに言った。
しかし、エミリアは優しく微笑んで、
「そんなことないわ、セレナ。誰だって怖い時はある。今日は私も助けられたんだもの。だから、無理しないで今は私に甘えて」
と言いながら、優しく彼女の背中を撫でた。
セレナは一瞬ためらったものの、エミリアの強い押しに従い、彼女に甘えることを決意した。
先ほどまでのエミリアは、海を割り、絶望的な状況を打破した救世主だったが、今はその同じ手で、自分を優しく介抱してくれている。
セレナはそんなエミリアの優しさに触れ、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
「この人についていけば、どんな困難があっても乗り越えられる…」セレナは心の中でそう誓った。
エミリアだけではない。カレンや他の仲間たちも、皆がそれぞれの方法で支え合いながらここまで来た。その絆が、彼女たちをさらに強くすることを信じて、セレナは鍋の温かいスープを一口飲んだ。
やがて、キャンプにいる全員が静かに食事を終え、疲れた身体を横たえながら、星空を見上げていた。夜空に広がる無数の星々が、遠い未来への道しるべのように輝いていた。




