第49話 姉弟の絆(挿絵あり)
オイスタはエリシアの命令を受けて、すぐさま闇の魔眼移植士を呼び寄せた。
その男は、漆黒のマントに身を包み、顔を覆う仮面の隙間から不気味な光を放っていた。
魔界ではその名を知らぬ者はいないと言われるほどの存在で、魔眼の移植を専門とし、数多くの魔族たちにその強力な目を与えてきた。
「これはこれは魔王エリシア様、ご機嫌麗しゅうございますか?」
「最悪よ、あなた達がいちいち魔王とか言うせいで、私が必死に活動しているのが馬鹿らしくなっちゃうわ!」エリシアは怒りは溜まっていた。
闇の魔眼移植士は渋い顔をして
「わが魔王はエリシア様のみでございますので、その敬称を省くことは不敬でございます。魔王エリシア様の信望者ゆえに、自由こそ魔王エリシア様にふさわしいのです。」
エリシアは特定の魔族に慕われいた。
「もう、いいからこの子の右目に魔眼の移植をお願いするわ。
」エリシアは諦めた。
移植士は無言のまま、鋭い視線でディレードを見つめ、彼の状態を見極めているようだった。
「魔眼か…」ディレードは苦々しい思いを抱きながら呟いた。
彼は剣士としての誇りを持っていた。
身体の一部に魔の力を宿すという行為が、どこか自分を裏切るように感じられていた。
しかし、今の彼に選択肢はなかった。
右目を失ったままでは、戦士としての力は半減する。
エリシアの側近として戦い続けるためにも、この移植は避けられない運命だった。
「剣士に合う魔眼を頼む。」
ディレードは低い声で言った。移植士は無言で頷き、彼の言葉を無視するようにいくつかの小箱を取り出し始めた。
それぞれの箱には、魔眼がぎっしりと詰められており、淡く光るものや、赤く輝くもの、さらには黒い霧のように不定形のものまで様々だ。
「剣士には、力強さと視界の広さが重要です。こちらの魔眼はいかがですか?」
移植士は、青白く光る一対の眼球をディレードに見せた。「この魔眼は“雷霆眼”と呼ばれています。稲妻のような動体視力を得られるとともに、敵の動きを予見する力を宿しています。」
ディレードはその魔眼に視線を向けた。見た目は静かで美しいが、その奥には強大な力が潜んでいるのを感じた。
彼は少し躊躇したが、覚悟を決めた。
「それにしてくれ。」
移植士は半日ほどかかると言い小屋の奥のベットで手術の準備を始めた。
彼は死んだ魔族や魔物から魔眼を保存してコレクションする癖があった。
魔眼は呪いの1種で、生きている状態で抜くと
死んでしまうため、取引を持ちかけて予約したり、移植の手術を請け負っている。
エリシアはしばらく、タコの魔族オイスタと
魔界の現状と、ゼネガルの地上進行具合を
聞いてみたが、やはり元始天帝ミネアの存在のおかげで、頓挫していたようだ。
その為、エリシア暗殺計画が持ち上がったのだろう。
「しかし、エリシア様、おいらが失敗したとなれば第2、第3の刺客が送り込まれると予想されると…」オイスタは今後の予想として喋った。
「まぁ、その為にディレードを本当に護衛役として裏切らないために、彼の姉も呼ぶわけよ。」エリシアは自身の力、神威の権能と魔王の力を持ってしても、接近戦はイマイチだった。
そこに魔眼をもった魔剣士ディレードなら
十分すぎる戦力になると考えた。
話しているうちにディレードが出てきた。
移植の方は成功したようだ。
ディレードに感想を聞いてみた。
痛みは感じなかったが、彼の視界が一瞬で暗闇に包まれ、次の瞬間には世界が雷光に照らされるように鮮やかに広がった。
すべてが以前よりも鮮明に見える。
敵の動きだけでなく、風の流れや周囲の環境の変化さえ感じ取れるような気がした。
「どう?」エリシアが問いかけた。
ディレードは静かに目を閉じ、次に開いた時には新たな決意が宿っていた。
「完璧だ。これで、どんな敵でも見逃すことはない。」
彼の声には、自信と覚悟が混ざっていた。
エリシアは満足そうに微笑んだ。
「それでいいわ。これからはその目で、私の道を切り開きなさい。あなたが必要になる時がもうすぐ来るわ。」
ディレードはその言葉に深く頷いた。
彼はこれから、エリシアの剣として、魔界の混乱の中で戦い続ける運命を背負っていた。
しかし、その運命を受け入れる覚悟が、今の彼にはあった。
そして、その覚悟を支えるのは、右目に宿った新たな力――雷霆の力だった。
建物の奥から、静かな足音が響いた。その音を聞いてディレードは振り返った。
そこに立っていたのは、数年ぶりに見る姉――メリアだった。彼女は細身で、緑色の髪が静かに揺れ、瞳には心配そうな光が宿っている。
