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救世主物語  作者: アルドア
3章

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第51話 センチュリア帝国の衛生都市

エミリア一行は、センチュリア帝国の各地を大臣の部下が同行してくれると有り難い申し出だった。


まず訪れたのは、帝国の衛星都市。中央部に比べて活気が薄れたその街には、戦争の影響を受けた難民たちが多く集まり、貧困の様相が色濃く漂っていた。


エミリアは、難民キャンプの簡素な住居を目の当たりにしながら、帝国の格差の大きさを痛感した。中央の豊かさとは対照的に、地方に行くほど生活は苦しくなる。とりわけ、戦争による被害を受けた地域では、家を失い、生活の糧を失った人々が溢れていた。


「ここは確かに辛そうね」とエミリアはつぶやいたが、その目に悲惨な有り様が写っていた。彼女は他の大陸の状況を知っているだけに、この国の貧困と他の国々の貧困との違いに思いを巡らせた。


エミリアが思い返したのは、バモスカラ大陸南部にある「農楽園」という制度がある国だった。

そこでは、人々が働くだけで住居や食事が提供され、表向きは貧しそうだが、彼ら自身は満足しているという。その違和感にエミリアは眉をひそめた。


「自由がなくても満足している…」と、彼女は呟く。「ここでの貧困とは何が違うのかな。」


この疑問は、エミリアの心にずっと残り続けた。

そこで彼女は、エルセリア教団の炊き出しを手伝いながら、人々と直接触れ合い、彼らの苦悩に耳を傾けた。

また、仲間であるアイリス・ミストから学んだ薬草学や衛生学の知識を活かして、怪我をしている者たちの簡単な治療も施した。

同行していた大臣の部下はヒーリングの能力はくれぐれも使わないようにと念を押された。


治療を受けた難民たちは感謝し、エミリアに穏やかな微笑みを向けた。


だが、その背後には、再び戦火に巻き込まれるかもしれないという恐怖と、生活の先行きが見えない不安が滲んでいた。


次にエミリアたちが向かったのは、帝国の物流の要である湾岸地域だった。

そこは戦争の影響をあまり受けておらず、活気に満ち溢れていた。

商人や労働者たちが忙しなく行き交い、船が港にひっきりなしに出入りしていた。


「ここは賑やかね」とエミリアは思わず呟いた。


しかし、その賑やかさの裏側では、度々争いが起きていることに気付いた。

喧嘩の原因はさまざまだが、多くは仕事を求める人々が溢れ、仕事の取り合いや権利を巡っての争いが絶えないのだという。


「この国では、豊かな部分と貧しい部分の差が大きいわね」とエミリアは考えた。地方都市では貧困に苦しむ人々が多い一方で、湾岸地域や中央部では仕事や商売が活発だ。だが、その繁栄の陰には、競争と格差が激化し、権利や生存を巡って争いが絶えない現実がある。


同行していた大臣の部下が説明した。

「センチュリア帝国は、その広大な領土と四方に位置する属国を統治するため、非常に複雑な経済システムを構築しています。」各地域の経済特性について話し始めた。「特に、北部と南部の経済格差が顕著です。」




大臣の部下によると、北部は物価が非常に高い傾向にあり、反対に南部は物価が安い。この大きな差は、地理的な条件や生産能力の違いから生じている。しかし、センチュリア帝国はこの格差が大陸全体に不安定な影響を与えないよう、流通を中央で調整しているという。




「例えば、南部で生産された農産物や飼料は、北部へと輸送される際に中央で関税が課せられます。その関税は意図的に高く設定されており、南部の安価な商品が北部で販売される際に価格が吊り上げられ、全体的な価格が均衡するように調整されています。」




エミリアは大臣の部下の説明に耳を傾けながら、センチュリア帝国がいかに精緻に経済を管理しているかに感心した。




「さらに、私たちは農作物の生産量に応じて経済対策を講じています。豊作の年には、価格が急激に下がらないようにするため、輸出を制限したり、余剰分を備蓄するために助成金を投入します。また、不作の年には、食糧不足による価格の高騰を防ぐために、輸入を増やしたり、価格を安定させるための補助金を提供しています。」




エリシアは大臣の部下の説明を聞き終えると、静かに頷きながら言った。「このような精緻な調整があるからこそ、センチュリア帝国は大陸全体の経済を安定させることができているのですね。しかし、それには莫大な労力と資源が必要でしょう。」




大臣の部下はその指摘に同意しつつも、「そうです。しかし、このシステムがなければ、各地域の経済格差はさらに拡大し、大陸全体が不安定になる危険性があります。」と答えた。


エミリアは大臣の部下の話を聞きながら、センチュリア帝国が如何に精密に統治と経済運営を行っているかに感心していた。広大な領土と、地理的・経済的な多様性を持つ属国を抱える帝国において、これほど複雑なシステムを構築するのは並大抵のことではない。


「北部と南部の格差が顕著とはいえ、帝国の統一的な政策で何とか均衡を保っているのですね」と、エミリアは考え深げに呟いた。大臣の部下が説明した、意図的に高く設定された関税や、豊作・不作に応じた助成金や輸出制限など、すべてが帝国全体の安定を維持するために慎重に計画されている。


「ただ、それでも地方の貧困が目立つのはなぜでしょうか?」エミリアはさらに問いかけた。


大臣の部下は少し顔を曇らせながら答えた。「確かに、我々の政策である程度の安定は保っていますが、全ての問題を解決できるわけではありません。特に地方では、交通の便が悪い地域や、生産力が低い場所がまだ多く存在します。また、中央の政治的・経済的な力が集中しているため、地方には資源や支援が十分に行き届かないこともあります。」


「なるほど」と、エミリアは納得したように頷いた。「地方の格差を埋めるには、もっと包括的な取り組みが必要ということですね。」


大臣の部下は同意し、「そうです。しかし、帝国は引き続きその改善に取り組んでいます。特に、北部の寒冷地や山間部での新たな鉱業開発など、地方に雇用を生み出す計画も進行中です。いずれ、地方にもより多くの経済的恩恵がもたらされるでしょう」と付け加えた。


その後、エミリアは帝国の物流の拠点である港を見渡しながら考えた。物流が活発な地域でさえ、労働者たちの間ではしばしば争いが絶えない。その原因が、単に仕事の奪い合いだけでなく、格差や中央と地方の経済的不均衡にも根ざしていることがわかってきた。


「この国の未来は、どうなるのでしょうか?」とエミリアは心の中で問いかけた。強大な帝国であっても、その内側にはまだ多くの課題が残っている。彼女は、自分の力がどのようにこの大きな国の中で役立つのかを考え始めた。


やがて、夕暮れの中で船の帆が静かに揺れる港を後にして、エミリアたちは再び中央部に向かうこととなった。



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