第54話 バモスカラ大陸の終わり
最北端の地に辿り着いた使節団を待っていたのは、小さな村だった。
そこは帝国の管轄外で、外部からの影響をほとんど受けていない独立した集落だった。
村の人々は、厳しい寒さの中で自給自足の生活を送っており、特に寒さに強い魔獣を狩り、その油や肉を保存食として使っていた。
エミリアはこの村の生活にすぐに溶け込んだ。
村人たちが魔獣を狩り、肉を処理して保存する手伝いをすると、エミリアも子どもたちと一緒にその作業に加わった。
彼女は子どもたちと笑い合いながら、保存食を作るために魔獣の油を塗ったり、干し肉を作ったりしていた。
村の人々は、初めて出会う外の世界から来たこの異邦の少女に驚きながらも、その心優しい姿に自然と笑顔が溢れていった。
彼女にとっては懐かしい光景だった。かつて自分もこのような生活をしていたことを思い出し、心が温まる思いがした。
村の生活はシンプルだった。
大人の男たちは狩りや力仕事に励み、女性たちは裁縫や家事に忙しく、子供たちはその大人たちを手伝いながら生活の知恵を学んでいた。
年長者たちは、狩猟や祭事の伝統を次世代に伝え、村全体でその役割を分担しながら互いに助け合っていた。
村の人々はささやかながらも、温かいもてなしを使節団に向けてくれた。
食事や飲み物が振る舞われ、夜には古くから伝わる伝統的なダンスも披露された。
エミリアはその素朴な生活の様子に感動し、心が穏やかになるのを感じた。
寒さの厳しいこの土地での生活は、決して楽なものではなかった。しかし、エミリアはここでの時間をとても大切に感じていた。村の人々と力を合わせて生活し、自然と共に生きるそのシンプルさに、彼女は心から満足していた。
ふと、エミリアは遠くの雪山を見つめた。
これまでの旅路が頭に浮かび、彼女は静かに思いを馳せた。故郷を離れ、さまざまな場所を巡り、多くの人々と出会い、助け合い、戦い抜いてきた。その全てが彼女を今ここに導いたのだ。
「思えば、遠くまで来たんだな…」
エミリアは心の中で呟いた。自分がこれほどの旅をしてきたこと、そして今、自分が感じている平穏に感謝の気持ちが湧き上がってきた。
果てしない旅路の先に、彼女は自分の居場所を見つけたような気がしていた。
海の向こうにうっすらと次の大陸、アルドゼファーが見えていた。
ここからだと目視で確認ができるほど、距離が近かった。
このまま、次の大陸へと向かうか、
エリシアの合流を待つか、考えていた。
その時、村の子どもたちがエミリアの周りに集まり、彼女に次の作業を手伝ってほしいと笑顔で頼んできた。
エミリアも微笑みながら立ち上がり、また一緒に作業に戻っていった。
この最北端の村で過ごす時間が、エミリアにとって一つの答えを見つけるための大切なものとなった。
そして、彼女は決心する。
次のアルドゼファー大陸へと進もうとする。
エミリアは最北端の村での生活を楽しみながらも、心の片隅ではエリシアのことを思い続けていた。
彼女とは別れて以来、一度も再会することができていなかった。
エリシアはエミリアにとって大切な友人であり、戦いを共にした仲間でもあった。
それだけに、彼女がどこで何をしているのか、無事であるのかが常に気がかりだった。
エミリアは、村を出発する前に帝国の役人と冒険者ギルドに連絡を残した。
もしエリシアが自分を探すなら、彼女に次の目的地が伝わるようにと。
「次はアルドゼファー大陸へ向かう」と明確に伝達を残しておいた。
どこかでエリシアと再び出会える日を信じながら、エミリアは新たな旅路に心を決めた。
出発の日、村の人々や子どもたちが集まり、彼女の旅立ちを見送った。別れを惜しみつつも、エミリアは微笑みを浮かべ、彼らに別れを告げた。
「またいつか、会いましょう」
そう言って、エミリアは風の中に消えていった。
アルドゼファーへ向かう途中、彼女は広がる海と空を見つめながら、自分の旅がまだまだ続くことを感じていた。
新たな大陸で待つ未知の冒険に胸を躍らせ、同時にいつかエリシアと再会できることを心から願っていた。