長い旅路を越えてきたような疲労感がありながらも、その面影は当時のままだった。
「ディレード…?」メリアはそっと彼の名前を呼んだ。
その声は微かに震えていたが、懐かしさと安堵が溢れていた。
「メリア…」ディレードは一歩前に出たが、言葉が続かない。
彼は何を言うべきか迷っていた。
何年も離れ離れになり、互いの人生はそれぞれの道を進んでいた。
しかし、目の前にいるのは確かに彼の姉だ。
その事実が、今、全ての感情を押し寄せさせた。
メリアは近づいてきて、ディレードをじっと見つめた。
彼の顔に浮かんでいる傷跡や、右目に宿る異様な光――それが彼が経験した過酷な戦いの証だった。彼女は震える手で弟の顔に触れ、微笑んだ。
「ずっと心配していたのよ…無事でいてくれて、本当によかった。」
ディレードはその言葉を聞いて、ようやく姉の手を握り返した。強く、だが優しく。
「姉さん…俺もだ。会えて嬉しい。」
その瞬間、二人の間には静かな再会の温もりが広がった。
時が流れ、別々の道を歩んでいたが、家族の絆は途切れていなかった。
「でも、どうしてここに?」ディレードが尋ねた。
彼はメリアが地上の領域にいることが理解できなかった。
彼女は魔力を持たない“マナレス”であり、魔族共からの取引材料としてディレードが汚れ役を買ってでた。
メリアは少し困ったような表情を浮かべたが、すぐにその表情を引き締めた。
「私がここに来たのは、大陸縦断列車の建設を完遂させるためよ。
バモスカラ大陸での鉄道建設を手伝っていたんだけど、その技術をさらに発展させるためには、私の技術が必要だったの。エリシア様に協力を仰いで、この場所に来たのよ。」
エリシアが軽く笑いながら会話に加わった。「彼女は本当に有能よ。あなたが知らない間に、彼女は魔界で大きな足跡を残してきたの。」
ディレードは驚きを隠せなかった。自分が知らぬ間に、メリアがこれほど大きな役割を果たしていたとは。
「そうだったのか…でも危険じゃないのか?魔族の監視の中で生きるのは、簡単なことじゃないはずだ。」
メリアは少し微笑んで答えた。
「そうね、でも私は技術者だから、力がなくても知恵と工夫でここまでやってこれたわ。それに、エリシア様がずっと支えてくれたから安心だったの。」
ディレードはそんな姉の強さに、今さらながら感服した。
そして、自分もまた彼女のように強くならねばならないと感じた。
「俺も、これからは姉さんを守る。何があっても。」
メリアはそんな弟の言葉に微笑んだが、その瞳には何か別の思いも潜んでいるようだった。
「ありがとう。でも、今はお互いにやるべきことがあるわね。あなたはエリシア様の側で戦い、私は技術を広めていく。それが、私たちに課せられた運命なのかもしれない。」
二人は静かに頷き合った。
再会の喜びと同時に、彼らは再び別の道を進むことを理解していた。
しかし、今度は互いの存在を感じながら、同じ世界で戦い続けることができる。その事実だけでも、二人には十分だった。
そしてエリシアはその様子を静かに見守りながら、口を開いた。
「これで私たちは一つね」とエリシアが微笑んだ。
魔眼移植士はもとよりエリシア派だったので
「魔王エリシア様のご意思のままに…また魔眼が必要であれば、及びください。そして飢饉の魔眼を情報をお忘れなく。」
オイスタもまた、その場で忠誠を誓った。
「おいらも誓うです、エリシア様。ゼネガルの奴が何を企んでいるか、全部お教えします。そして…チクってやるです!」
その言葉に、少しばかり緊張感が緩んだが、誰も笑わなかった。
オイスタの裏切りは、この陰謀を崩壊させるための鍵となるかもしれないのだ。
「ミネアが動いてくれるだろう」とエリシアは静かに呟いた。
彼女は信頼していた。
ミネアの冷徹な判断力と強力な力があれば、ゼネガルの策謀を抑え込むことができるだろう。しかし、エリシアには自らの手でその終わりを見届ける時間がない。
エミリアとの旅を再開し、世界を旅する計画が彼女を呼んでいた。
「さあ、時間がないわ。ゼネガルの動きを監視しながら、私たちは次の手を打つ準備を整えましょう」とエリシアは冷静に指示を出した。
ディレードとメリアは頷き、彼らの新たな旅路が始まった。
それぞれが抱える思いは違えど、彼らは今、エリシアの下で一つの目的に向かって進んでいく。それはゼネガルの陰謀を打破し、エリシアが新たな旅に出るための道を切り開くことだった。
そしてエリシアは心の中で静かに願った――早くエミリアと合流し、また共に旅を続ける日が訪れることを。彼女の心には、すでに次の冒険の風が吹いていた。
整備士メリアが仲間に加わった。




