第56話 星が導く道
エミリアは荒れ狂う海の上空から無数の海魔に追われ、必死に攻撃を繰り返していた。光の矢を何本放とうとも、次々と湧いてくる海魔たちには歯が立たず、彼女の体力は徐々に削られていく。海魔は一匹倒すごとに二匹、三匹と湧き、終わりの見えない戦いにエミリアの心は疲弊していた。
「これでは…勝てない…」彼女は焦りと疲労から、ついに撤退を決意した。力を振り絞って再び空へと飛び上がり、仲間たちのもとへ戻る。海魔たちは追撃を諦め、暗い海の中へと戻っていった。
使節団の一行は、心配そうにエミリアの帰還を見守っていた。彼女が無事に戻ってきたことに安堵しつつも、その表情は沈んでいた。
「エミリア様、大丈夫ですか?」カレンが優しく声をかける。
エミリアは悔しそうに顔を伏せ、しょんぼりとしたまま、海を見つめていた。
「ごめん、みんな…力が足りなかった。あんなに海魔が湧いてくるなんて、思ってもいなかったの…」
エンルケ・ギが近づき、ぽつりと呟いた。
「いや、おぬしはようやったよ、エミリア。あれだけの海魔相手に撤退する判断をしただけでも、見事なもんじゃ。他の方法を探せばいいさ…まだ、道は閉ざされておらんよ」
その言葉に、エミリアは少しだけ元気を取り戻し、顔を上げた。
「ありがとう、エンルケ・ギ。でも…本当に他の方法なんてあるのかな?」
使節団たちはそれぞれ、海を見つめながら考え込んだ。エンルケ・ギはしばらく黙った後、ぼそっと言った。
「まあ、歩いていけるなら、2、3日であのアルドゼファー大陸までたどり着けるかもしれんがな…」
カレンはその発言に驚いて笑い、
「エンルケ・ギ、そんな馬鹿なことを。海の上を歩けたとしても、海魔に襲われて終わりですよ」と返した。
二人の会話は冗談交じりだったが、エミリアはそれを聞いて突然、ある考えがひらめいた。
瞳が輝き、勢いよく立ち上がると、
「そうだ!船がダメなら、歩いて海を渡ればいいんだ!」と声を上げた。
「えっ、何を言っているんだ?」
エンルケ・ギが驚いて振り返るが、エミリアはすでに両手を天に広げ、星の輝きを呼び寄せ始めていた。
「星よ、道を切り拓け!」
彼女の声が大きく響くと、その瞬間、海の表面が激しく揺れ動き始めた。
波が高く盛り上がり、まるで海そのものが裂けるかのように、目の前の水が二つに割れていった。
轟音と共に海が割れ、左右に押しのけられた水の壁が形成され、その奥には海底が剥き出しになっていた。
岩肌がむき出しの海底には、長く続く道が広がり、遥か向こうにアルドゼファー大陸の姿が見えた。
「どう、これならいける?」
エミリアは振り返り、満面の笑みを浮かべて仲間たちに問いかけた。
その場にいた全員が一瞬、言葉を失い、ただその光景を呆然と見つめていた。
誰もが海を割るなどという魔法は伝説の中の話だと思っていたからだ。
しかし、目の前に広がるこの奇跡を前に、エミリアの力がどれほど強大かを改めて実感せざるを得なかった。
「さすが、エミリア様です!」カレンとセレナがほぼ同時に、感嘆の声を上げた。彼女たちはエミリアの能力を信じていたが、ここまでの偉業を目の当たりにするとは思っていなかった。
「いやはや…海を割るとはな…」エンルケ・ギも驚きを隠せない様子で腕を組みながら言った。「ただし、これで渡れるとは限らんぞ。警戒は怠るなよ」
その言葉に、一同は表情を引き締めた。
割れた海の道が安全かどうかは分からない。海魔たちはまだどこかに潜んでいるかもしれないし、何が待ち受けているかは未知数だ。
それでも、エミリアが切り開いたこの奇跡の道を前に、使節団は新たな希望を胸に決意を固めた。
「慎重に進もう。何があっても、互いを守りながら行くんだ」カレンが指示を出し、全員が頷いた。
エミリアが率先して割れた海の道を進み始め、一行はその後に続いた。
左右にそびえ立つ水の壁は壮大でありながらも、不気味さを漂わせていた。いつまた海が元に戻るかも分からず、緊張感が漂う。
しかし、エミリアは一度も振り返らず、前を見据えて歩き続けた。彼女の決意は揺るがなかった。星の輝きが彼女を導き、必ずや大陸へと辿り着けると信じていた。
使節団はその背中を追いながら、目の前に広がる未知の世界へと足を踏み入れていった。




